箸休め マーベラスなクモ! ⑤タランチュラの語源は「タラント」

 騙されんぞ! なヤツらに着目している今回のシリーズ。


 前回は鋏角類きょうかくるいの歴史をさかのぼり、クモのご先祖さまに迫りました。

 今回は予告通り、恐ろしい毒グモたちを紹介したいと思います。


 ◇猛毒を持つクモは少数派


 糸や巣と同じくらい、クモには「毒」と言うイメージがあります。


 実際、大多数のクモは、鋏角きょうかく(牙)から毒を分泌することが可能です。

 ただし毒の強さは昆虫を殺す程度で、恐れる必要はほとんどありません。


 第1回で説明した通り、2019年の時点でクモは4万8000種ほど確認されています。

 その中で人間を苦しめるほどの毒を持つのは、わずか0.2㌫程度です。


 ◇大昔のクモには毒がなかった!?


 これだけでも意外ですが、古代のクモには毒そのものがなかったかも知れません。


 その証拠に原始的な種類ほど、毒を出すための腺は未発達です。

 逆に獲物を探すために徘徊する種は、毒を出す腺がよく発達しています。


 ただ腺が発達していても、人間に効かない毒なら問題ありません。

 また小さなクモは鋏角きょうかく(牙)も小さく、人間の皮膚を貫くことが不可能です。


 ただし、全てのクモが安全なわけではありません。


 わずか0.2㌫でも、人間をおびやかすクモがいるのは事実です。


 ◇世界最大のクモ――ゴライアス・バードイーター――

 

 毒グモの代名詞と言えば、やはりタランチュラでしょう。

 毛の生えた巨体と言い、物々ものものしい鋏角きょうかく(牙)と言い、いかにも人間を殺しそうです。


 最も大きいゴライアス・バードイーターは、10㌢前後まで成長します。

 メスがあしを広げた時の幅は、20㌢以上になると言うから驚きです。


 ゴライアス・バードイーターは世界最大のクモとして、ギネスにも登録されています。

 しかもサイズの割に動きが素早く、気性も荒い厄介者です。

 本来はブラジルやベネズエラに棲むクモですが、日本でもペットとして飼われています。


 ◇ゴライアス・バードイーターのアレコレ


「バードイーター」と呼ばれている通り、彼等には「鳥を捕食する」と言う伝説があります。


 実際、小さな鳥なら捕まえられますが、それだけを狙っているわけではありません。

 主な獲物は昆虫で、ネズミやカエルも食べているようです。


 彼等は危険を感じると、腹に生えた毛を蹴り飛ばす習性を持っています。


 運悪く毛が刺さってしまうと、かゆみやかぶれと言ったアレルギー反応が起きます。

 涙やクシャミが出ることもありますが、命の危険まではないようです。


 ◇大きいことは大きいけど、それほど危なくはない?


 一方、鋏角きょうかく(牙)が大きいだけに、咬まれた時には強烈な痛みを味わうことになります。

 注入される毒液の量も多く、しずくが垂れているのを確認出来るほどです。


 ただし、毒の強さ自体は、それほどでもありません。


 致死量の多い少ないだけで言うなら、スズメバチやハブのほうが危険です。

 実際、どの資料を見ても、「タランチュラに咬まれて死んだ人はいない」と書かれています。

 彼等と遭遇する機会の多い棲息地でも、命を奪われた人はいないようです。


 ただし危険なアレルギー反応が起きると、毒の強さとは無関係に命を落とす場合があります。

 毒が弱いからと言って、わざと咬まれるような真似は避けるべきでしょう。


 ◇「タランチュラ」は存在しない!


