人命は地球より重い(約一名を除く)
「なぁ、苗床にするならロリだろ? 私みたいな年増が異種出産しても、需要はないぞ!」
ディゲルは〈サティ〉を指し、必死に訴え掛ける。
そして泣き落としが効かないとみると、ポケットの中のものを手当たり次第に投げ始めた。
「来るな! あっち行け! ハエの仔なんぞ産みとうない!」
食べかけのチョコが、丸まった銀紙が、花が飛び、飛び、飛び、ハエを乱打する。
完全にパニくったドラ○もん状態で、完全に悪あがきだ。
いくら生身の虫と言っても、相手は台所のコバエではない。
ポケットのゴミを投げ付けたところで、無意味中の無意味だ。
園内にいる全員が、そう思っていたはずだ。
だがハエは苦しそうに
しまいにはあお向けにひっくり返り、ひくひくと
「な、何だ? チョコアレルギーか?」
ディゲルはきょとんとした顔で、息も絶え絶えのハエを見つめる。
〈サティ〉にしても理解不能な状況だが、一つだけ確かなことがある。
大チャンスだ。
幸いディゲルが時間を稼いでくれたおかげで、ダメージも回復しつつある。
さすがに動かすと痛むが、我慢出来ないほどではない。
急いで呼吸を整え、〈
カラータイマー状態だった流動路が、少しずつ点滅の間隔を広げていく。
ついに絶え間ない光が戻ると、地面に横たわっていたドローンがわずかに浮いた。
「今の内に決着を着けないと……!」
〈サティ〉は歯を食いしばり、あお向けの身体を起こす。
次にドローンで自分を吊り上げ、ネクタイ状態の
タイピンっぽい横棒を掴み、「R」から「I」の目盛りに上げる。
操作音のチーン! が鳴ると、即座に
〝
にわかに延髄の
サルたちは一斉に目を細め、次々と顔の前に手をかざした。
〝
一定の間隔で
やがて
どうやら、〈
人間の変身するヒーローは、絶対に必殺技を持っている。
あいにく、変身するのは化け物だが、〈PDF〉も例外ではない。
膨大な量の〈
機械の性能が、カタログに書かれた通りとは限らない。
最高時速が二〇〇㌔の車でも、条件によっては二〇五㌔、二一〇㌔出すことが出来る。
追い風や下り坂を利用すれば、もっとスピードを上げることが可能かも知れない。
〈PDF〉も同じで、好条件が揃えば、カタログ以上の力を発揮することが出来る。
〈
訴え掛ける相手はもちろん、あらゆる現象を司る〈
「五」の力が出るなら、「六」出てもいいよね?
「六」の力が出るなら、「八」出てもいいでしょ?
執拗に迫ることで、〈
そして最後には一〇の力を引き出し、最大級の一撃を放つことが可能になる。
「必殺技」である以上、〈
ただ〈
また〈
外してしまった場合は、無意味に消耗する羽目になる。
ましてや今の〈サティ〉は、大きなダメージを受けている。
最悪、〈PDF〉を実体化していることさえ出来なくなってしまうかも知れない。
「くー
〈サティ〉は切なさに耐えられず、奥歯を噛み締める。
愛する虫を殺すのは、非常に心が痛む。
出来るなら生け捕りにしたいが、ハエは大量の糸を引きちぎる力を持っている。
身動きを封じるのは、不可能に近い。
何より、園内には大勢の人が残されている。
これ以上、ハエを自由にさせておくのは、あまりにリスクが高い。
確かに、虫の命は地球より重い。
しかし人命(ディゲルを除く)の重さは、それ以上だ。
「おい!? 私だけならどうでもいいって、どういう意味だ!?」
「もう、うるさいなあ。いいからとっとと避難してよ」
〈サティ〉は大量に子グモを出し、ディゲルに差し向ける。
大群は迅速にディゲルを包装し、数十㍍先まで運び去った。
「あれだけ離れれば、〈
〝
〝
チーン×2を合図に、二つの
それに合わせて、
限界までまばゆい光は、見る見る〈サティ〉の輪郭を掻き消していく。
園内には色んな動物がいるが、〈サティ〉を直視している生き物は一匹もいない。
それどころか、シマウマもサルもホッキョクグマもキリンも、固く目を閉ざしている。
ミスター
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