箸休め マーベラスなクモ! ③クモは二つの呼吸システムを併用している!?

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  お時間のない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。

  簡単な図が登場するため、今回は横書きでごらん下さい。


 親愛なる隣人を紹介している今回のシリーズ。

 前回は鋏角類きょうかくるいと昆虫の違いを解説しました。

 今回は予告した通り、クモの呼吸に着目したいと思います。


 ◇人間の呼吸


 人間は口や鼻から酸素を吸い、肺から血液中に吸収します。

 実際に酸素を取り込むのは、肺胞はいほうの役目です。


 肺胞はいほう半球状はんきゅうじょうの器官で、人間には3億個ほど備わっています。

 ブドウの実のようにびっしり集まった姿を、教科書で見た方も多いのではないでしょうか。


 酸素は赤血球せっけっきゅうによって運ばれ、細胞がエネルギーを作り出すのに利用されます。

 その過程で発生する二酸化炭素を運ぶのも、赤血球せっけっきゅうの仕事です。

 二酸化炭素は肺胞はいほうから肺に排出され、口や鼻から外に出て行きます。


 ◇昆虫の呼吸


 昆虫も呼吸を行いますが、口は使いません。

 彼等が使うのは、「気門きもん」と呼ばれる穴です。


 気門きもんは身体の側面にあり、筋肉を使って開け閉めすることが出来ます。

 昆虫の種類によって差はありますが、胸に4個、腹に16個いているのが普通です。


 気門きもんは口のように酸素を吸ったり、二酸化炭素を吐き出すことが出来ます。

 ただし人間と違って、昆虫には肺がありません。

 また血は流れているのですが、酸素や二酸化炭素を運ぶのは気管きかんの役目です。

 昆虫には細かい気管きかんが無数にあり、全身に酸素を送れるようになっています。


 ◇クモの呼吸


 クモも気門きもんから酸素を取り込んでいますが、呼吸の方法は全く別物です。


 彼等をひっくり返すと、後体こうたい(お尻)の一番前に丸い板があります。

 ハエトリグモやジョロウグモの場合、板の数は右側に一つ、左側に一つです。

 一方、ジグモやキムラグモは、右側に二つ、左側に二つ、縦に並んだ板を持っています。

 図にすると、こんな感じです。


 ハエトリグモやジョロウグモ→○○


 ジグモやキムラグモ→○○

           ○○


(お手数ですが、縦書きで見ている方は横書きにしてご覧下さい)


 どちらの場合も、板の底には切れ長の穴がいています。

 これがクモの気門きもんです。


 一見、昆虫と同じに思えますが、彼等とクモには大きな違いがあります。

 クモは板の中に、「書肺しょはい」と言う呼吸器官を持っているのです。


 ◇書肺しょはいってなぁに?


 名前の通り、「しょはいの形は本にそっくりです。

 しかも本の中にはページのように、「肺葉はいよう」と言う膜が並んでいます。

 肺葉はいようは袋状になっていて、外側が血液で満たされているのが特徴です。


 気門きもんから取り込まれた酸素は、ここから血液中に取り込まれます。

 その後、血管を通って心臓に届けられ、全身に運ばれていきます。


 書肺しょはいの数は、後体こうたい(お尻)にある板の数と同じです。


 右に二つ、左に二つの板を持つクモは、書肺しょはいも右に二つ、左に二つあります。

 一方、右に一つ、左に一つのクモは、書肺しょはいも左右一つずつしかありません。


 一見、多いほうがいいように思えますが、優れているのは書肺しょはいの数が少ないほうです。


 ◇二種類の呼吸システムを持つクモ! 


