第33話 立ちはだかるライバル

 秀美が興奮して声を出す。

「うわぁ、外野の観客席ってこんなふうになってたんだ。こっちも本物みたいだ。」

秀樹は秀美を叱る。

「おい、遠足じゃないんだからな。大事な他のチームの戦力の分析だぞ。」

「わかってますよ。お兄ちゃんの意地悪。」

ライトの外野席に全員で並んで見学する。


 ヒトミが次の試合の説明をする。

「みんな。次は『シルバーゴッズ』×『ブルーポセイドン』の対決よ。『シルバーゴ

ッズ』は前回の優勝チーム。今回の『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントでも優勝

候補の筆頭よ。そしてエースの神谷選手は『ウルトラレア』を持っているわ。これは

説明するよりこのまま見た方が早いわね。」


 マウンドの神谷選手は両足を軽く開いて、右手の拳を天に突き上げた。『ウルトラ

レア』の宣言だ。


■ピッチャー 「投球スキル ウルトラレア ゴールデンナックル」 


 神谷選手の体から天空に金色の光の矢が放たれた。空に広がっていた雲に大きな穴

を開け、光の矢はそのまま天空へ消えていった。スコアボードに『スキルカード』の

効果の解説が現れる。


『ゴールデンナックル』

 ・一試合に一回のみ使用可

 ・宣言以降の投球は全て『ナックル』となり、他の球種を投げることができない

 ・この『ナックル』ではスタミナを消費しない

 ・『破壊(ブロークン)』の抽選の対象になるのは最初の投球時のみ

 

 秀樹はスコアボードの解説を見て驚く。投げる球が全部『ナックル』だって・・。

どんな試合になるんだ。

 対戦相手の『ブルーポセイドン』は『ナックル』に手も足も出ない。空振りとゴロ

を繰り返している。『シルバーゴッズ』の得点だけがスコアボードに刻まれている。

七回終了時に球児が気づく。

「おい、一人のランナーも出てないぞ。ここまでノーヒット・ノーラン・・・いや、

パーフェクトだ。これ、もしかしたら達成しちゃうんじゃないか。」

 まさか。強豪ひしめく、この『ヴィクトリー。ナイン』トーナメントで。秀樹たち

は声がでない。 


実況:さぁ、いよいよ九回です。スコアは0対4で『シルバーゴッズ』の4点のリー

  :ドだ。この回を抑えれば勝利だ。なお、投手(ピッチャー)の神谷選手はここ

  :までパーフェクトだ。『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントで初の完全試合

  :の達成がなるか。


 球場が騒めき出した。

「おいおい、残り三人だぞ。」

『ブルーポセイドン』もさすがに汚名を記録したくない。バッターは小振りになって

ボールに当てに行っている。内野ゴロが続く。


実況:ついに、ついにツーアウトまで来ました。神谷選手、完全試合まで後一人だ。

  :最後のバッターになるか?。九番バッターがバッターボックスにはいります。


■ピッチャー 「投球スキル ウルトラレア ゴールデンナックル」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン ライン際のコントロール」


実況:あぁ、当たり損ねのサードゴロだ。これで完全試合だ。三塁手(サード)が

  :ボールを捕って・・おっと、ファンブルだ。ボールを掴みそこなった。さすが

  :に緊張してしまったか。急いで一塁手(ファースト)に投げるが・・。


□マザー  「判定:ファースト セーフ」


実況:残念。三塁手(サード)のエラーです。ツーアウト・一塁。神谷選手の完全試

  :合はなりませんでした。観客席からため息が響いている。惜しかった。残念で

  :す。


 『シルバーゴッズ』の三塁手(サード)が神谷選手に帽子を取って頭を下げている

が神谷選手は全く気にしていないようだ。良い人だなぁ。


■ピッチャー 「投球スキル ウルトラレア ゴールデンナックル」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:空振り三振。ゲームセットだ。神谷選手、パーフェクトは逃しましたが、ノー

  ;ヒット・ノーラン達成だ。すごい、すごいぞ。


 ヒトミが立ち上がってまとめる。

「これが、前大会の優勝チームよ。まだまだ余裕があって、『ゴールデンナックル』

以外の『スーパーレア』や『ウルトラレア』を出していないわ。今回の『ヴィクトリ

ー・ナイン』トーナメントでも優勝候補の筆頭ね。次は秀樹のお気に入りよ。」

 いきなり話が飛んできた。秀樹はヒトミに抗議する。

「なんだよ、お気に入りって。だからあの時は俺が抱き着かれたんだぞぉ。」

「どうだか。」

秀美と真子は横を向いた。とほほほ。


 次の試合が始まる。守備の『新宿アマゾネス』のナインがポジシュンに散らばって

いく。三石が秀樹に語り掛けてくる。

「うわぁ、やっぱり可愛いなぁ。全員女の子だ。ユニホームは色っぽいし・・。うち

のチームとは全然色気が違うなぁ・・・。」

秀樹は冷たい三人の視線を感じた。背筋が冷たくなる。

「やめとけ、三石。気持ちはわかるが後が怖いぞ。」


 試合が始まった。凄まじい打撃戦だ。それも一方的な・・。


実況:三回裏、『新宿アマゾネス』はこの回も猛打炸裂。なおもツーアウト・満塁

  :だ。さあ、バッターのリサ選手が打席に入った。


 リサは観戦している秀樹たちに気が付いたようだ。秀樹に投げキスをしてきた。

「げ・・・。」

「お兄ちゃん・・・」

秀美は秀樹を睨みつける。俺のせいじゃないのになぁ・・。


実況:打ったー。これも大きいぞ。バックスクリーンを直撃。満塁ホームランだ。

  :これで0対15だ。大きな差が付いた。


□マザー  「判定:本ゲーム コールド 後攻 『新宿アマゾネス』の勝利」


実況:なんと『ヴィクトリー・ナイン』トーナメント初のコールドゲームだ。三回で

  :終了だ。『新宿アマゾネス』強い、強すぎるぅ。


 あぁ、なんだこの人たちは。次元が違うぞ。これからこんなチームと闘うのか。秀

樹は軽いめまいを覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る