第26話 均衡

 観客席のリサは思わず神谷に抱き着いた。

「すごい、あの子たち。同点に追いついたわよ。」

神谷は静かにリサの頬に右手を当てて引き離した。

「あぁ、すごい攻防だったね。『武蔵野ジャイアンツ』がここまで強豪と闘えるのも

良くも悪くも駆け引きが出来ずに純粋に勝負に挑んできたからなんだろうね。」

「うんうん、スタミナの残りを計算していちゃこのプレイはできないよ。いいよね。

純粋な勝利を目指す気持ちって。」

「俺たちだったら惨めな負け方を自然に避けちゃうからね。でも現実は残酷だよ。結

果として彼たちの何人かは最後に力尽きる。見るも無残なコールド負けの可能性が高

くなった。彼らはそれを正しく理解していないんじゃないかな。」

「いいじゃない。届かなければ結局負けちゃうんだから。格好悪い負け方、大いに結

構。私は応援するけどな。小学生の段階でチマチマとプレイしたってしょうがないじ

ゃない。今しか許されない負け方だってあるんじゃないかな。」

「うん。ただただ勝利を目指す。俺たちも初心者のころにはそんな『ピュア』な気持

ちがあったよな。いまじゃすっかり忘れていたよ。」

「頑張れ、『武蔵野ジャイアンツ』。私は応援してるわよ!。」

リサは拳を前に突き出した。


実況:さぁ、七回表、『札幌テクノバスターズ』は六番バッターからの打順です。ス

  :コアは3対3の同点。ここで再度引き離したいところだが。


 やっと同点に追いついた。マウンドで秀樹はしばらくボールを見つめた。流れが

やっと『武蔵野ジャイアンツ』に来ているのがわかる。この流れを止めてはいけな

い。がんばらなくては。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:おおっと、空振りだ。三振、バッターアウト。流れは『武蔵野ジャイアンツ』

  :に向いたか。次のバッターは七番バッター。塁に出たいところだが。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター  「打撃スキル レア 天秤打法」


実況:当たったぁ。が、ファールゾーンに落ちそうだ。だが、左翼手(レフト)の秀

  :美選手はボールに向かって懸命に走る。


■レフト   「マルチスキル レア 神速」


実況:秀美選手、無理やり打球に飛びついた。あぁ、そのまま壁に激突だ。大丈夫

  :か。秀美選手、ボールを捕ったグラブを高々と上げる。ファインプレイだ。

  :これでツーアウト・ランナー無し。


 秀美はそのまま守備位置に戻った。大丈夫なようだ。無茶しやがって。秀樹も負け

てはいられない。ボールに力が入る。


■ピッチャー「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター 「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:バッター空振り、三振でスリーアウト・チェンジだ。秀樹選手、きっちり三人

  :で抑えた。


 白木はイラついている。俺の計算では『武蔵野ジャイアンツ』にはもう勝ち目がな

かったはずだ。なぜ、あきらめない。往生際の悪い奴らめ。


実況:さぁ、七回裏の攻撃。『武蔵野ジャイアンツ』は先ほどファインプレイを見せ

  :た九番・左翼手(レフト)の秀美選手からです。先ほどのプレイでのダメージ

  :は大丈夫でしょうか。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


 秀美は空振り。三振でアウトだ。白木も同点に追いつかれては六回のような隙を見

せない。余裕はすっかり無くなってしまった。


実況:さぁ、打順は一番・右翼手(ライト)の真子選手。クリーンアップに繋げたい

  :ところだが。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン カミソリシュート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン セーフティバント」


実況:真子選手、バントを狙ったが・・。だめだ、『カミソリシュート』に手が出な

  :い。空振り三振だ。ツーアウト・ランナー無し。『札幌テクノバスターズ』の

  :白木投手、『武蔵野ジャイアンツ』の反撃を許さない。次のバッターは二番・

  :二塁手(セカンド)の球児選手。先ほどの見事な走塁を再現することができる

  :ことができるか。


■ピッチャー 「投球スキル レア フォークボール」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:あぁ、ダメだ。空振り、三振。スリーアウト・チェンジ。白木投手、三者三振

  :だ。『札幌テクノバスターズ』、エースの調子が戻った。試合は均衡を保った

  :まま進みます。

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