第28話 勝利だけを目指して

 観客席の神谷は思わず息を飲んだ。

「いやいや、凄い壮絶な試合だな。」

リサも頷く。

「やっぱり私の目に狂いは無かったわ。私が見込んだチームだけのことはあるでし

ょう。えへん。」

「だが・・、この後はどうなる。そもそもこの『ヴィクトリー・ナイン』トーナメン

トで代用(トークン)が出たことが滅多にない。スタミナ切れを起こすようなレベル

の低いチームは、今まで参加すらできなかった。前代未聞だ。『ヴィクトリー・ナイ

ン』トーナメントで初のコールドゲームになるかもしれないよ。」

 リサはむくれる。

「なによ。勝負は最後までやってみないと分からないわ。『武蔵野ジャイアンツ』の

守備は九回を残すのみよ。耐え凌ぐことだってあり得るわ。延長戦は・・・絶対に無

理だろうけどね。」

「あぁ。だからこそ、この三番打者から始まる攻撃が最後のチャンスだ。何が何で

も1点を取りに行くしかない。」


実況:さぁ、ピンチを脱した『武蔵野ジャイアンツ』。八回裏の攻撃です。打順は三

  :番・投手(ピッチャー)の秀樹選手からの好打順。スコアは3対3の同点。た

  :だし、『武蔵野ジャイアンツ』は代用(トークン)化した選手がすでに二名。

  :他のメンバーもスタミナはかなり苦しい。まさしく餓えに耐えながらのプレイ

  :となります。


 バッターボックスを前に秀樹は考えた。次のバッターは三石の代用(トークン)だ

から、三振でワンアウト確定だ。得点を望むなら長打を打つしかない。『武蔵野ジャ

イアンツ』でスタミナがまだ残っているのは、『フェニックス』でスタミナを全回復

できた俺だけだ。無茶でもやるしかない。


実況:バッターボックスに三番投手(ピッチャー)の秀樹選手が入りました。さぁ、

  :白木選手、どういった投球になるか。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター  「打撃スキル レア 一本足打法」


実況:秀樹選手、『一本足打法』だ。『渾身のストレート』をジャストミート。打球

  :は左中間に転がった。レフト前ヒットだ。この回の先頭バッターの秀樹選手、

  :出塁を果たしました。これでノーアウト・一塁だ。だが、次のバッターは三石

  :選手の代用(トークン)だ。打撃はほとんど期待できないぞ。


 白木は笑みを浮かべる。『武蔵野ジャイアンツ』は打線にも穴が空いている。もう

、連打も不可能だ。可哀そうにな。もう『スキルカード』を使うまでも無い。


■ピッチャー 「宣言無し」 

■バッター  「宣言無し」


 白木が代用(トークン)に単調に投げる瞬間を秀樹は見逃さなかった。投球と同時

に二塁へスタートを切った。盗塁か。意表を突かれた白木は、捕手(キャッチャー)

の冬樹を見つめる。


実況:おおっと、ファーストランナーの秀樹選手、走った。『ヴァーチャル・ナイ

  :ン』では非常に珍しい盗塁だ。秀樹選手、走る、走る、走る。


■ランナー   「マルチスキル レア 神速」

■キャッチャー 「守備スキル コモン 鉄砲肩」


実況:バッターの代用(トークン)は空振りで三振だぁ。これで、ワンアウト。捕手

  :(キャッチャー)の冬樹選手が『スキルカード』の『鉄砲肩』で二塁手(セカ

  :ンド)に凄まじい送球だ。秀樹選手、苦しいか。再度秀樹選手の『スキルカー

  :ド』が回転する。


■ランナー  「走塁スキル アンコモン ヘッドスライディング」


実況:セカンドはクロスプレイ。秀樹選手の執念が実るか。冬樹選手の好判断が防い

  :だか。ここで判定は重要だ。


□マザー  「判定:セカンド セーフ」


実況:おお、セーフだ。これで『武蔵野ジャイアンツ』、ワンアウト・二塁だ。秀樹

  :選手は二塁ベースの上でガッツポーズ。スコアリングポジションにランナーが

  :進んだ。逆転のチャンスだ。だが、だが、『フェニックス』で『武蔵野ジャイ

  :アンツ』では唯一スタミナをマックスに補充した秀樹選手でさえスタミナが半

  :分を切った。


「あぁぁぁ。もうめちゃくちゃね。」

リサが神谷に話しかける。  

「どうなるか俺にも予想できないよ。ただ、『武蔵野ジャイアンツ』が勝つにはここ

で一点をもぎ取って、最終回を残ったメンバーで守り切るしかない。おそらく『スキ

ルカード』もほとんど残っていないんじゃないかな。」

「それって可能なの?。」

「今までの常識なら不可能だけど、この『武蔵野ジャイアンツ』の熱意は通じるかも

しれない。まさしく綱渡りだ。落ちたらそれまでだ。」

「がんばれぇ、『武蔵野ジャイアンツ』。」

リサは応援の声を上げた。

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