第30話 満身創痍

 ベンチで秀樹は残ったチームメンバーに言った。

「これが最後の守備だ。スタミナの残は考えるな。外野は全員で内野の補助に回って

くれ。外野の守備は無しだ。」

 チームメンバーも予想はしていたことだ。だが、やはり不安になる。ヒトミが秀樹

に質問する。

「それって外野に打球が飛んだら・・・。」

 秀樹は顔をしかめて答えた。

「あぁ。ランニングホームランになる可能性が高い。『神速』でどこまで耐えられる

かどうかだ。基本的には外野にボールが飛べば、ただそれだけで俺たちの負けだ。で

も、やるしかない。」

 全員が黙って頷く。

「全力で一点を守り切ろうぜ!。」

「やるぞぉ。」

全員が応えた。


実況:さぁ、『武蔵野ジャイアンツ』、守備に散らばる・・・。が、外野には誰も行

  :かないぞ。全員内野の守備だ。三塁手(サード)のカバーに右翼手(ライト)

  :の真子選手が、遊撃手(ショート)のカバーに中堅手(センター)の中尾選手

  :が入った。代用(トークン)の3体のマネキンは内野の少し後ろに配置されて

  :いる。まさしく背水の陣となった。バッターボックスには五番・捕手(キャッ

  :チャーの冬樹選手が入ります。


『札幌テクノバスターズ』のベンチで白木がバッターボックスへ向かう冬樹に語り掛

けた。

「いやいや、『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントが始まって以来の状況だな。外

野の守備がなんて。ダメ押しを頼むぞ。」


 マウンドで秀樹はバッターの冬樹を睨みつける。ここからはまさしく綱渡りだ。


■ピッチャー 「投球スキル レア フォークボール」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:冬樹選手、打ったぁ。打球はライト方面に飛ぶ。もちろんライトには誰もいな

  :い。いや、二塁手(セカンド)の球児選手が少し後ろに下がっていた。『スキ

  :ルカード』が回転しているぞ。


■セカンド  「守備スキル アンコモン ハイジャンプ」


実況:球児選手、『ハイジャンプ』で飛んだ。当然捕球はもう無理だ。なんとかボー

  :ルには間に合ったが体で止めるのが精いっぱいだ。球児選手の真下にボールが

  :落ちる。秀樹選手、このボールを取って一塁手(ファースト)のヒトミ選手に

  :送球する。アウトだ。球児選手、ファインプレイ。あぁ、だが球児選手の頭上

  :にも代用(トークン)化のカウントが現れる。『武蔵野ジャイアンツ』、これ

  :で代用(トークン)は4人目だ。


 球児のスタミナもゼロになった。カウントダウンが終わり、球児の姿が消えていっ

た。マネキン姿の代用(トークン)に変わる。もう、二塁手(セカンド)のカバーが

できる選手もいない。内野も守備が保てなくなった。


実況:『武蔵野ジャイアンツ』、もう守備は崩壊直前だ。『札幌テクノバスターズ』

  :の勝利がもう目の前にある。『武蔵野ジャイアンツ』、守り切ることができる

  :か。次のバッターは六番だ。


 もう、ここからは奇跡を願うしかないな。秀樹はボールを握りしめて覚悟する。


■ピッチャー 「投球スキル レア フォークボール」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:バッター打ったぁ。再びライトフライ。だが守備は誰もいない。無人の空間に

  :打球が向かう。


■ファースト 「マルチスキル レア 神速」


 ヒトミが『神速』で打球を追う。打球の前に移動。だが、直接の捕球には間に合わ

ない。ヒトミは必死に転がるボールを追う。打者はその姿を見て一塁を蹴って二塁に

向かう。


■ファースト 「守備スキル レア レーザービーム」


 ヒトミはボールを取って、二塁のカバーに入った真子に『レーザービーム』でダイ

レクトの送球。二塁はクロスプレイだ。


実況:一塁手(ファースト)のヒトミ選手、懸命のライトカバーだ。『レーザービー

  :ム』で二塁手(セカンド)のカバーの真子選手にボールが渡る。二塁はクロス

  :プレイになる。判定はどうだ。どうなるぅ。


□マザー  「判定:セカンド アウト」


 秀樹は叫んだ。

「やった。ツーアウトだ。」

 あぁぁぁ、だが今のプレイでヒトミのスタミナも空だ。ヒトミも代用(トークン)

に変わっていく。残りは投手(ピッチャー)の俺、捕手(キャッチャー)の大輔、

セカンドカバーの真子、サードカバーの中尾の四人だ。後、アウト1つで俺たちの勝

ちだ。だがもう限界だ。もう一つのアウト。耐えられるのか。


 白木の焦りは頂点に達していた。なぜだ、なぜ崩れない。もう諦めて当然だろう。

なぜ、なぜ。どうしてまだ戦える。あと一歩。あと一歩の攻撃が届かない。歯がゆ

い。もう次のバッターが倒れればゲームセットだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る