 クモの心臓は非常に大きく、大量の血液を送り出すことが出来ます。

 反面、血管は不出来で、素早く酸素(血液)を運ぶことが出来ません。

 そのため、書肺しょはいしか持たないクモは、すぐに息切れを起こしてしまいます。


 しかし「書肺しょはいしか持たない」と言った通り、クモには他の方法を併用しているものがいます。


 ハイブリッド式なのは、書肺しょはいを二つしか持たないクモたちです。


 彼等は後体こうたい(お尻)の裏側に、もう一つ気門きもんを持っています。

 位置はかなり後ろのほうで、糸を出すイボの手前くらいです。


 こちらの気門きもん書肺しょはいではなく、管状くだじょう気管きかんに繋がっています。

 また書肺しょはいの場合と違い、酸素が血液中に取り込まれることもありません。

 吸い込まれた空気は空気のまま気管きかんを通り、各部に送られていきます。


 ◇ハイブリッド式のクモは持久力が高い! けど、昆虫にはかないません。


 早い話、一部のクモは書肺しょはいの他に、昆虫と同じ呼吸システムを持っています。


 彼等には書肺しょはいしか持たないクモより、持久力が高いと言う特徴があります。

 ただしシステムは同じでも、昆虫ほどの持久力はありません。


 昆虫の身体には、細かく分かれた気管きかんが張り巡らされています。

 気管きかんが細かく枝分かれしているのは、クモも同じです。

 ただしクモの気管きかんは未発達で、全身に張り巡らされてはいません。

 特にあしのある前体ぜんたい(頭)は、気管きかんの発達が悪い傾向にあります。


 クモが素早く動くためには、忙しくあしを動かさなければいけません。

 しかし、気管きかんの未熟な彼等は、あしに酸素を送ることが苦手です。

 書肺しょはいだけで呼吸するクモよりはマシですが、長く息を続けることは出来ません。


 そのため、クモが素早く動くのは、本当に必要な時だけです。

 またずっと走り続けるのは不可能で、頻繁ひんぱんに動きを止めなければいけません。


 急ぎ足だったクモが急に止まる様子は、家の中でもよく見掛けます。

 巣を張るクモも、獲物が掛かるまではほとんど動きません。


 ◇新しいのは書肺しょはいの少ないクモ


 優れていることからも分かる通り、進化しているのは気管きかんを持つクモのほうです。


 先ほど説明しましたが、気管きかんを持たないクモには四つの書肺しょはいがあります。

 四つの書肺しょはいは左に二つ、右に二つあり、縦に並んでいます。

 図にすると、こんな感じです。


 ○○

 ●●


(お手数ですが、縦書きで見ている方は横書きにしてご覧下さい)


 気管きかんを使った呼吸器は、後ろにあった書肺しょはい(●の部分)が変化したものです。

 その証拠に、気管きかんを持つクモには、後ろの書肺しょはいが存在しません。


 ◇鋏角類きょうかくるいの呼吸システム


 クモと同じ鋏角類きょうかくるいであるサソリは、四対よんつい(八個)の書肺しょはいを持っています。

 またカブトガニの裏側には、「書鰓しょさい」と言う呼吸器官が備わっています。


 書鰓しょさいは板状で、やはり「書」物のページのように重なっているのが特徴です。

 名前からも分かるように「えら」の一種ですが、書肺しょはいの原形と考えられています。


 同じ鋏角類きょうかくるいでも、ザトウムシは気管きかんで呼吸します。

 ダニも気管きかんで息を吸いますが、一部は皮膚呼吸ひふこきゅうを行います。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回はクモの歴史に迫ります。


 ◇今回のまとめ


 ☆昆虫は口ではなく、「気門きもん」と呼ばれる穴で呼吸を行っている。


 ☆昆虫には肺が存在しない。全身にある気管きかんで酸素を送っている。


 ☆クモも気門きもんで息を吸うが、彼等には「書肺しょはい」と言う呼吸器官がある。


 ☆書肺しょはいの形は本にそっくり。中には袋状の「ページ」があり、ここから酸素を取り込んでいる。


 ☆クモには書肺しょはいが四つあるものと、二つしかないものがいる。

 

 ☆進化しているのは、書肺しょはいが二つしかないグループ。


 ☆クモは心臓が大きい。しかし血管の出来が悪く、酸素を運ぶのに時間が掛かる。そのため、持久力がなく、すぐに息切れしてしまう。


 ☆クモには書肺しょはいの他に、気管きかんを併用する種類が存在する。気管きかんから取り込まれた空気は、空気のまま各部に運ばれる。


 ☆クモの気管きかんは未発達で、全身に張り巡らされていない。特にあしのある頭には、あまり気管きかんが伸びていない。そのため、あしに酸素を送るのが苦手で、すぐに息切れしてしまう。


 ☆クモの気管きかんは四つの肺の内、後ろにある二つが変化したもの。


 ☆クモと同じ鋏角類きょうかくるいのサソリは、八つの書肺しょはいを持つ。


 ☆同じく鋏角類きょうかくるいのカブトガニも、書肺しょはいに似た「書鰓しょさい」を持っている。


 ☆ザトウムシは鋏角類きょうかくるいだが、気管きかんで呼吸を行う。


 ☆ダニも気管きかんで息をするが、種類によっては皮膚呼吸ひふこきゅうを行う。


 ◇参考資料


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 クモ学 摩訶不思議な八本足の世界

 小野展嗣著 東海大学出版会著


 ネイチャーガイド 日本のクモ

 新海栄一著 (株)文一総合出版刊

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