第23話 奪われたフェニックス

 二塁上で白木がスタミナの切れた右翼手(ライト)の秀樹を見つめている。ニヤリ

と笑いながら呟く。

「さぁ、『フェニックス』の出番だ。『ダブルフェニックス』、『フェニックス』の

どちらを宣言するのかな。チームメイトが大事だったら『ダブルフェニックス』だよ

な。」

 秀樹は2枚の『フェニックス』を見つめる。ここは全員のスタミナの回復だ。『ダ

ブルフェニックス』を選択する。


■ライト   「闘志スキル ウルトラレア ダブルフェニックス」


 秀樹は右手を大きく横に振って『ダブルフェニックス』を叫んだ。二つの赤い竜巻

が天空に向けて伸びる。だが、その瞬間に二塁上の白木が続けて宣言した。


■ランナー  「闘志スキル ウルトラレア かすめ取り」 


 え、秀樹は動揺する。また知らない『スキルカード』だ。球場が一瞬で闇に包まれ

る。スコアボードから背中に大きな羽の生えた黒い悪魔の上半身が飛び出した。不気

味な笑い声が響く。秀樹から発生した二つの赤い竜巻は、そのまま白木に移動してい

った。

 球場の中央から二羽のフェニックスが現れる。だが、『武蔵野ジャイアンツ』のメ

ンバーに変化は見られない。なぜだ。秀樹は焦った。

 逆に『札幌テクノバスターズ』のメンバーの体が輝いている。スタミナを回復して

いるのは『札幌テクノバスターズ』のメンバーの方だ。


 秀樹はスコアボードの解説を見る。


『かすめ取り』

 ・一試合に一回のみ使用可(闘志スキルを100%消費)

 ・相手チームが使った直前の『スキルカード』の『所有権』と『効果』を奪う

 ・対象の『スキルカード』は使用者のデッキから削除される

 ・この『かすめ取り』のカードは使用後に『破壊(ブロークン)』する


 驚いて秀樹は自分のデッキを確認する。大事な『ダブルフェニックス』が消えてい

く。あぁぁ、俺の唯一の『ウルトラレア』が無くなってしまった。嘘だろう。呆然と

立ち尽くす秀樹。ショックだ・・。


〇マザー  「『かすめ取り』 ブロークン」


実況:あぁ、『札幌テクノバスターズ』は、まだ切り札を隠し持っていた。『ウルト

  :ラレア』の『かすめ取り』だ。秀樹選手が宣言した『ダブルフェニックス』の

  :『カード』と『効果』を奪い取った。これで『札幌テクノバスターズ』のメン

  :バーは全員がスタミナマックスとなった。再び右翼手(ライト)の秀樹選手の

  :頭上には代用(トークン)化のカウントダウンが始まった。


 呆然としている秀樹の頭上に再度デジタルの数字が浮かび上がる。落ち着け。幸い

闘志バーは残り50%だ。『フェニックス』が使える。けど、怖い。この『フェニッ

クス』さえ読まれているはずだ。これまで取られたら・・。不安にかられて、秀樹は

周りを見渡す。ナインが全員で自分を見つめている。全員のスタミナが苦しいんだ。

ええぃ。考えてもしょうがない。秀樹は右手を横に大きく振って宣言した。


■ライト   「闘志スキル スーパーレア フェニックス」


 再度、秀樹を中心に赤い竜巻が発生する。球場をフェニックスが舞う。無事に効果

が発動するのか。息を飲む秀樹。『札幌テクノバスターズ』に動きはない。今度は大

丈夫だったようだ。『武蔵野ジャイアンツ』のメンバーの体が輝いている。だが、回

復量は秀樹を除いて半分だ。あぁ、やられた。これが本当の『札幌テクノバスターズ

』の最初から企んでいた策だったんだ。


実況:秀樹選手、今度は『スーパーレア』の『フェニックス』を宣言。これで秀樹選

  :手のスタミナがマックスに、他のメンバーは50%まで回復。だが、『札幌テ

  :クノバスターズ』の全員のスタミナマックスにはかなわない。六回表、ツーア

  :ウト・二塁。スコアは3対0。『武蔵野ジャイアンツ』、まだまだピンチが続

  :く。バッターは五番・捕手(キャッチャー)の冬樹選手だ。『札幌テクノバス

  :ターズ』、さらに引き離すことができるか。


 真子は気を取り直して、バッターに向き合う。


■ピッチャー 「投球スキル コモン ストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


「カキーン」と快音が球場に響く。打球は三遊間を抜けそうだ。


■ショート 「守備スキル レア 神速」


実況:冬樹選手、打ったぁ。打球は三遊間に転がる。『札幌テクノバスターズ』、追

  :加点かぁ。おっと、遊撃手(ショート)のサスケ選手が『神速』を宣言だ。打

  :球の前に飛び出した。だがこのタイミングで捕れるのかぁ。


 無理だ。この時間では捕球できない。が、サスケは体の正面で打球を受け止める。

ボールをいったん落として拾い上げ、一塁手(ファースト)のヒトミに送球。間一髪

のアウトだ。

「サスケ。大丈夫か。」

 秀樹と三石がショートに走る。サスケは痛そうだ。

「まだまだだ。まだ負けられないよ。」

 二人はサスケの肩を叩いた。

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