15 再度聴取

 私たちが13号室を出てすぐに、係長に電話がかかってきた。

「おう、高木か。どうだった、うん、うん、よし、わかった。よくやった」

「係長、高木先輩、何て言ってたんですかー」

「ああ、高木にタクシー会社を調べてもらってた」

「タクシー会社ですか?」

「そうだ、岡倉君子がここまで来るのにタクシーに乗って、熊が出るということを聞いたと言ってたろ。一応、調べてもらってたんだ。昨日この旅館まで来たタクシーなんて、おそらく1台だけだろうしな。案の定、すぐにそのタクシーの運転手が見つかった。その運転手によると、30歳前後の女性を昼の12時頃に幽玄荘まで乗せたが、熊が出るなんて話、してないということだ」

「えー、岡倉さんがウソをついたってこと?」

「ええ、そういうことね。係長、すぐに岡倉君子に話を聞きましょう」

 私たちは岡倉君子を呼び出した。


「岡倉さん、どういうことでしょうかね?」

「……すみません、ウソをついてしまいました」

「なぜですか?」

「……それは……」

「昨晩9時頃、何をされてましたか?」

「……実は、木村さんと……」

「木村さん? 木村さだおさん、ですか?」

「……ええ……」

 岡倉君子は事件の起こった時間に料理長の木村さだおと会っていたと言うのだ。


「木村さん、あなたにもう一度お話を伺おうと思っていたら、岡倉さんから聞きましてね。昨晩9時頃、あなたは岡倉さんと会っていましたね?」

「……ええ、そうです」

「どこで、ですか? 何をされてましたか?」

「外ですよ、今朝も言いましたけど、外です。外に停めてある私の車の中に二人でいました」

「なぜ、正直に言わなかったんですか?」

「……男と女が夜、車の中にいたって、普通言いにくいっしょ」

「銃声は聞こえませんでしたか?」

「いいえ、銃声なんて聞こえませんでした。吹雪きの音がすごかったんで」

 木村はぶっきらぼうに答えた。


「岡倉さん、なぜウソを言ったのですか?」

「……私は二階へ行ったのは一度きりで、それで、露天風呂を利用しなかったことを何とか信じてもらおうと思って、それで、つい……」

「お二人はいつからそういうご関係に?」

「……二カ月くらい前にSNSで知り合って、会ったのは昨日が初めてでした」

「銃声は聞こえませんでしたか?」

「……いえ、猛吹雪だったし、車の外で音がしたとしても、全然わからなかったです」

 申し訳なさそうに岡倉が答えた。


「岡倉君子と木村さだおは男女の関係にあったのか。香崎、何かおかしい点はあったか?」

「いえ、二人とも正直に話していました。ウソをついている感じはありませんでした」

「係長、私も小春と同じ意見です」

 突然、高木先輩から係長に連絡がきた。

「おう、高木、どうした? ……何だって! 至急向かってくれ!」

 係長がとても興奮していた。

「市民病院に意識不明の患者が運ばれた件だが、病院から署に連絡があって、その患者が一時的に意識を取り戻した。その時、自分のことを江島健だと名乗ったらしい」

「マジですか!」

「高木にもう一度病院へ向かってもらってる。今朝の報告だと、その患者は、『市民憩いのハイキングコース』にある池のほとりで倒れていたらしい。その池は、ここの川の下流にあたる」

「係長、だんだんと繋がってきましたね」

「ああ、そうだな」

 この時、もう外は真っ暗になっていた。すでに夜の7時頃だった。

 係長の指示で、捜査の続きは翌日に行うことにした。係長も幽玄荘に宿泊することになった。

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