第3話 個別指導

 店長は秀樹を励ました。

「まぁ、カードの楽しみはデザインでもあるしね。皆の憧れの『スーパーレア』だ。

秀樹君たちが上級者になれば使うこともある。贅沢を言っちゃダメだよ。じゃあ、と

りあえず個別指導(チュートリアル)モードをやってみようか。」


「『バーチャル・ナイン』のプレイモードは3種類があるよ。」

①シングル(投手のみがプレイヤーで残り8人が代用(トークン))

②ハーフ(投手と外野三人がプレーヤー。残り5人が代用(トークン))

③フル(9人全員がプレイヤー)

「参加できる人数でモードを決める。とりあえず、『シングル』でやってみよう。」

 店長は説明を続ける。

「まず先・後攻の抽選。相手チームとの間に『ジャッジカード』が回転する。よし、

今回は先攻だね。このゲームは先攻が少し不利なため、先攻が仮想球場(ヴァーチャ

ル・スタジアム)の種類を選べるようになっている。基本の球場か、持っている『ス

キルカード』から選べる。とりあえず『県営球場』を選択だね。広さも環境も普通の

球場だ。」

 秀樹はさっき抽選された『スキルカード』の『フィールドカード』の『県営球場』

を選んだ。一瞬で球場が変化する。

「うわぁ、すごい。まるで本物みたいだ。お客さんは・・・全然いないみたいだね。

残念。」

「いまは個別指導(チュートリアル)モードだからね。試合になると増えてくる。

トーナメント戦とかになると満員だよ。実際に他のプレイヤーの試合を観客席で観戦

するモードだってあるんだよ。さぁ、バッターボックスに移動しよう。」


 次はおなじみのバッティングシーンだ。

「このゲームの大きな特徴は一人のバッターに1球しか投げない。1球が空振りなら

三振。見送りでボールならフォアボールだ。1球ごとに集中しないと大変だね。でも

そのおかげでゲームの進行のスピード感はいいよ。サクサク進む。操作はスティック

で振る位置を決めてボタンでスイングだよ。その時に『スキルカード』が使用できる

場合には画面に表示される。『スキルカード』は声で操作。言葉にすることで使用で

きる。ちょっと恥ずかしいけど大きな声ではっきりと。コンピュータに判断ができる

ように宣言しないといけないんだ。声が小さくて『スキルカード』が使えなかったら

大変だ。宣言ミスは取返しがつかない。」


 ピッチャーが投球の動作に入った瞬間、画面に『強打』カードと『ヒット30%』

が表示された。

「普通に振って打ってもいいけど、『スキルカード』を使用しない場合のヒット率は

10%ぐらいに設定されているらしい。せっかくだから『強打』を使ってごらん。声

で宣言。」

 なんだか声に出すのは恥ずかしい。まぁ、ゲームの仕様だから仕方ない。秀樹は大

きな声を出した。


■バッター   「打撃スキル アンコモン 強打」


 秀樹は『強打』を宣言した。画面にもう1枚の『スキルk-度』が浮かび上がって

回転を始める。

「相手の投手も『スキルカード』を使用するみたいだね。」


■ピッチャー  「投球スキル アンコモン スライダー」


「『スライダー』だね。実際の対戦モードではバッターがバットを振るまではカード

の『レアリティ』と『球種』は表示されない。今は個別指導(チュートリアル)モー

ドだから表示される。『空振り20%』だね。この場合はピッチャー・バッターのお

互いの『スキルカード』が影響を及ぼすんだ。ここからはテクニックの見せ所だ。ス

ティック操作とボタン操作。タイミングを図ってバットを振る。」

 ボールが迫ってくる。秀樹はホームベース上にボールが来た所で『打撃ボタン』を

押した。打球がレフトへ転がっていく。

「おお、当たった。当たった。ヒットだね。この場合はどちらのカードも希少性(レ

アリティ)は『アンコモン』で同じだったから影響具合は同じ。希少性が異なった場

合は上位のスキルが優先されやすい。例えば、『コモンカード』と『レアカード』で

は『レアカード』の方が優先されやすいんだ。」


 ノーアウト、一塁。次のバッターだ。練習モードだし、バントでランナーを二塁に

送ってみるかな。


■ピッチャー  「宣言無し」

■バッター   「打撃スキル コモン 送りバント」


「ピッチャーは今回は『スキルカード』を使用しなかったみたいだね。『スキルカー

ド』を使用しなかった場合は『宣言無し』と表示される。これはバットを振る前にわ

かる。さぁ、バントがうまくできるかな。」

