第20話 違和感

『ヴィクトリーナイン』トーナメントの二回戦。再び秀樹はマウンドに立った。『札

幌テクノバスターズ』の一番バッターが打席に入る。

 この『マグマ・ドーム』ではスタミナ消耗が激しいため、ほとんどの『スキルカー

ド』が使えない。相手チームのデッキに『フェニックス』などのスタミナ回復の『ス

キルカード』が言葉通りに無いのならば。しばらくはお互いに『スキルカード』無し

のスティックとボタンでの勝負だ。


■ピッチャー 「投球スキル 宣言無し」

■バッター  「打撃スキル 宣言無し」


実況:投手(ピッチャー)、秀樹選手投げた。『スキルカード』無しのストレート。

  :バッター空振り。ワンアウトだ。さぁ、この試合、『武蔵野ジャイアンツ』に

  :はスタミナ回復用の『スキルカード』がありますが、おそらく『札幌テクノバ

  :スターズ』には無いとの情報が入ってきました。どうなっていくのか。二番バ

  :ッターが打席に入ります。


■ピッチャー 「投球スキル 宣言無し」

■バッター  「打撃スキル 宣言無し」


 う~ん、秀樹は戸惑いながらも投球を続ける。


実況:バッター打った。ショートゴロだ。遊撃手(ショート)のサスケ選手。ゆっく

  :りと捕球して一塁手(ファースト)にボールを投げる。アウトだ。ツーアウト

  :・ランナーなし。


 前回の『ブラックアイズ』戦と違いって静かにゲームが進む。秀樹は少し拍子抜け

のようだ。う~む。静かな野球ゲームを望んでいたんだけど、これはこれでなんだか

物足りないなぁ。不思議なものだ。


実況:暑い球場とは違ってゲームはクールに進んでいます。次は三番バッター。

  :クリーンアップだが。この流れを変えることができるか。


■ピッチャー 「投球スキル 宣言無し」

■バッター  「打撃スキル レア 一本足打法」


 しまった。投球が単調になっていた。バッターは『レアカード』の『一本足打法』

を宣言。秀樹のストレートは読まれていたようだ。「カキーン」と快音を残して、

ボールはセンター上空へ向かう。中堅手(センター)の中尾が打球を見ながらフェン

ス際まで大きくバックする。


■センター  「守備スキル アンコモン ハイジャンプ」


実況:打球はセンター上空へ飛んだぞ。これは大きい。中堅手(センター)の中尾選

  :手、必死に後方に下がる。『ハイジャンプ』、スキルカードを使ったぁ・・。

  :だが、届かない。ホームランだ。『札幌テクノバスターズ』、先制点。1対0

  :だ。


 あら、いつの間にか点を取られてしまった。『マグマ・スタジアム』で赤くなった

球場に花火が上がっている。秀樹は不意を突かれて、あまり実感がない。むしろ相手

を心配している。

「『レアカード』なんか使って、スタミナが持つのかな。」


実況:続いてバッターは四番・投手(ピッチャー)の白木選手。バッターボックスに

  :入ります。


 単調な投球だったから狙われた。変化球も混ぜていかないとな。秀樹は反省した。


■ピッチャー 「投球スキル 宣言無し」

■バッター  「打撃スキル レア 一本足打法」


 秀樹の『スキルカード』無しのカーブはまたも読まれていた。


実況:再び『レアカード』の『一本足打法』だ。さっきと全く同じようにセンターに

  :ボールが飛ぶ。これも大きい。


■センター 「守備スキル アンコモン ハイジャンプ」


実況:中堅手(センター)の中尾選手、再度『ハイジャンプ』だ。だが、これもわず

  :かに届かない。連続ホームランだ。『札幌テクノバスターズ』、追加点。2対

  :0だ。


 再び球場に花火が上がる。秀樹は呆然と立ち尽くす。さっき聞いた『札幌テクノバ

スターズ』の会話を思い出す。

「『スキルカード』を使うなよ。」

 秀樹は我に返る。あれは嘘だったのか。俺、騙されたのか。いや、でもこのペース

ではスタミナが持たないはずだ。考えがまとまらない。秀樹は動揺している。相手に

スタミナ回復の『フェニックス』は無いはずだ。いや、それさえも嘘なのか。


実況:さぁ、『札幌テクノバスターズ』、連続ホームランで2点を先取しました。次

  :のバッターは五番・捕手(キャッチャー)の冬樹選手だ。


■ピッチャー 「投球スキル コモン ストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:ショートゴロ。遊撃手(ショート)のサスケ選手、一塁手(ファースト)の

