第9話 ノックアウト

 秀樹は秀美に言った。

「秀美。お前はスタミナが今ので大きく減っている。お前はもうボールは取らなくっ

ていいから。座って休んでいるんだ。俺がなんとか押さえる。みんな、ポジションに

戻ってくれ。」

 秀美は静かに頷いた。チームのメンバーも覚悟を決めてポジションに戻っていく。


実況:『武蔵野ジャイアンツ』のナインが元のポジションに戻っていった。試合の

  :再開だ。さぁ、仕切り直し。ノーアウト・ランナー無しだ。


 俺が押さえなきゃ。外野には打たせない。秀樹は投球に力が入る。外角のコースを

ギリギリに投げ分けようとする。が、コントロールが定まらない。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打・・・・・」


 ダメだ。バッターは手を出さない。


実況:バッター、見送った。ボール。フォアボールだ。再びランナーが出る。

  :ノーアウト・一塁。秀樹選手、再びピンチだ。


 くそう。球が思うように投げられない。この大事な時に俺は何をやっているんだ。

秀樹は自分を責める。今度は内角を攻めるが・・。あぁ、内側に寄り過ぎた。


■ピッチャー 「投球スキル コモン シュート」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打×××」


 ボールはバッターを直撃。バッターはバットを落として痛みに座り込んだ。


実況:ピッチャー投げた。あぁ。デットボール。更にランナーが出る。ノーアウト・

  :一塁・二塁だ。秀樹選手、明らかに取り乱しているぞ。大丈夫か。


 あぁ。情けない・・。秀樹は泣き出しそうになった。二塁手(セカンド)の球児が

心配してマウンドまでやってきた。

「秀樹。なにやってるんだ。一人相撲じゃどうしようもないぞ。俺たちは9人でゲー

ムをやっているんだ。周りも信用しろよ。秀美ちゃんの仇を討ちたいのはお前だけじ

ゃないんだぞ。」

 笑顔で球児が語りかける。けれど、秀樹の心は折れる寸前だ。声が出ない。球児に

返す言葉が浮かばない。いつもの強気が嘘のようだ。


 見かねてキャプテンの三石もマウンドに来た。三石は秀樹の肩をポンポンと叩く。

だめだ。秀樹に元気が戻らない。三石はマウンドに全員を集めて意見を言った。

「冷静に判断しよう。まだ一回の表。しかもノーアウト・一塁・二塁だ。秀美ちゃん

のスタミナも大きく消耗している。それに秀樹は頭に血が上ってまともに投球できそ

うにない。ここは一旦ピッチャー交代にしないか。」

 恥ずかしい。ワンアウトも取れなかった。だが、たしかに三石の判断が正しい。た

だでさえ舞い上がって独り相撲。すこし頭を冷やした方がいい。秀樹も恥ずかしさを

耐えて発言する。

「申し訳ない。三石の言うとおりだ。誰かピッチャーのスキルを設定している奴はい

ないか?。」

 誰も手を上げない。えぇ。秀樹は驚く。ピッチャー設定は俺だけだったのか。リリ

ーフの設定が『武蔵野ジャイアンツ』には無かったのか。チームに絶望感が広がる。


 だがそこで遅れて静かに手を上げたメンバーがいた。右翼手(ライト)の真子だ。

「私でよければ。」

 よかった。全員がホッと一息をつく。秀樹は申し訳なさそうに真子に詫びた。

「真子。ごめんな、こんな状況で引き継いで。」

「いいんだよ。私もピッチャーやってみたかったし。」

 よし、大丈夫だな。三石が締める。

「よし。秀樹は右翼手(ライト)だ。勝負は絶望的だけど、なんとか1点だけでも

取って秀美ちゃんの仇を討とうぜ。」

 全員が頷く。そうだ、たとえ勝てなくても小学生チームの意地を見せてやる。


実況:おっと『武蔵野ジャイアンツ』の投手(ピッチャー)と右翼手(ライト)が交

  :代のようです。真子選手がピッチャー。おっと、下手投げ(アンダースロー)

  :だ。最近では珍しい。小さな体でいかにこのピンチを乗り切るか。さぁ、ノー

  :アウト・一塁・二塁から試合再開です。次は七番バッターです。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」

■バッター  「打撃スキル アンコモン ヒットエンドラン」


実況:バッター、打った。当たりそこねのサードゴロだ。三塁手(サード)の三石

  :選手が捕った。二塁は間に合わない。一塁(ファースト)にボールを投げる。

  :『武蔵野ジャイアンツ』の初めてのアウトだ。これでワンアウト・二塁・三

  :塁。ピンチが続きます。真子選手、ランナーを気にしながら慎重に投げる。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:バッター、空振りだ。三振でツーアウト。打順は九番まで回った。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」

■バッター  「打撃スキル アンコモン 強打」


実況:サードゴロだ。三塁手(サード)の三石選手が慎重にがっちり打球を捕った。

  :一塁(ファースト)にボールを投げる。これでスリーアウト・チェンジ。

  :『武蔵野ジャイアンツ』の投手(ピッチャー)交代は吉とでた。真子選手、

  :ピンチを乗り切りました。

  :これで『ブラックアイズ』の長い攻撃がようやく終わりました。しかしスコア

  :は4対0。大きな点差が付きました。これは一方的な試合になるのか。

  :さぁ、ここから『武蔵野ジャイアンツ』の反撃だ。この悪い流れを断ち切る

  :ことができるのか。

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