 秀樹は打撃ボタンを短く押した。バットが途中で止まってバントの状態になった。

迫ってくるボールにスティックを動かして合わせる。

「当たった。でもピッチャーゴロだ。バント失敗だぁ。」

 ピッチャーは二塁手(セカンド)に投球。二塁はアウト。そのままボールは一塁手

(ファースト)に投げられる。秀樹の画面には『ヘッドスライディング』が表示され

た。成功率が+10%だ。秀樹は大きな声で宣言した。


■バッター  「走塁スキル アンコモン ヘッドスライディング」


「『ヘッドスライディング』だね。でも間に合わないか。ダブルプレーになった。あ

らあら。」

 さて、ツーアウトでランナー無し。それに使える『スキルカード』も無い。『スキ

ルカード』無しのタイミングだけでの勝負だ。


■バッター   「宣言なし」

■ピッチャー  「宣言なし」


 画面に『スキルカードが使用されません』と表示される。ボールが近づいてくる。

秀樹はスティックでコースを合わせてボタンを押す。「カン」と音がする。また当

たったぞ。だけどファーストフライ。スリーアウトでチェンジだ。


 見ている店長も楽しそうだ。

「じゃぁ、次は守備だね。さっきまでと違って今度はピッチャーの目線になる。操作

は基本的にバッターと同じ。投球に使える『スキルカード』があれば画面に表示され

る。いま使用できる『スキルカード』は『チェンジアップ』だけだね。『スキルカー

ド』が無くても基本的な球種のストレート、カーブ、シュート、チェンジアップを投

げることができるんだ。スティックで投げるときに指示する。『スキルカード』があ

れば宣言することで投球の切れ味を増したり、基本では投げられない変化球を投げる

ことができるよ。例えば『フォークボール』とかね。」

「じゃぁ、記念すべき初球はやっぱり『ストレート』だね。」


■バッター   「宣言なし」

■ピッチャー  「宣言なし」


 秀樹はレバーを上にしてボタンを押す。速い球が捕手(キャッチャー)に向かって

投げられる。バッターは空振り。画面に三振、ワンアウトと表示される。秀樹は最初

の店長の説明を思い出した。

「そっか、バッター一人に1球だったね。」

「うん。野球に詳しいほど間違えちゃうから注意だね。」

「次のバッターだ。せっかくだから『スキルカード』を使ってみようか。」

 秀樹は大きな声で宣言する。


■ピッチャー  「投球スキル コモン チェンジアップ」

■バッター   「宣言なし」


『チエンジアップ』。秀樹はレバーを下にしてボタンを押す。画面で遅いボールが投

げられたのが見える。バッターは空振りで三振だ。画面にツーアウトと表示される。

お、良い感じだね。


 あれ?。ふと秀樹は疑問を感じて店長に質問した。

「例えば『スキルカード』を使うカーブと使わないカーブはどう違うの?。」

「うん。良い質問だね。『スキルカード』を使った方がキレが良い。判りやすく言え

ば、空振り率が上がるってとこかな。もし、『スキルカード』と矛盾するレバー操作

をすると「投げ損ね」の判定になる。これは長打を受けやすくなる。焦って変な操作

をしないように注意だね。またこの『コモンカード』の『チェンジアップ』の『スキ

ルカード』は1回しか投げられない。同じ『チェンジアップ』でも『レアカード』で

は10回使える。使える回数が違うんだ。」

「そっか、同じ『チェンジアップ』にも投げられる回数で種類があるんだね。」

「言い忘れたけど、バッティングの時も基本同じだ。『バント』の『スキルカード』

を宣言してフルスイングしたら空振りになってしまうよ。」


 投球に使用できる『スキルカード』が無くなった。仕方ない。基本の球種で勝負。

レバーを右にしてボタンを押す。シュートだ。げ、画面に『スキルカード』が表示さ

れる。


■ピッチャー  「宣言なし」

■バッター   「打撃スキル レア 一本足打法」


 打者が『スキルカード』を使った。まずい。『レアカード』だ。「キーン」と音が

響く。打球が上空に舞う。実況が聞こえる。


実況:バッター打った。『一本足打法』だ。これは大きい。打球は伸びる、伸びる。

  :入った~。ホームランだぁ。


 あちゃ~。球場には花火が打ち上げられる。スコアの0対1が表示される。店長が

横で笑っている。

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