第15話 エース復活

 秀樹と三石はチームのメンバーの声を掛けた。

「いよいよ最終回だ。最後の踏ん張りだ。」

「ここまで来たんだ。必ず勝利しようぜ!。」

 みんな無言で頷く。ここからの攻守は俺たちには経験したことのない困難が押し寄

せてくるはずだ。チーム一丸となって乗り越えるしかない。


実況:さぁ、いよいよ最終回。『ブラックアイズ』の攻撃だ。一番バッターからの好

  :打順だ。三番捕手(キャッチャー)の右京選手、四番左翼手(レフト)の左京

  :選手の前にランナーを出すことができるか。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン カミソリシュート」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


『ブラックアイズ』も後が無い。ゲーム序盤の余裕の表情はすっかり消えた。バッタ

ーも必死に食らいついてくる。


実況:「カキーン」と打撃音が響く。ボールは三遊間を抜ける。ヒット。『ブラック

  :アイズ』。まずはノーアウトのランナーを出した。さすがにこのままでは終わ

  :れないぞ。さぁ、次は二番バッターだ。どう動く。


 真子も疲れが溜まっている。額を汗が流れる。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」

■バッター  「打撃スキル アンコモン セーフティバント」


実況:バッター、『セーフティバント』だ。ファーストランナー走る。ボールは一塁

  :線上を転がっていく。絶妙のバントだ。


 一塁手(ファースト)がボールを取る。ファーストカバーの投手の真子に投げよう

とするが、真子が途中で転倒。あぁ、これでは投げられない。 


実況:あぁ、ファーストカバーの真子選手、転んでしまった。一塁・二塁、どちらも

  :セーフ。ノーアウト・一塁・二塁。ここで迎えるは『ブラックアイズ』のクリ

  :ーンナップだ。三番の右京選手と四番の左京選手の強打者だ。『武蔵野ジャイ

  :アンツ』、大ピンチだ。

 

 右京はバットを強く握りしめた。奴も神経を集中している。真子も必死に投球して

いる。


■ピッチャー 「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」

■バッター  「打撃スキル レア ガニ股打法」


実況:右京君、打ったぁ。センター前ヒット。だが、あたりが良すぎて二塁ランナー

  :は三塁でストップ。今度は『ブラックアイズ』がノーアウト・満塁だ。ここで

  :バッターは四番・左翼手(レフト)の左京選手に打順が回ったぁ。左京選手は

  :まだ『白い流星弾』を一発残している。もう一度、右翼手(ライト)の秀樹選

  :手との対決があるか!。


 秀樹は思った。ここが最後の山だ。レフトの秀美のスタミナも苦しい。ここは『フ

ェニックス』でスタミナを全回復した俺がもう一度『白い流星弾』を取るしかない。

再度左京を思い切り挑発する。

「さぁ、もう一度『白い流星弾』を打ってこいよ。小学生に捕られたまま帰るつもり

か。恥をかかせるんじゃなかったのか?。お前は口先だけか。恰好悪ぃいい。」

 左京の表情に怒りが溢れている。すっかり冷静さを無くしている。

「あぁ、お前たちは本当に面倒臭い。とっとと泣いて逃げ帰れ!。」

 よし、かかった。秀樹は『ハイジャンプ』の準備をする。

 二塁手(セカンド)の球児もバッターの左京を見つめていた。右翼手(ライト)の

秀樹の挑発に乗せられる左京。僕もさっきと同じように『ハイジャンプ』で少しでも

ダミーボールを潰さないと。打つと同時に『ハイジャンプ』の宣言をしないと間に合

わない。あれ。でも、でも、なにかがおかしい。ライトを狙っているには少し角度が

変だ。嫌な予感がする。


■ピッチャー 「投球スキル レア フォークボール」

■バッター  「打撃スキル ウルトラレア 白い流星弾」


 球児は気が付いた。左京が狙っているのはライトじゃない。球児は準備する『スキ

ルカード』を『ハイジャンプ』から『神速』に切り替えた。


実況:バッター打ったー。『白い流星弾』、、だが、これは、これはピッチャー返し

  :だ。『白い流星団』が投手(ピッチャー)の真子選手に襲い掛かる!。


■セカンド  「マルチスキル レア 神速」


 『白い流星弾』のボールとダミーボールがピッチャーの真子を襲う。真子は恐怖で

動けない。真子の悲鳴が球場に響く。

「きゃぁぁぁ。」

 球児が『神速』で真子の前に出た。が、もう捕球はできない。球児は大の字になっ

て真子を庇う。二人とも後ろに吹き飛ばされる。全ランナーは既にスタート。サード

ランナーはホームイン。本物の打球は球児にぶつかってレフト前に転がる。秀美は

ボールを取って一塁手(ファースト)に投げるが間に合わない。


実況:あぁぁ。これは。『白い流星弾』がピッチャーに炸裂だ。二塁手(セカンド)

  :が投手(ピッチャー)の前に出てカバーするがボールは取れない。二人とも

  :ダミーボールの直撃をまともに被弾だ。後ろに吹き飛んだ。左翼手(レフト)

