第2話 初期設定
ゲームコーナーに着くと、秀樹たちを店長が笑顔で迎えてくれた。
「秀樹君、ついに入ったよ。頑張って導入したよ。」
店長もうれしそうだ。
大きな操作機器(リクライニングチェアようなボディに両手先にレバーとボタンが
付いている)が9台並んでいる。『バーチャル・ナイン』をプレイする『コンソール
』と呼ばれる機械だ。他のゲーム筐体よりもかなり大きい。9台が並んでいる様子は
かなり迫力がある。
店長がみんなを前に説明を始める。
「始める前に一つ大きな注意があります。このゲームは『ヴァーチャル』の名前がつ
いているとおり、試合を疑似体験するシステムになっています。だから、例えば転ん
だり衝突したりすると体にショックが疑似的に発生する仕組みになっています。『ハ
イジャンプ』なんかのスーパープレイもできるけど、着地とかに気をつけてね。実際
にケガをするわけじゃないけど、場合によってはかなりのダメージを受けちゃうみた
いだからね。ショックで気絶しちゃったプレイヤーがいたっていう噂まである。」
9台の席にチーム全員で座る。秀樹が着席すると上半身に透明なスクリーンが覆い
かぶさってきた。ヘッドフォンが自動で装着された。防音の効果もあるのだろう。騒がしかった他のゲームの音も聞こえなくなった。小型のマイクも口元に伸びてきた。
スクリーンにゲーム画像が写し出される。ちょっとしたカプセルのような状態だ。画
面に「掛け声をお願いします」と表示されている。
「ヴァーチャル・イン!」
秀樹の掛け声とともにプレイが開始された。
まずはプレイするための『初期設定』の画面が表示された。秀樹はチーム全員に声
を掛ける。
「みんな、自分のポジションに設定だぞ。」
「秀樹、またピッチャーかよ。ずるいなぁ~。」
店内に笑いが広がった。
「さて、どうやるのかな。」
監督は秀樹の席をのぞき込んだ。店長が横から監督に説明する。
「はい。これは野球の試合を仮想球場(ヴァーチャル・スタジアム)で、ボタン操作
とレバー操作、声による『スキルカード』操作で野球をテーマにした試合ができるテ
レビゲームです。まず最初に初期設定でプレイヤーとチームの基本データを作成して
いきます。」
秀樹は既に操作を進めている。店長の説明を待っていられないようだ。
「名前は『秀樹』と。メインポジションは投手(ピッチャー)。サブポジションは右
翼手(ライト)に設定。最初はレベル1だね。」
画面に二つのバーが表示された。『スタミナバー』と『闘志バー』だ。監督は店長
に尋ねる。
「『スタミナバー』と『闘志バー』って何なんでしょう?。」
店長は画面を見せながら説明する。
「『スタミナバー』はプレイヤーの生命力です。ゼロになるとプレイヤーは試合から
排除されて代用(トークン)ていう自動プレイヤーに入れ替わります。代用(トーク
ン)は『スキルカード』を全く使わないコンピュータの自動プレイです。守備は基本
動作のみで、攻撃は三振がほとんどだから、そのチームの戦力が激減となります。だ
からスタミナが切れないように最終回までのペース配分が重要です。スタミナはプレ
イするごとに、また『スキルカード』を使うごとに消耗されます。通常は回が進む度
に少しだけ回復するけど気休め程度。通常の試合の流れなら延長戦の11回ぐらいで
スタミナがゼロになります。『スキルカード』を使うと更に短くなります。」
「なるほど。ロールプレイングゲームのライフみたいなもんですね。」
「ええ。もう一つの『闘志ゲージ』はピンチを乗り切ったりするとゲージが上がる。
ゲージが貯まると『闘志スキルカード』が使用できるようになります。必殺技みたい
なもんですね。」
「『スキルカード』って言うのはなんでしょう?。」
「このゲームの醍醐味のカードです。いろいろな場面においてゲームのプレイヤーを
補助してくれる。例えば『一本足打法』なんかで長打を狙うこともできるし、逆に『
ハイジャンプ』で空中に飛びあがり、ホームラン性の打球を取ることもできたりしま
す。プレイヤーの登録時に10枚が抽選されて与えられます。その後は1プレイごと
に1枚が抽選されて補充されます。まぁ、コモンとアンコモンがほとんどですが。た
まにレアカードと呼ばれる特殊なカードが抽選されることもあります。基本的には1
枚のカードは1試合に1回だけ使用できます。複数回使用できる例外のカードも沢山
ありますけどね。」
秀樹には少し難解だったようだ。ある程度は勉強したつもりだったけど・・。
「コモンとアンコモンって?。」
「カードの希少性(レアリティ)のことさ。下から、コモン、アンコモン、レア、
スーパーレア、ウルトラレアっていう五段階の希少性(レアリティ)がある。希少性
(レアリティ)が高いほど抽選されにくい。ウルトラレアなんて僕は見たことが無い
よ。」
画面に現れたカード抽選ボタンを秀樹は押した。画面に次々と10枚のカードが示
されていく。
『送りバント』・『カーブ』・『ハイジャンプ』・『神速』・『ヒットエンドラ
ン』・『スライダー』・『ヘッドスライディング』・『強打』・『県営球場』
9枚のカードが画面に表示される。残りは1枚。あれ、でもなにか様子が変だ。
「カードが光ってる。『フェニックス』だって。なんか凄そう。」
店長も驚いている。
「え。まさか。おぉぉ。『スーパーレア』だ。初期カードで選択されることもあるん
だな。初めて見たよ。」
秀樹は興奮気味だ。
「すごい『スキルカード』なの?。」
「うん。『スーパーレア』は200枚に1枚ぐらいしか出ないよ。でも『フェニック
ス』かぁ。微妙だね。秀樹君たちだとほとんど使用することはないと思うな。観賞用
カードだね。お守りで持っとくといいよ。」
「え~。絵や名前はカッコいいのにな。」
秀樹は少々ガッカリしたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます