第7話 試合開始

 いよいよ対決の日が来た。『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントの一回戦。『武

蔵野ジャイアンツ』✕『ブラックアイズ』だ。

 店長がみんなを心配してくれる。

「バーチャル空間だからって無理しちゃダメだよ。」

 お店の常連さんも秀樹たちを囲んで応援してくれた。

「秀樹君たちは俺たちより上手になったからな。『スキルカード』もプレゼントした

いぐらいだけどシステム上できないからなぁ。かなり強い相手らしいけど応援してる

からな。」

 応援してくれる人たちも含めて『武蔵野ジャイアンツ』なんだろうな。このお店の

代表だ。秀樹はそう思った。


 9人のメンバーが静かにコンソール(操作機器)に座る。全員が緊張に包まれてい

る。秀樹も自分が武者震いをしているのを自覚する。

 三石がキャプテンとしてチームのメンバーに声を掛ける。

「いよいよスタートだ。『武蔵野ジャイアンツ』の初陣だ。みんな頑張ろうぜ。」

 全員が応える。

「おおぉぉ!。」

 さぁ、闘いの場所へ行くぞ。全員がスタートの掛け声を叫ぶ。


「ヴァーチャル・イン!」


 画面が仮想球場(ヴァーチャル・スタジアム)に切り替わる。観客席は満員。演出

なんだろうけど、それでもうれしいな。秀樹はちょっと照れ笑いをした。

 ホームベースを挟んで両チームが並ぶ。黒田左京が笑いながら話しかけてきた。

「よぉ。小学生チームが逃げずに来たか。度胸だけは誉めてやるよ。まぁ、無茶って

いうか馬鹿っていうか。実力を知らないのも程がある。約束通りモルモットにしてや

るよ。」

 相変わらずの上から目線だ。負けずに秀樹は左京に言い返す。

「俺たちは逃げたりしない。勝負はやってみるまで分からない。覚悟してろよ。」

 黒田左京のポジションは左翼手(レフト)。右京は捕手(キャッチャー)だ。二つ

のチームの間で『ジャッジカード』が浮かび上がり回転を始めた。先行・後攻の抽選

のカードだ。秀樹は息を飲んで『ジャッジカード』が止まるのを静かに待つ。・・・

カードが止まった。先行は『ブラックアイズ』だ。左京がニヤリと笑う。


実況:いよいよ年1回の大イベント、『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントが始ま

  :ります。今年のチャンピオンの座を巡り32チームの対戦。この試合は前回の

  :『ヴィクトリー・ナイン』トーナメントでベスト4入りを果たした『ブラック

  :アイズ』と、今回が初出場の『武蔵野ジャイアンツ』の対戦です。なんと『武

  :蔵野ジャイアンツ』のメンバーは全員が小学生とのことです。ぜひ善戦を期待

  :したいところです。


 突然、左京の前で『スキルカード』が回転を始めた。さっそく来たか。秀樹は身構

える。そんな秀樹を気にも留めずに左京は『スキルカード』の宣言をする。一瞬で周

りの空間が全て真っ黒に変化した。


■先行チーム 「フィールドスキル レア 雨の甲子園」


実況:おっと、先行の『ブラックアイズ』がいきなり『レアカード』を使ってきた。

  :『雨の甲子園』で球場は『甲子園』に、天候は『どしゃ降りの雨』に変化だ。

  :さっそく『ブラックアイズ』の得意のスタミナ戦に持ち込んできたぞ。


 なにが起こったんだ。秀樹はスコアボードに表示されるカードの効果を確認する。


『雨の甲子園』

  ・試合の開始時のみ使用可

  ・守備中のスタミナダウンが4%増加。また全プレイの速度が2%低下

  ・守備終了時のスタミナの回復は無い


『武蔵野ジャイアンツ』のチームメンバーがざわつき始める。こんなカードもあるの

か。三石が落ち着かせようと声を掛ける。

「気にせず普段通りに守備につこう。普段よりもスタミナを奪われるみたいだから注

意が必要だぞ。」


実況:さぁ、『ブラックアイズ』の一番バッターだ。『武蔵野ジャイアンツ』の

  :ピッチャーは秀樹選手。おお、気合が入っている。どんな投球を見せるのか。


■ピッチャー 「投球スキル コモン ストレート」 

■バッター  「打撃スキル アンコモン セーフティバント」


 え、いきなりセーフティバントだ。バッターはスイングと途中で止めてバットを横

にした。ボールはバットに当たって濡れたグラウンドをゆっくり転がる。秀樹はボー

ルを慌てて取りに行く。しかし泥に足を取られてバランスを崩す。

「しまった。『雨の甲子園』には守備を妨害する効果もあるのか。でもタイミング的

にはなんとか間に合うはずだ。」

 秀樹は一塁手(ファースト)に倒れた姿勢で懸命にボールを投げる。


■バッター  「走塁スキル アンコモン ヘッドスライディング」


実況:セーフティーバントでヘッドスライディング。タイミングは際どい。どうだ。

  ;判定はどう出る。


□マザー   「判定:ファースト セーフ」


実況:審判(マザー)の『セーフ』の判定が球場に響く。ノーアウト・一塁だ。

  :さっそくランナーが出た。『ブラックアイズ』にチャンス到来だ。


「ドンマイ、ドンマイ。」

チームのみんなが秀樹を元気づける。秀樹は後ろを向いて頭を下げた。


実況:さぁ、二番バッターだ。『武蔵野ジャイアンツ』、いきなりピンチを迎えた。


■ピッチャー 「投球スキル コモン カーブ」

■バッター  「打撃スキル アンコモン ヒットエンドラン」


実況:投球と同時にランナーがスタート。『ヒットエンドラン』だ。バッター打っ

  :た。ライト前ヒットだ。おっと、ランナーは二塁を回って三塁へ向かう。

  :右翼手(ライト)の真子選手が三塁に投球。これはタイミングはアウトだ。

  :この走塁は無謀かぁ。


■ランナー  「走塁スキル アンコモン 殺人スライディング」


実況:ランナー、ここで『ブラックカード』だ。クロスプレイ。三塁手(サード)の

  :三石選手は激しいスライディングにボールを落としている。スタミナも減少し

  :たようだ。


□マザー   「判定:ファースト セーフ、サード セーフ」


実況:審判(マザー)の判定はどちらもセーフだ。早くもノーアウト・一塁・三塁。

  :『武蔵野ジャイアンツ』、ピンチが続きます。

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