第21話 スタミナ切れ

 観客席のリサが神谷に話しかける。

「『フェニックス』の少年。気が付いたみたいだけど、手遅れかな。」

 神谷が答える。

「う~ん。油断して2点も取られちゃったからね。『札幌テクノバスターズ』の戦法

はこのまま逃げ切ることだろう。」

「『札幌テクノバスターズ』って初心者チームにしては抜け目ないわね。」

「あれ、情報通のリサが知らなかったのか。あのチームは元々は強豪の『札幌フレイ

アーズ』だぞ。諸事情で解散して新しくチームを作り直したんだ。看板こそ新品だけ

ど、メンバーは古株ばかりだ。かなり強いぞ。」

「あら、知らなかったわ。じゃぁ、スタミナ対策もしてあるってことかな。」

「あぁ。当然していると思うぞ。内容はわからないけど。」

 リサの顔は少し曇った。


 試合は進んでいく。初回以降は投手戦となった。初回以外は両チームの得点は無し

でスコアボードにはゼロが並ぶ。最初の2点が重くのしかかってくる。


〇マザー 「『シュート』 ブロークン」


『札幌テクノバスターズ』の投手(ピッチャー)の白木の『スキルカード』が、また

『破壊(ブロークン)』された。これもなんだか変だぞ。秀樹は最初に店長から教わ

った説明を思い出す。

「相手に『ウルトラレア』や『スーパーレア』が多いほど『破壊(ブロークン』が発

生する。注意してね。」

 明らかに『破壊(ブロークン)』が多く発生している。『上級レアカード』を隠し

持っている可能性が高い。だが、それが何だかわからない。

 三石が秀樹に近寄ってきた。

「秀樹、次の六回から右翼手(ライト)の真子と投手(ピッチャー)交代だ。そろそ

ろお前のスタミナがやばい。右翼手(ライト)でタイミングをみて『フェニックス』

を頼む。チームのスタミナの回復をしてくれ。闘志バーは大丈夫か。」

「あぁ。もう満タンになった。いつでも行ける。」


実況:さぁ、回も進んで六回表だ。『マグマ・スタジアム』の影響で両チームのスタ

  :ミナがそろそろ底をついてきた。どちらのチームもこのままではスタミナがも

  :たない。どんな策があるのか。ここで『武蔵野ジャイアンツ』はピッチャー交

  :代だ。右翼手(ライト)の真子選手が投手(ピッチャー)に、投手(ピッチャ

  :ー)の秀樹選手が右翼手(ライト)に替わります。スタミナを温存するための

  :作戦でしょう。


 秀樹は思った。おそらく次の七回がスタミナ回復のタイミングだ。もうみんなのス

タミナがもたない。ライトからタイミングを図ろう。


実況:さあ、六回の表、『札幌テクノバスターズ』の攻撃だ。一番バッターからの好

  :打順だ。そろそろ追加点が欲しいところ。現在のスコアは2対0。『札幌テク

  :ノバスターズ』が2点のリード。


 真子はコースを丁寧に投げた。だが、相手に策があったようだ。


■ピッチャー 「投球スキル コモン ストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン セーフティバント」


 ボールが三塁線に転がる。三塁手(サード)の三石が走ってボールを取る。一塁手

(ファースト)のヒトミにボールを投げる。


■バッター 「走塁スキル アンコモン ヘッドスライディング」


 クロスプレイだ。マザーの判定を待つ。 


□マザー  「判定:セーフ」


実況:先頭バッターが出塁。ノーアウト・一塁。打順は二番に回ります。着実にラン

  :ナーを二塁に送るのか。強硬突破か。どうする、『札幌テクノバスターズ』。


 真子は少し悩んだ。ここで傷を広げると大変だ。


■ピッチャー 「投球スキル コモン シュート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打。」


実況:強攻だ。バッター打った。遊撃手(ショート)強襲。サスケ選手取れない。

  :ボールはレフト前に転がる。左翼手(レフト)の秀美選手。ボールを取るがど

  :こにも投げられない。ノーアウト・一塁・二塁だ。次のバッターは三番。ク

  :リーンナップだ。真子選手、ここを凌ぐことができるか。


『札幌テクノバスターズ』はスタミナを気にせずに攻めてくる。ただ、ほとんどの選

手のスタミナは大幅に減っている。次々のバッターの白木に至ってはほとんどゼロに

なっている。どうするのだろう。なにか手があるんだよなぁ。秀樹は相手の作戦を予

想できない。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン カミソリシュート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン バントエンドラン。」


実況:一塁・二塁のランナーが投球と同時にスタートだ。「コン」という音とともに

  :ボールは一塁線に転がる。一塁手(ファースト)のヒトミ選手。ボールを取っ

  :てベースカバーの真子選手に投げる。これもクロスプレイだ。判定はどうだ。

  :セーフならノーアウト、満塁だ。


□マザー   「判定:ファースト アウト」


 危なかった。秀樹はホッと一息ついた。だがまだ、ワンアウト・二塁・三塁のピン

チ。次の打者は四番・投手(ピッチャー)の白木だ。だが、彼のスタミナはもうほと

んど残っていない。嫌でもスタミナ回復は避けられないはずだ。秀樹は白木の行動を

注視する。

 え、たった今、白木の頭上にトークン化のカウントが始まった。白木のスタミナは

ゼロになった。助かった。結局は無計画に『スキルカード』を使用しただけだったの

か。これでカウントの終了まで待てば、白木は代用(トークン)に替わる。秀樹は投

手(ピッチャー)の真子に声を掛ける。

「真子、カウントがゼロになるまで投げるなよ。代用(トークン)になれば、こっち

のもんだ。」

 真子も理解している。カウントがどんどん下がっていく。10、9、8、・・・。

なにか策があるならここで使ってくるはずだ。


実況:あぁ。『札幌テクノバスターズ』のキャプテン、四番バッターの白木君がスタ

  :ミナ切れだ。頭上にトークン化のカウントダウンが始まった。何か策があるの

  :か。


 球場が静寂に包まれる。プレイヤーも観客も白木の頭上のカウントダウンを見守っ

ている。だが、なにも起こらない。白木はマネキンのような代用(トークン)に入れ

替わった。

 あっけない。なんだ、心配して損した。秀樹は思った。結局なんの策も無くスタミ

ナを消費していただけなんだ。『武蔵野ジャイアンツ』の緊張がほぐれた。代用(ト

ークン)相手なら二点差も問題ない。すぐに追いつける。

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