箸休め 虫が一寸とは限らない! ②世界一重い昆虫はクロギリス……って、クロギリスって何だよ!?

※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

 お時間のない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 巨大な昆虫を紹介している今回のシリーズ。


 前回は世界一長い昆虫が、ナナフシの仲間であることを紹介しました。


 今回は予告した通り、世界一重い昆虫に焦点を当てたいと思います。


 ◇世界一重いのはバッタ?


 世界一長い昆虫がそうだったように、世界一重い昆虫にもいくつか候補があります。


 最初の候補が、ジャイアントウェタです。


 彼等はバッタもくの一員で、 70㌘の個体が発見されています。


「オバケハネナシコオロギ」と呼ばれることもありますが、コオロギではありません。

「ウェタ」と言うニュージーランド固有の昆虫で、北東のリトルバリア島に棲息しています。


 もっとも、顔や形はコオロギにそっくりで、色もよく似ています。

 ただジャイアントウェタはコオロギよりはるかに大きく、はねも生えていません。


 ◇はねがある? ない?


 実を言うと、資料によってははねがあるように書かれていることもあります。


 ただ今回調べた限り、実際にはねを広げている写真は見付かりませんでした。

 と言うか、動画を見ても、はねがないようにしか見えないのですが……。


 参考にした記事が外国のものっぽいので、誤訳してしまったのかも知れません。


 ◇ジャイアントウェタのアレコレ


「ジャイアント」と呼ばれている通り、彼等はかなり巨大です。


 平均体長は7.5㌢ほどで、オスよりメスのほうが大きい傾向があります。

 基本的には夜行性の昆虫で、植物を食べて暮らしているそうです。


 先住民のマオリ族は、彼等のことを「Wetapungaウェタプンガ」と呼んでいます。


「醜いものの神」と言う意味ですが、これ以上的確な表現はないでしょう。

 正直、かなり気持ち悪い……ゴホン、インパクトが強いので、検索はおすすめしません。


 ◇バッタの仲間がコオロギに似ているワケ


 バッタの仲間がコオロギに似ているのには、ちゃんと理由があります。


 そもそもバッタもくは、二つのグループに分けることが出来ます。


 一つ目が、バッタやイナゴのぞくするバッタ亜目あもくです。


 バッタ亜目あもくの昆虫は、主に昼間活動します。

 またもう一つのグループに比べて、触角が短いと言う特徴があります。


 二番目のグループが、キリギリスやコオロギのぞくするキリギリス亜目あもくです。

 スズムシやクツワムシも、このグループにぞくしています。


 秋の夜長に鳴く虫は、ほぼキリギリス亜目あもくと考えて間違いありません。

 ケラや嫌われ者のカマドウマも、キリギリス亜目あもくの昆虫です。


 基本的にキリギリス亜目あもくの昆虫は、夜間に活動します。

 バッタ亜目あもくの昆虫に比べて、触角が長いのも特徴です。


 ◇バッタ亜目あもくとキリギリス亜目あもくの違い――耳の場所が違う!?――


 更にキリギリス亜目あもくのメスは、尾に卵を産むためのくだを持っています。


 これはバッタ亜目あもくにもあるのですが、キリギリス亜目あもくのほうが長くて目立つ傾向にあります。


 バッタ亜目あもくとキリギリス亜目あもくの昆虫では、耳の位置も異なります。


 バッタ亜目あもくの場合、耳の位置は左右のうしあしの付け根です。

 一方、キリギリス亜目あもくの昆虫は、左右の前脚まえあしに耳が付いています。


 ◇ジャイアントウェタの親戚は日本にもいる――コオロギ+キリギリス=コロギス?――


 ジャイアントウェタは、キリギリス亜目あもくぞくする昆虫です。


 中でも「コロギス」に近く、見た目もよく似ています。


 コロギスはコロギスの昆虫で、本州、四国、九州の森の中で暮らしています。


 体長は3㌢程度で、オスよりもメスのほうが大きいのが特徴です。

 触角は非常に長く、メスは尾に鋭いくだを備えています。


 名前の通り、コロギスはキリギリスとコオロギを合体させたような姿をしています。

 活動するのも夜ですが、鳴くことは出来ません。


 基本的には肉食で、他の昆虫を襲います。

 ただ樹液に集まることや、甘い果実を食べることもあるようです。


 ◇バッタ界のスパイダーマン!?


 コロギスははねを持っていますが、飛ぶのは得意ではありません。


 その代わり、口から糸を出す能力を持っています。

 この糸は葉っぱをくっつけ、巣を作るのに用いられます。


 彼等は夜になるまで、じっと巣の中に潜んでいます。

 意識して探さないと、見付けるのは難しいでしょう。


 ◇得意技はタップダンス!


 コロギスの昆虫は、コロギスだけではありません。


 2020年現在、国内では10種類ほどのコロギスが発見されています。


 どの種類も糸を吐けますが、鳴くことは出来ません。

 ハネナシコロギスのように、鳴くために必要なはねがない種類も存在します。


 ただしコロギスはうしあしをものに叩き付け、音を出すことがあります。

 またハネナシコロギスはうしあしと腹をこすり付け、音を出すことが可能です。


 ◇ジャイアントウェタはクロギリス……って、「クロギリス」って何だよ!?