  :がボールを拾って一塁手(ファースト)に投げるが間に合わない。セーフだ。

  :『ブラックアイズ』、一点を返して同点。スコアは5対5だ。

  :しかもノーアウト・満塁が続く。『武蔵野ジャイアンツ』、絶対絶命だ。

  :被弾した投手(ピッチャー)の真子選手と二塁手(セカンド)の球児選手は立

  :てるのかぁ。


 左京は舌打ちして呟いた。

「仕留めそこなったか。」

 秀樹は夢中でマウンドへ向かう。真子と球児は大丈夫か?。マウンドには他のナイ

ンも集まっていた。妹の秀美が真子を抱きかかえ、球児はかろうじて自力で立ってい

る。真子が球児に礼を言う。

「球児君、ありがとうね。私、ボールが飛んできた時、どうすればいいかわかんなく

なっちゃって。動けなくなっちゃった。」

 球児は照れながら返答する。

「いや、間に合ってよかったよ。左京の動きが変だったからね。捕球は間に合わない

から少しでもダミーボールを僕で受け止めようと思ったんだ。でも、防ぎきれなかっ

たね。こっちこそゴメンな。」

 なんとか二人とも無事だったようだ。でも、スタミナを大きく消耗している。なん

であいつらはここまでして勝ちたいんだ。左京に叫ぶ。

「お前、相手チームの女の子ばかり狙って恥ずかしくはないのか?。」


 左京は平然と答えた。

「このヴァーチャルの世界で男も女もあるか。それにお前たちだって『黒い弾丸』の

『ブラックカード』を使っただろう。別にそれでいい。責める気などない。誰だって

勝ちたい。当たり前のことだ。ルールの中で勝ちたいだけさ。もう一度言おう。これ

は「野球」ゲームじゃない。「戦争」ゲームだ。「野球」ゲームがしたけりゃ家でテ

レビゲームでもやってるんだな。」

 悔しい。だけど、これがこの『ヴァーチャル・ナイン』のルールなんだな。秀樹は

唇をかみしめた。

 これで再びノーアウト・満塁。もう真子のスタミナでは投手(ピッチャー)は無理

だ。秀樹はキャプテンの三石に訴えた。

「もう、冷静になったよ。三石、俺に投げさせてくれ。」

三石は笑顔で返事をした。

「その言葉を待っていたよ。後は頼むぞ。」


 秀樹はマウンドに戻ってきた。少し足元を踏み固めて心を落ち着ける。さぁ、ノー

アウト・満塁だ。ここまで踏ん張ってくれた真子の努力。無駄にはできない。最初か

ら全力全開だ。


実況:試合再開です。『武蔵野ジャイアンツ』、ノーアウト・満塁のピンチが続きま

  :す。

  :なお、投手(ピッチャー)の真子選手と右翼手(ライト)の秀樹選手が再度の

  :守備位置の交換のようです。初回にノックアウトされた秀樹選手。汚名の返上

  :なるか。次は五番バッターだ。


■ピッチャー 「投球スキル レア 火の玉ストレート」

■バッター  「打撃スキル レア 天秤打法」


 自分の一番のお気に入りの『スキルカード』だ。残念ながら一枚しかない。使用す

れば必ず『破壊(ブロークン)』する使い捨ての『スキルカード』だ。だが、使用す

るなら今しかない。出し惜しみしている場合じゃない。


実況:ピッチャー、投げた。『火の玉ストレート』だ。ボールはまさしく火の玉とな

  :り、捕手(キャッチャー)に向かっていく。バッター、打ったぁ。あぁ、バッ

  :トがへし折れたぁ。秀樹選手の闘志がボールに乗り移ったようだ。そのまま捕

  :手(キャッチャー)のミットに収まった。これでワンアウト・満塁。


〇マザー   「火の玉ストレート ブロークン」


 秀樹は少し悔しい顔をする。お気に入りのカードの『破壊(ブロークン)』は辛

い。ええい、まだワンアウト。気持ちをバッターに切り替える。


実況:『武蔵野ジャイアンツ』、ピンチが続きます。秀樹選手、猛攻を押さえきる事

  :ができるか。

  :次のバッターは六番だ。『ブラックアイズ』はどう動く。


 秀樹はランナーの動きに違和感を感じる。スクイズだ。だが、満塁だ。このゲーム

ではウエストしてボールを外せばフォアボールになってしまうため、外すことは出来

ない。内野に前進守備を指示する。


■ピッチャー「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」

■バッター 「打撃スキル コモン スクイズ」


実況:満塁のランナーが一斉にスタート。スクイズだ。秀樹選手、投球と同時に前に

  :ダッシュ。バッターは当てたが三塁手(サード)の前に小フライになった。三

  :石選手はダイレクトには取れない。ワンバウンドになった。ホームは間に合わ

  :ない。一塁手(ファースト)にボールを投げる。これでツーアウトだ。『ブ

  :ラックアイズ』、再度引き離す。スコアは6対5で逆転。なおも、ツーアウト

  :・二塁・三塁。七番バッターの下位打線だが、ヒット一本で追加点だ。


 これでツーアウト。秀樹は一旦息をつく。アウトをもう一つ。これ以上、点をやる

訳にはいかない。


■ピッチャー 「投球スキル レア フォークボール」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:バッター、空振り。秀樹選手、ノーアウト・満塁のピンチを一失点で乗り切っ

  :た。小学生チームのエースが蘇った。スリーアウトチェンジ。だが、スコアは

  :6対5で再逆転された。『武蔵野ジャイアンツ』、再度『ブラックアイズ』に

  :追いつくことができるのか。いよいよ最終回の裏の攻撃です。バッターは七番

  :からだ。

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