第8話 白い流星弾
秀樹は思った。やっぱり強い。前回のベスト4は伊達じゃない。俺の『コモンカー
ド』じゃ通用しないのか。ケチらずに『レアカード』も混ぜて投げよう。『スキルカ
ード』を惜しんで残しても点差がついちゃ意味がない。無くなったら無くなった時の
ことだ。
実況:さぁ、三番バッター。キャプテンの捕手(キャッチャー)右京君だ。ヒットが
:出れば得点のチャンス。
「うう。こいつと左京だけは押さえたい。勝負だ。」
■ピッチャー「投球スキル レア フォークボール」
■バッター 「打撃スキル レア 強烈なピッチャー返し」
実況:バッター、また『ブラックカード』だ。『強烈なピッチャー返し』。強烈な打
:球が迫ってくる。ピッチャーの秀樹選手、どうする。
すごいスピードで打球が秀樹の顔面に飛んでくる。逃げちゃダメだ。取ればダブル
プレイのチャンス。秀樹は一瞬の判断で迫ってくる打球を取りに行く。しかし間に合
わない。打球はグラブをかすめて秀樹の顔面を直撃。いてぇ。思わず声が出る。
いや、痛がっている場合じゃない。ボールを取らないと。転がるボールを痛みに堪
えて慌てて押さえる。しかしもう遅い。どこの塁にもにも投げられない。
実況:ピッチャー強襲のヒットだ。ピッチャー、どの塁にも投げられない。今のプレ
:イで秀樹選手のスタミナも減少。『武蔵野ジャイアンツ』、早くもノーアウト
:・満塁の大ピンチだ。ピッチャーの秀樹選手、ここを耐えきることができるの
:か。小学生チームにさっそく厳しい試練が訪れた!。
秀樹は呟く。
「はは。やっぱり辞退しとくべきだったかな。」
少し弱気になる。四番の左京がバッターボックスに入る。この展開にご満悦のよう
だ。
「おいおい、まさかもう終わりじゃないよな。お前はたったの三球しか投げていない
んだぞ。さっきの威勢はどこへいった。せめて俺たちの守備まで頑張ってくれよ。初
回の表じゃコールドゲームにもできないんだぜ。」
くそう。悔しい。こんな奴に負けたくない。歯ぎしりをする。もう秀樹は冷静さを
すっかり失っていった。
■ピッチャー「投球スキル アンコモン 渾身のストレート」
■バッター 「打撃スキル ウルトラレア 白い流星弾」
え。『ウルトラレア』?。バッターの左京に「ズーン」という音とともに白い光の
柱が立ち上がる。そのまま左京の体は白いオーラで覆われている。尋常な状態ではな
い。『白い流星弾』ってなんだ?。一度も聞いたことのない『スキルカード』だ。秀
樹は困惑する。
実況:おおっと。ここで左京選手は『ウルトラレア』を出してきた。私も初めて見る
:『スキルカード』だ。おまけに、これは『ブラックカード』だ。スコアボード
:にカードの効果が表示され始めたぞ。
「カキーン」と鋭い音が球場に響く。打った瞬間に打球に驚くべき変化が起こった。
打球は砕けたように分裂したのだ。打球の群れとなった。なんだ、これは。そのまま
レフトの上空に分裂した打球が飛んで行った。秀樹はスコアボードのカードの効果を
慌てて読んだ。
『白い流星弾』
・一試合3回まで使用可
・打球は9個のダミーボールを作成して放たれる。
・守備者が正しいボールを捕球した場合・・・・・
説明が途中で途切れて、最後の効果がわからない。なんだか嫌な予感がする。レフ
トの守備は妹の秀美だ。秀樹は秀美に向かって叫ぶ。
「秀美、気を付けろぉ。」
左翼手(レフト)の秀美は迫りくる打球群を見守る。1つだけ微妙に白色が濃いボ
ールがある。本物はあれだ。兄のピンチを救わなければ。
■レフト 「守備スキル アンコモン ハイジャンプ」
秀美は『スキルカード』を使用した。秀美の小さな体が、レフト上空に高くジャン
プした。本物のボールを見つけて捕球する。やっぱりこれが本物のボールだ。喜ぶ秀
美。思わず声を上げる。
「やった~。捕ったよ、お兄ちゃん。アウトだぁ。」
スコアボードの『白い流星弾』の残りの効果の文字(テキスト)が表示される。
『白い流星弾』
・守備者が正しいボールを捕球した場合・・・ダミーボールが捕球者を襲う。
秀美はジャンプ後の落下体制に入る。そこへ9つのダミーボールが向かってきた。
秀美の耳に遠くの兄の声が聞こえる。凄いスピードでダミーボールが迫ってくる。秀
美は現在の状況を理解できない。
「え、何が起こっているの?。」
慌てる秀美。ガン、ガン、ガン。秀美にダミーボールが次々とぶつかる。秀美が痛
みに叫ぶ。
「きゃぁぁぁぁ。」
秀美は歯を食いしばって耐える。捕球したボールを守らなきゃ。ここで落とせば満
塁ホームランだ。しかし次のダミーボールが秀美の頭を直撃。秀美は大きくのけぞっ
た。そこに最後のダミーボールが秀美の腹を直撃する。
「ゲフゥ。」
秀美はボールを手放してしまった。「ドーン」という音とともに秀美はそのまま地
面に叩きつけられる。
秀樹は妹がダミーボールに襲われるのを黙って見ているしかない。秀樹の隣の秀美
のコンソール(操作機器)が激しい振動を繰り返しているのがわかる。秀美の叫び声
が聞こえる。秀美が手放したボールは観客席に落ちていった。ホームランだ。
だが、それどころではない。チーム全員がレフトに慌てて集まってくる。
「秀美。」「秀美ちゃん。」「秀美ぃ。」
秀樹が秀美を抱き起す。
「大丈夫か、秀美。」
仮想(ヴァーチャル)空間とはいえ、秀美もダメージを受けている。弱々しく秀樹
に語りかけた。
「ゴメンね、お兄ちゃん。ボールを落としちゃった。」
「馬鹿野郎。そんなことどうでもいい。」
秀樹は倒れている秀美を抱きしめた。
無人になった内野を左京がガッツポーズをしながら塁を回っている。秀樹は左京に
向かって叫んだ。
「お前、こんなことまでして勝ちたいのか?。卑怯者。」
左京は立ち止まって秀樹に答える。
「どうした。ルールに従ってプレイしているだけさ。文句があるならマザーに言え。
いいか、このゲームは『野球ゲーム』じゃない。野球で闘う『戦争ゲーム』だ。野球
ゲームがしたければ他のゲームをやるんだな。」
実況:左京選手、なんと満塁ホームランです。スコアは4対0だ。さすがに前回の
:ベスト4は小学生チームには強過ぎたか。どうなる、この試合。しかもまだ
:ノーアウトだ。
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