 実を言うと、クモの中に「タランチュラ」と言うグループはありません。


 一般に「タランチュラ」と呼ばれているのは、「オオツチグモ」にぞくするクモたちです。


 彼等は比較的大型で、現在までに800種から900種ほど確認されています。

 温暖おんだん多湿たしつな環境を好み、北アメリカ南部や南米に棲息しています。


 インドやスリランカ、オーストラリアも彼等の住処すみかです。

 またアフリカや東南アジアにも棲んでおり、カンボジアではフライにして食べられています。


 棲息地が多様なら、生活スタイルもバリエーション豊かです。


 地上で暮らすタイプもいれば、木の上で生活するタイプも存在します。

 地面に巣穴を掘り、地中で暮らすタイプも少なくありません。

 性格も多彩で、大人しいしゅなら手の上に乗せることも可能です。


 ◇「タランチュラ」の語源になった街


「タランチュラ」と言う名前は、イタリアの港町「タラント」に由来します。


 タラントはイタリア南部にある街で、人口は20万人ほどです。

 重工業が盛んで、イタリア軍の港があることでも知られています。


 ◇子煩悩こぼんのうなコモリグモ


 タラントの周辺には、「タランチュラ」の付くクモが棲息しています。

 ただし、彼等は「オオツチグモ」ではなく、「コモリグモ」の一種です。


 コモリグモは比較的大きなグループで、現在までに約2400種発見されています。

 草地から砂浜まで様々な環境に棲息し、世界中で見ることが可能です。


 基本的には徘徊して獲物を探しますが、網を張るタイプも存在します。

 日本でもポピュラーなクモたちで、1㌢以下から2㌢程度のしゅが暮らしています。


「子守り」と言う名前は、母グモが卵を持ち運ぶことに由来します。

 また孵化した子グモは、しばらく母親の背中に乗って過ごします。


 ◇名前負けなタランチュラコモリグモ


 タラントの周辺に棲んでいるのは、「タランチュラコモリグモ」と言うしゅです。


 体長は2㌢前後で、やはり子グモを背中に乗せる習性を持ちます。

 何とも恐ろしい名前ですが、人間に対する毒性はほとんどありません。

 運悪く咬まれても、死ぬことはないでしょう。


 にもかかわらず、タラントには恐ろしい毒グモの伝説が存在します。


 長くなったので、今回はここまで。


 次回はタラントの伝説に迫ります。


 ◇今回のまとめ


 ☆毒を持つクモは、全体の0.2㌫程度。


 ☆古代のクモには、そもそも毒がなかった(かも知れない)。


 ☆クモは原始的な種類ほど、毒液を出す腺が未発達。


 ☆逆に徘徊するクモは、よく毒液を出す腺が発達している。


 ☆世界最大のクモと言われているのは、南米に棲むゴライアス・バードイーター。特にメスは大きく、あしを広げた時の幅は20㌢以上になる。


 ☆ゴライアス・バードイーターは、世界最大のクモとしてギネスにも登録されている。


 ☆タランチュラの毒は弱い。死んだ人はいないと言われている。


 ☆クモの中に、「タランチュラ」と言うグループはない。


 ☆一般に「タランチュラ」と呼ばれているのは、「オオツチグモ」のクモたち。


 ☆オオツチグモのクモは、現在までに800種から900種ほど確認されている。温暖おんだん多湿たしつな環境を好み、南北アメリカ大陸やアフリカ、東南アジアなどに棲息している。


 ☆オオツチグモには地上で暮らす種類もいれば、木の上で暮らす種類もいる。


 ☆「タランチュラ」と言う名前は、イタリアの港町「タラント」に由来する。


 ☆タラントの周辺には、「タランチュラコモリグモ」と言うクモが棲息している。ただし、彼等は「オオツチグモ」ではなく、「コモリグモ」の一員。


 ☆コモリグモのメスは、卵を持ち運ぶ。また生まれた子グモは、しばらく母親の背中で過ごす。


 ◇参考資料


 クモ学 摩訶不思議な八本足の世界

 小野展嗣著 東海大学出版会著


 ネイチャーガイド 日本のクモ

 新海栄一著 (株)文一総合出版刊


 クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて

 馬場友希著 一般社団法人 家の光協会刊


 節足動物ビジュアルガイド タランチュラ&サソリ

 相原和久・秋山智隆著 (株)誠文堂新光社刊


 猛毒生物最恐50

 コブラやタランチュラより強い毒を持つ生きものは?

 今泉忠明著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

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