第18話 次の対戦相手

 日曜日、『武蔵野ジャイアンツ』の監督とナインは抽選会場を訪れた。バイキング

方式のパーティのようだ。丸いテーブルが沢山並んでいる。

「うわぁ、凄い数の人がいる。」

「なんか新聞記者みたいな人もいるみたいね。ドキドキしちゃう。」

女の子三人が喋っている。監督が注意する。

「おいおい、遊びのパーティじゃないんだぞ。まず席に着こう。」

キャプテンの三石がテーブルを見つけたようだ。

「監督、ここが俺たちの席です。」

 丸いテーブルの真ん中に『武蔵野ジャイアンツ』の大きな立て札が立っている。

テーブルの周りにメンバーと監督の名札がある。まずは全員で自分の席に着席する。

秀美が真子に語り掛ける。

「真子、料理ってどうすればいいんだろう?。もう、お腹が空いちゃったよ。」

「たぶん、あそこの料理が並んでいるテーブルからお皿に取ってきたらいいんじゃな

いかな?。監督、取ってきてもいいですか。」

「ああ、いいぞ。他の人の迷惑にならないようにな。」

「は~い。じゃあ真子とヒトミさん、一緒に行こうよ。」

「オッケー。」

『武蔵野ジャイアンツ』のかしまし三人娘は目を輝かせながら料理を取りにいった。


 壇上に『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントの運営関係者が並んでいる。なんだ

か威厳を感じる。やっぱり、校長先生の話の時とは違うなぁ。大輔が少しビビってい

る。すごい威圧感を感じているようだ。

「なんか僕たちなんかが居てもいいんですかね。」

「ああ。俺たちは一回戦を堂々と勝ち抜いたんだ。安心して座っていろよ。」

大輔の肩を叩いた。

 秀美、真子、ヒトミの三人がトレイに乗せて全員の分の料理を持ってきた。こんな

に食えるのかな?。中尾とサスケが三人に礼を言う。

「ありがとう。でもすごい量だな。係の人に注意されなかったか。」

「サスケ、食えないなら俺が食うから大丈夫さ。こんなご馳走はめったに拝めないん

だ。頑張って食いだめしておこうぜ。」

 壇上のセンターにおいてあるテーブルにひときわ偉そうな人が座った。前に立って

いる司会の人が紹介する。

「では、『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントの実行委員長から挨拶があります。

しばらくご静粛にお願いいたします。」


「実行委員長の北斗です。この度は『ビクトリー・ナイン』トーナメントの一回戦突

破、おめでとうございます。全試合を観戦させていただきました。私も以前はカード

ゲームでたくさんの試合を戦ってきました。強者に勝利して飛び上がるほどうれし

かったこと、全く歯が立たずに帰って悔し涙をながしたこと。今でも人生の大いなる

糧となっています。望みますは皆さまにも勝っても負けても人生での良き思い出とな

りますよう『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントを運営・実行して行きたいと思い

ます。ぜひ、皆さまのご協力を賜れますようよろしくお願いいたします。」

 会場から拍手が溢れた。


 続いて司会の人が案内する。

「それではトーナメントの抽選を行います。各チームの代表で二名の方、壇上にお越

しください。」

 監督が指示する。

「じゃぁ、キャプテンの三石と副キャプテンの秀樹が行ってこい。」

「え、監督は行かないの?。」

「俺はこのゲームはさっぱりわからんからな。二人に任せるよ。」

 う~ん、大人のくせに無責任だな。仕方がない。秀樹と三石は緊張しながら壇上に

上がった。

 壇上には16チーム代表の32名が揃っていた。どいつもこいつも強そうだ。

「おにいちゃ~ん、頑張れぇ。」

秀美が声を掛けてくる。会場に笑いが広がる。抽選で頑張るもクソもない。まったく

もう。そこへ横のカーテンの奥から、大きな白い箱が壇上に運びこまれた。上部に大

きな丸い穴が開いている。ここからクジを引くのだろう。背後のスクリーンには大き

なトーナメントの表が映し出されている。チーム名の所に『A』~『P』までのアル

ファベットが振ってある。


「では各チーム、白い箱の中のボールを一つ引いてください。」

三石は白い箱の中へ手を突っ込んでボールを引いた。『A』だ。他のチームも次々と

引いていく。トーナメント表にチーム名が並んでいく。

