第34話 進め、武蔵野ジャイアンツ

「もう、帰ろうか・・・。見てるとだんだん暗い気持ちになってくるよ。」

球児と大輔が弱音を吐く。『札幌テクノバスターズ』戦の勝利の余韻が尽きてしまっ

たようだ。だがヒトミは許さない。鬼だ。

「何言ってるの。次の試合の勝者が私たちの次の相手よ。一番大事な試合なんだから

ね。」


実況:さぁ、本日の最後の試合です。『大阪韋駄天タイガース』×『千葉レッドイー

  :グルス』。ベスト8の最後のチケットを得るのはどちらのチームか。


 先行は『千葉レッドイーグルス』だ。『大阪韋駄天タイガース』のメンバーが守備

に散らばっていく。あれ、外野に動きがある。


実況:『大阪韋駄天タイガース』の立花三兄弟、あだ名はウルトラ三兄弟。試合開始

  :でおなじみの『ウルトラレア』の宣言だ。


■ライト   「守備スキル ウルトラレア 超神速」

■センター  「守備スキル ウルトラレア 超神速」

■レフト   「守備スキル ウルトラレア 超神速」


『大阪韋駄天タイガース』の外野の三人の周りに無数の黄色い光の玉が現れて。一斉

に三人の中に飛び込んでいく。全ての球が吸収された後に超新星爆発のような発光が

あった。秀樹は眩しくて思わず目を閉じた。しばらくして目が落ち着いたところで目

を空ける。スコアボードの『スキルカード』の解説を読む。


『超神速』

 ・一試合に一回のみ使用可

 ・宣言以降のプレイは全て『神速』のかかった状態となる

 ・宣言後は他の守備スキル・走塁スキルを使用することができない

 ・この『超神速』ではスタミナを消費しない

 ・『破壊(ブロークン)』の抽選の対象になるのは最初の宣言時のみ

 

 三石が悲鳴を上げる。

「うわぁ、試合中に全て『神速』の使用状態になるのか。それも外野全員。もぉ、

ホームランじゃなきゃ点が取れないんじゃないか。」

 球児だけは興味深々だ。

「うわぁ、こんな『スキルカード』もあるんだ。僕、絶対ほしい。」

 秀樹も頭を抱える。

「同一チームの外野三人が同じ『ウルトラレア』を持っているなんて。どんな確率を

引けばそうなるんだ。」


 ゲームは『大阪韋駄天タイガース』の一方的な試合となった。守備では外野が水も

漏らさぬ完璧な守り。攻撃では高速な足で内野をかき回す。


実況:試合終了。0対8で『大阪韋駄天タイガース』の勝利だ。これでベスト8の

  :チームが決定しました。なお、『大阪韋駄天タイガース』の次回の対戦相手

  :は『武蔵野ジャイアンツ』だ。


『大阪韋駄天タイガース』の早送りのような試合を見て『武蔵野ジャイアンツ』のナ

インはすっかり意気消沈してしまった。

「なんだか『ブラックアイズ』や『札幌テクノバスターズ』が可愛く思えてきた。」

秀樹は思わず口走る。そんな秀樹を三石が励ます。

「俺たちが強くなったって証拠さ。相手の大きさが理解できるようになったってこと

だろ。」

「そうそう。なにより、俺たちに失礼だろう。」

後ろから急に話しかけられた。慌てて秀樹は振り向く。そこには『ブラックアイズ』

の黒田兄弟がいた。


「あ、黒田のあんちゃんたち。来てたのか。」

「ああ、お前たちを応援にな。やったじゃないか。初出場でベスト8入り。さすが俺

たちを破ったチームだな。自慢していいぞ。」

「うん。そうなんだけどね。」

『武蔵野ジャイアンツ』のナインは他の強豪チームの強さを知って覇気がない。

「おいおい、相手が強いのは当たり前だろう。大丈夫。お前たちだって自分じゃ気が

付かないかもしれないが、凄く成長しているぞ。」

秀樹たちに少し笑顔が戻った。

「ありがとう。ただ、さすがに上位チームを見ると気後れしちゃってさ。」

「まったく。派手に負けてもかまわないってのがお前たちの自慢だろう。その程度で

ビビッてちゃダメだぞ。俺たちの分も頑張ってもらわないと。それとお前たちにお客

さんを連れてきたんだ。」


 黒田兄弟の後ろから親子連れが出てきて秀樹たちに話しかけてきた。

「急にごめんなさい。貴方たちは『武蔵野ジャイアンツ』のみなさんですね?。」

 三石が応える。

「はい、そうです。次の対戦相手の試合を見学していました。」

「実は息子が貴方たちのチームのファンなんですよ。よかったら握手してやってもら

えませんか。」

 母親の後ろから小学校低学年ぐらいの男の子が恥ずかしそうに出てきた。

「わぁい。本物だぁ。」

「この子はちょっとしたイジメにあって学校に行きたくないって言いだしたんです。

説得しても聞いてくれなかったんですけど、あなたたちと『ブラックアイズ』さんの

試合を見て元気を取り戻したみたいなんです。」

「うん、大きな相手にも負けずに立ち向かうのがすごくカッコよかったです。ボクも

がんばってまた学校に通っているよ。」

 横から黒田が秀樹に言う。

「お前たちのファンの1号だぞ。俺たちのプレイと違って、他人に勇気を与えるのが

お前たち『武蔵野ジャイアンツ』だ。胸を張って闘え。見ている人間は見ているもん

だぞ。後ろを見るな。前を向け。」

 自分たちの試合が他人に勇気を与えたのか。チームメンバーも笑顔を完全に取り戻

した。

「そっか、お兄ちゃんたちも頑張るから負けるなよ。」

「うん。」

秀樹と三石と少年の三人は固く握手をした。


 黒田兄弟と親子連れが離れていった。秀樹が言う。

「俺たちの試合で勇気を与えることもできたんだな。うれしいよ。」

「あぁ、これからもがんばらないとな。」

チーム全員を再度集める。三石が秀樹に指示する。

「じゃぁ、秀樹。最後にまとめてくれよ。」

「やっぱり言わなきゃダメなのかな。ひどく恥ずかしいんだけど。」

「あぁ、最後のお約束だ。大きい声で頼むぞ。」

 秀樹はチームメイトを前に拳を上げて叫んだ。

「俺たちの闘いはこれからだ。まだまだ勝ち進んでいくぞ!。」

「おおぉぉ。」


 小学生チーム、『武蔵野ジャイアンツ』の闘いは続く。次の勝利を目指して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴァーチャル・ナイン ミヤタ シゲトミ @miyata_sigetomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る