第2話 友の秘密

 壮志郎は自分を助けてくれたそ両手に、小刀が一本ずつ握られているのに気が付く。


 そして自分には縁がないと思い、興味を持っていなかった組織のことを思い出す。


 この世にある『おそろしきもの』に反抗し、人々を守る組織。人々は名前の由来を知らずも彼らを〈反逆軍〉と呼ぶ。


「君、そこから動かないように。少しでも動かれると、たぶん向こうの思うつぼだから。具体的に言うと、たぶん見えないナイフみたいなのが飛んできてるんだよね」


「え……そんなものあるの……?」


「あるある。万能粒子を使えば、やること為すことなんでもありだもん。だから私が君を守ってあげるにはそこにいてもらうしかない。おっけ?」


 壮志郎はすぐに頭を縦に振った。奇跡のようなタイミングで助けてくれたその人の話を聞かないという選択肢はなかった。


 反逆軍の女性。金髪に染めた髪をツインテールにして、その露出も必要以上にやや多め。外見からすれば、英雄を名乗れるような性格をしているとは思えない。


 しかし、目の前の光景はその外見から得られる印象を一蹴するほどに、壮志郎にとって感動するものだった。


 自分の理解が及ばない『おろそしきもの』に対して果敢に挑み、そしてまったく引けを取らない。


 戦いの素人である壮志郎には何をやっているかはわからなかったが、それでも、強く壮志郎の心に響いたものがあった。

 

 助けられたことが本当に嬉しかった。


 おかげでまだ生きられる。


 自分の感情の中に沸き上がったのは感謝と憧れだった。


(なんて強い人だろう。あの人、自分でヒーローって言っていたけど)


 壮志郎も男の子だ。かつて、テレビの向こうで格好良く敵を倒し、正義を語るヒーローを見てきた。


 少しは大人になり、そんなものは現実にはいないのだとだんだんと感じていたところだった。


 しかし、今自分の前で命をかけて自分を助けるために戦っているのは、まさにヒーローじゃないかと、壮志郎は思った。


(格好いいな……!)


 自分のあんなふうになれたらいいな。


 本当に、かつてヒーローになりたいと将来の夢を語った頃のような、あまりにも子供っぽい理由だった。


 しかし、この出会いは、そして抱いた感情は壮志郎を心を、そして生き方を変えるのには十分な理由となった。

 

「お前……!」


 壮志郎の隣に1人、まさかと思えるよく知った顔が見えたのはちょうどその時。


「ウッチー! その子連れてって!」


「隊長、一人で大丈夫ですか!」


「私を誰だと思ってるの? あなたの師匠でしょ」


「そうですね。では、後ほど合流を!」


「オッケー! ウッチー、しくじんなよ!」


 壮志郎は新しく現れたウッチーなる人物に無理やり引っ張られてその場を後にすることになる。


 壮志郎は最後の見えなくなる一瞬まで、連れられながらも、自分を助けてくれた女の人の勇敢な戦う姿を目にしていた。


 しばらく走り。


 反逆軍の本部であるセントラルタワーの近くに到着したとき。ウッチー、ではなく内也が壮志郎に話しかける。


「お前! なんで夜中に出歩いてんだよ!」


 急に怒鳴られたがそれも当たり前のことだ。危険であることは今日の体験で身に染みた。


「……ごめん。その、お前夜歩いてるって噂、気になってさ」


「はぁ。だからって」


「だってお前、夜に電話とかメッセージとか返してくれたことないじゃん」


「ああ。あーそうか。そうだったな。それで気になったわけか」


 学校で見る、ふざけ半分の内也とは違う、今はまじめ度100パーセントの彼であることを、壮志郎は感じ取っていた。


「お前、それ」


「ああ。もう隠せないな」


 壮志郎は一瞬で、内也がなぜ夜に家に居ないか、その理由を察した。内也は懐から一枚の名刺を出す。


『京都反逆軍 夢原隊所属 西内也二等戦闘官』


 内也もまた、先ほどの女の人と同じヒーローをしていたということだ。


「そうか。そうだったのか」


「……なんか気持ち悪い顔をしてるぞ」


 壮志郎は自分が今、相手からすれば意味不明な笑みを浮かべていたことに今気づく。


 しかし、すごく愉快な気持ちだったのでそれを収めるつもりはなかった。


「すごいな。格好いいな、反逆軍って」


「はぁ? お前何言ってるんだ?」


「ヒーローだ。本当に」


「ガキかよお前……」


「それはまあ、そうだけどさ。でも、すごく格好良かった」


 内也は壮志郎の頬をつねる。


「いてて、何しやがる」


「その前に言うことあるだろ。師匠ももう少しで来ると思うから、ちゃんと言えよ」


「あ、ああ。そうか」


 壮志郎は自分がかなり失礼をしていたことに気が付く。助けてもらったならお礼をする。感謝の意を伝えるのはマナー以前の問題だ。


 壮志郎は内也にも、


「ありがとう。本当に助かった」


 しっかりと礼を述べた。


 内也は、少し照れながら、


「ま、まあ、助けたのは先輩だけどな」


 と一言壮志郎に言い返したが、内心悪い気分ではなかった。

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