 秀樹たちはトーナメント表を見る。俺たちの次の対戦相手、『B』を引くチーム

は・・。

『札幌テクノバスターズ』だ。うう~ん、聞いたことないなぁ。顔を合わせた秀樹と

三石の側に、二人のさっぱりした清潔感のある男子高校生が近寄ってきた。

「次の対戦の『札幌テクノバスターズ』のキャプテンの白木だ。こっちは副キャプテ

ンの冬樹だ。よろしくね。前回は黒田のチームですごい試合になってたね。僕らも観

戦していたけど見事な勝利だった。うちはフェアプレイで行くよ。正々堂々と戦おう

な。」

 おおぉ、さすが高校生。なんだか大人に雰囲気が醸し出されている。緊張して答え

る。

「はい、よろしくお願いします。」

秀樹と三石は深く礼をした。


 ん。秀樹は壇上の女子高生と目が合った。うわぁ、凄く可愛いお姉さん。髪型はツ

インテールでミニスカートから綺麗な足が伸びている。ふと目が合ってしまう。秀樹

は少し照れくさくなって下を向いた。

「わぁお、『フェニックス』の小学生だ!。」

彼女は可愛い声を上げて秀樹に近づいてくる。え。思わぬ展開に秀樹は動揺する。

「本物も可愛いぃ。」

彼女は秀樹の顔を胸に抱きしめた。秀樹は慌てて両手をバタバタさせる。顔が胸に挟

まって息ができない。でも秀樹も男の子だ。このラッキーに動揺しながらも喜んでい

る。

「きゃぁぁぁぁ。」

『武蔵野ジャイアンツ』の席から黄色い悲鳴が聞こえる。


 彼女はゆっくりと秀樹の顔を離して、首を傾けて秀樹に質問した。

「あら、彼女さんがいたのかな?。」 

「いえ、妹です。」

秀樹は顔が真っ赤になっている。

「そっか、よかった。君たちの試合には感動したよ。すっごくおもしろかった。でも

ぉ、試合中に泣いちゃダメだよぉ。男の子でしょ。」

 あれ、見られちゃってた。そっか、『バーチャル・ナイン』ではカメラでプレイヤ

ーの表情も反映するから見えちゃうんだ。今になって恥ずかしくなってきた。

「私は『新宿アマゾネス』の時緒リサ。もうベテランだからね。なにか困ったことが

あったら遠慮無くお姉さんに相談しなさい。」

秀樹は赤くなったままお辞儀をして急いで壇上を降りた。


 うう、可愛いお姉さんだ。さっきの感触を思いだし、さらに秀樹の笑顔が歪んでい

く。

『武蔵野ジャイアンツ』のテーブルに戻る。秀美がなんだかふくれている。

「これだから男って嫌よねぇ。ねぇ、真子。」

「うんうん、鼻の下伸ばしちゃってさ。」

監督が笑いながら秀樹に語る。

「よかったな、秀樹。気持ち良かったか?。くそ、うらやましい。」

「監督まで・・。」

 秀樹はため息を付いた。


 無事に式は終了。『武蔵野ジャイアンツ』のメンバーはバスで帰っていく。秀樹は

三石に訊ねた。

「結局、あの可愛いお姉ちゃんは誰だったのかな?。」

 三石は驚く。

「お前、知らずに抱き着いていたのか?。」

「いや、抱き着いたんじゃなくて、抱き着かれたの。勘違いするなよ。」

「あぁ、そうだったな。彼女は昨年の準優勝チーム『新宿アマゾネス』のキャプテン

だ。なんでも全員が女子高校生のチームらしいぞ。しかも、すげぇ強いらしい。」

「うわぁ、あんなに可愛いのになぁ。」

「きれいな花にはトゲがあるのさ。まぁ、気に入られたみたいだからいいんじゃない

か。ファンクラブまであるって聞いたぞ。」

「まぁ、高嶺の花ってことだね。」

 秀樹は少しがっかりした。


 次の週の学校にて。秀樹たちは昼休みに六年生で対策を練っていた。

「ヒトミ。次戦の『札幌テクノバスターズ』のデータは入ったか?。」

三石がヒトミに問いかけた。ヒトミは首を振る。

「全然。相手のチームもできたばっかりみたいなの。ただ、あんまり印象はよくない

みたいだよ。少しグレーって感じ。持っている『スキルカード』も平凡みたいなんだ

けど、隠し持っているタイプだね。」

「ふ~ん、意外だな。壇上で会ったときは随分と礼儀正しい感じだったけど。」

 秀樹は挨拶した時の感想を言った。横からサスケが意見をする。

「甘いなぁ、秀樹は。所詮このゲームは騙しあいさ。見た目のイメージだけで判断し

ていたら、痛い目に合うぞ。相手のデッキなんて戦うまでわからないんだから。」

「そうだな。」

三石が言った。

「とりあえずは日曜の二回戦までに各自のデッキを鍛えておいてくれよな。」

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