第17話 賞品の『スキルカード』

 はしゃぐ秀樹たちを前にして左京が悔しそうに言った。

「くっそー、初心者だと思って油断しちまった。」

右京が隣で左京の頭をグラブで叩く。

「みっともないことを言うな。俺たちの完全な負けだ。」

 左京に説教をした。右京は今度は秀樹に近寄ってきた。

「俺たちの完敗だ。俺たちは全力でぶつかって負けた。楽しかったよ。いい試合だっ

た。いろいろと失礼な発言をしてすまなかったな。」

秀樹は笑顔で返事をした。

「いや。すごく色々大変だったけど、すっげー面白かった。また、やろうね。右京兄

ちゃん。」

「ああ、よろしくな。頑張って優勝を目指せよ。」

 ホームベース前に両チームが並んで礼をする。試合終了だ。


 秀樹が呟く。

「あれ、なんか空中で『スキルカード』が回っている。」

 向かいの右京が答える。

「知らないのか、このトーナメントでは勝者のチームには『スキルカード』が1枚、

賞品としてもらえるんだ。まぁ、ほとんど『レアカード』なんだがな。ただ、相手の

チームで『スーパーレア』や『ウルトラレア』の『破壊(ブロークン)』があった場

合には、かなりの高確率でその『スキルカード』が与えられる。つまりお前たちの賞

品の『スキルカード』の中には『あれ』が含まれている可能性が高い。」

「もしかして、『あれ』って。」


『スキルカード』の回転が止まった。秀樹の目の前に『ウルトラレア』の『ダブルフ

ェニックス』が現れた。

「えぇ。やった。初めての『ウルトラレア』。しかも『ダブルフェニックス』だ。フ

ェニックスカードが2枚になったよ。」

 嬉しさのあまりに飛びあがる秀樹。右京が微笑む。

「よかったな。これでお前たちのチームにスタミナ勝負を仕掛ける相手は減るんじゃ

ないかな。」

「どうして?。」

「フェニックスカード2枚のチームににスタミナ勝負を挑んでも勝ち目無いだろう。

ただし、そこまで読んでデッキを組んでくるチームもあるから慢心するなよ。スー

パーレアやウルトラレアの手札を知られるのはすごく不利ことでもあるんだ。この試

合はネットで中継されているから『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントに参加して

いるチームの全てにバレているからな。」


 秀樹は納得して礼を言う。

「そうか。教えてくれてありがとう。」

 キャプテンの三石が叫ぶ。

「みんな、やったぞ。『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントの二回戦進出だぁ。」

全員が応える。

「おおおおぉぉぉ。」

『武蔵野ジャイアンツ』の辛く長いトーナメントの初戦が終わった。


 翌日に登校すると『武蔵野ジャイアンツ』が一回戦を突破していることが学校全体

に知れ渡っていた。秀樹たちはちょっとした英雄気取りになった。

「すっげぇなぁ。参加するのは知っていたけど、ボロ負けするって思ってたよ。」

「秀樹君、すごく恰好よかったよ。あの『フェニックス』を使うシーンなんてなんて

泣きそうになっちゃったよ。」

「もしかして、優勝とかも狙えるんじゃね。」 

「『白い流星弾』を破ったときは感動したぞ。」

クラスメートが次々と話しかけてくる。

秀樹たちは謙遜して答える。

「いやあ、たまたまだよ。運がよかったんだ。」

もちろん、本心ではない。実力で勝利をもぎ取ったと秀樹は思っている。


「秀樹、三石、この後のスケジュールは?。」

長身の女の子が秀樹たちに話しかけてきた。彼女は『武蔵野ジャイアンツ』の一塁手

(ファースト)で打順が七番のヒトミだ。マネージャーも兼ねている。六年生だ。秀

美、真子の五年生に姉のように親しまれている。他のクラスから遊びに来たようだ。

三石がヒトミに答える。

「『ヴィクトリー。ナイン』トーナメントの主催者から、一回戦を突破した16チー

ムを集めてトーナメントの抽選をやるって連絡があった。今度の日曜日だ。空いてる

か?。」

「私は大丈夫。じゃぁ、うちのクラスの中尾とサスケにも言っておくよ。」

 中尾は中堅手(センター)で打順は五番、サスケは遊撃手(ショート)で打順は六

番。決して忍者の末裔ではなく、すばしっこさから付いたあだ名だ。二人ともヒトミ

のクラスメートだ。

「じゃぁ、残りは五年生の大輔だけだな。クラスメートの秀美に伝えてもらうよ。」

秀樹は言った。大輔は捕手(キャッチャー)の八番バッター。五年生の唯一の男子

だ。よく秀美と真子にからかわれている辛い立場だ。いつも同情している。三石も続

けて発言する。

「保護者として監督にも同行してもらおう。連絡しておくよ。」

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