  :ヒトミ選手にボールを送る。アウトだ。スリーアウト・チェンジだ。

  :しかし、先行の『札幌テクノバスターズ』、貴重な2点を先取だ。


 やっと攻守交替。秀樹はベンチに戻ってチームに詫びる。

「ゴメン、みんな。油断してた。」

チームのメンバーは誰も秀樹を責めない。むしろまだ安心している。

「あぁ、大丈夫だよ。あっちの『札幌テクノバスターズ』はスタミナ回復の『スキル

カード』を持っていないんだろう。それならスタミナ切れで、こっちの勝ちだ。うち

には秀樹の切り札があるじゃないか。『フェニックス』と『ダブルフェニックス』が

さ。」

 秀樹は自分の感じた違和感をチームに伝える。

「待ってくれ。どうもおかしいんだ。俺たちはその情報を鵜呑みにしていないか。も

し、もしも相手が『フェニックス』を持っていたら。」

 ベンチが静かになる。さっきまでの安心感が吹き飛んだ。

「まさか・・・。それじゃ、今の二点で負けちゃうじゃないか。」

 三石がメンバーに指示した。

「秀樹の話の可能性はある。たしかに相手は簡単に『スキルカード』を使ってきてい

る。スタミナ配分を考えるとなにか不気味だ。もともとこっちのチームには『フェニ

ックス』が二枚ある。スタミナは気にせずに『スキルカード』を使っていこう。手遅

れになる前にな。」

 先頭バッターの真子は表情を変えてバッターボックスに向かった。


実況:さぁ、今度は『武蔵野ジャイアンツ』の攻撃だ。先頭バッターは右翼手(ライ

  :ト)の一番バッターの真子選手。ピッチャー、白木選手投げた。


■ピッチャー 「投球スキル コモン ストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


 真子はボールを空振り。三振だ。やはり相手は平気で『スキルカード』を使ってく

る。なにか策があるんだ。


実況:ストライク。真子選手は空振り。三振でワンアウトだ。


〇マザー 「『ストレート』 ブロークン」


 真子はベンチに戻ってきて言った。

「うん。秀樹ちゃんの言うとおりでなんか変だよ。」

 チームに警戒感が広がる。


実況:次のバッターは二番・二塁手(セカンド)の球児選手だ。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン セーフティバント」


実況:セーフティバント。三塁線にうまく転がした・・。どうだぁ。際どいぞ。


■バッター  「マルチスキル レア 神速」

〇マザー   「判定 ファースト セーフ」


 やった。ワンアウト・一塁だ。だが、確信した。やはり『札幌テクノバスターズ』

は普段と同じように『スキルカード』を使っている。『マグマ・スタジアム』なんて

関係なしだ。俺が勝手に『スキルカード』を使用できないと判断して甘い球を連投し

て打たれただけだったんだ。秀樹は表情を変えて打席に立つ。俺が2点を取り返さな

いと。


実況:次のバッターは三番投手(ピッチャー)の秀樹選手。連続ホームランを浴びた

  :ショックは大丈夫か。白木選手、投げたぁ。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打。」


実況:あぁ、当たり損ねのショートゴロだ。遊撃手(ショート)が取って、二塁手 

  :(セカンド)、一塁手(ファースト)にボールが回る。ダブルプレイだ。ス

  :リーアウト・チェンジだ。


 あぁ、気持ちが空回りだ。だが、『札幌テクノバスターズ』が『スキルカード』を

全く気にせずに使っていることはわかった。こちらには『フェニックス』がある。相

手と同じように『スキルカード』を使用していこう。どうせスタミナ勝負なら、結局

は俺たちの勝ちだ。

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