 ジャイアントウェタ自体はコロギスではなく、「クロギリス」の昆虫です。


 と言っても、ほとんどの方はクエスチョンマークを浮かべるばかりでしょう。


 バッタもくの中でも、クロギリスはマイナーなグループです。


 巨大でグロテスクなジャイアントウェタは、意外と知名度の高い昆虫です。

 クロギリスであることも、ネットや本で結構紹介されています。


 しかし肝心のクロギリスがどういうグループなのかは、ほとんど触れられていません。


 作者もスルーしようか迷ったのですが、他の方と同じことをしても面白くありません(笑)

 そこで今回は、クロギリスについて調べてみました。

 たぶん、PVは集まらないだろうなあ……。


 ◇クロギリスのアレコレ


 クロギリスはキリギリス亜目あもくの一員で、「コロギス上科じょうか」と言うグループにぞくしています。

 もちろん、コロギスもコロギス上科じょうかの一員です。


 名前からも分かるように、「クロ」ギリスの昆虫は黒い身体を持っています。


 カマドウマとコオロギを足したような見た目は、お世辞にもかわいいとは言えません。

 しかも比較的大柄で、ヤンバルクロギリスは4㌢近くまで成長します。


 幸い(?)沖縄おきなわ屋久島やくしまにしか棲息していないらしく、本州で発見されたことはありません。

 また日本で見付かったのは最近のことで、現在までに3種類(※)しか確認されていません。

(※ヤンバルクロギリス、ヤエヤマクロギリス、ヤクシマクロギリス)


 基本的には夜行性で、昼間は朽ち木や木のうろ(幹の穴)に隠れています。


 日本のクロギリスには小さなはねがありますが、鳴くことは出来ません。

 ただしコロギスのようにうしあしでものを叩き、音を出します。


 ◇高地に棲むマウンテンストーンウェタ――顔がデカいほうがモテる――


 ニュージーランドには他にも、ウェタの仲間が棲息しています。


 中でも驚くべき能力を持つのが、マウンテンストーンウェタです。


 彼等は標高1000㍍から1500㍍の高地に棲む昆虫で、主に植物を食べて生活しています。


 体長は5㌢前後もありますが、見た目はコオロギにそっくりです。

 ただし色は黄色(褐色かっしょくに近い)と黒のしま柄で、ハチによく似ています。


 またマウンテンストーンウェタのオスは、メスより大きな顔を持っています。


 人間のメスは、顔の小さいオスを好む傾向にあります(笑)

 しかし彼等の場合は真逆で、顔の大きいオスほどモテるようです。


 ◇凍っても平気!?


 彼等の住処すみかは非常に寒く、気温が0度以下になることも珍しくありません。

 夏場でも平均気温は4度ほどで、氷点下になる可能性があります。


 極寒の環境は、しばしばマウンテンストーンウェタを凍らせてしまいます。


 しかし、彼等が死ぬことはありません。


 普通の生物は、凍ると細胞が破壊されてしまいます。

 凍った生き物が死んでしまうのも、命の基盤である細胞が壊れてしまうためです。


 しかし、マウンテンストーンウェタの場合は例外です。


 彼等の身体には特殊な仕組みがあり、凍っても細胞が破壊されないようになっています。


 そのため、身体が凍り付いても、命を落とすことはありません。

 それどころか、氷が溶けると、何事もなかったように動き出します。


 長くなったので、今回はここまで。


 次回も引き続き、世界一重いかも知れない昆虫を紹介します。


 ◇今回のまとめ


 ☆世界一重い昆虫には諸説ある。


 ☆候補の一つが、ニュージーランドに棲むジャイアントウェタ。コオロギによく似た昆虫で、「オバケハネナシコオロギ」とも呼ばれる。ただし、「コオロギ」ではない。


 ☆ジャイアントウェタはキリギリスの仲間で、70㌘の個体が発見されている。


 ☆バッタもくにはキリギリスやコオロギ、スズムシなども含まれる。


 ☆バッタの仲間は触角が短く、昼間に活動する。


 ☆キリギリスの仲間は夜行性で、触角が長い。


 ☆バッタの仲間は、うしあしの付け根に耳がある。


 ☆キリギリスの仲間は、前脚まえあしに耳がある。


 ☆キリギリスとコオロギを足したような昆虫がいる。その名も「コロギス」。


 ☆コロギスは口から糸を出すことが出来る。


 ☆2020年現在、コロギスの昆虫は、国内で10種類ほど確認されている。


 ☆コロギスの昆虫は鳴けないが、うしあしをものにぶつけて音を出す。


 ☆ジャイアントウェタは、コロギス上科じょうかのクロギリスに分類されている。


 ☆クロギリスの昆虫は黒い身体を持ち、夜中に活動する。


 ☆日本にもクロギリスの昆虫はいる。ただし、沖縄おきなわ屋久島やくしまにしか棲息していない。また現在までに、ヤンバルクロギリス、ヤエヤマクロギリス、ヤクシマクロギリスの3種類しか発見されていない。


 ☆ニュージーランドの高地に棲むマウンテンスト-ンウェタは、凍っても平気。


 ◇参考資料


 ぼくらはみんな生きている!

 ヘンで奇妙な昆虫図鑑

 丸山宗利監修 (株)日本図書センター刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 極限生物摩訶ふしぎ図鑑

 北村雄一著 (株)保育社刊


 ビジュアル 世界一の昆虫

 リチャード・ジョーンズ著 (株)日経ナショナル・ジオグラフィック社刊


 図鑑 日本の鳴く虫

 コオロギ類 キリギリス類 捕り方から飼い方まで

 奥山風太郎著 (株)エムピージェー刊


 奇界生物図鑑 

 澤井聖一企画・構成 (株)エクスナレッジ刊


 バッタ・コオロギ・キリギリス生態図鑑

 村井貴史 伊藤ふくお著 北海道大学出版会刊

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