16 絶叫旅館?

 夕食は、旅館が用意してくれた。そして、私と京子は引き続き13号室に泊まることとなった。

 私は大浴場を借りてから13号室に戻り、髪をドライヤーとブラシでとかしていた。

「キャーーーーッ!」

 突然京子が悲鳴を上げた。

「京子、どうしたの!」

「もーう、小春、びっくりさせないでよ」

「何が?」

「長い黒髪で顔を隠してたら、幽霊みたいじゃん」

「あのねえ、京子。怖い怖いと思い込んでるから、いろんなものが怖く見えてくるのよ」

「だって13号室よ、ここ、13よ。何で13なの! 他にも部屋が空いてるんだから、貸してもらえないのおおおお?」

 そう言って京子は部屋から出て行った。私は心配して京子を追いかけて行こうとした。その時、悲鳴が聞こえてきた。

「キャーーーーーッ!」

「どうしたの、京子!」

 私は急いで部屋から出ると、京子は二つ隣の15号室の前で震えていた。叫び声を聞いて、遊技場で遊んでいたホラー映画研究会のメンバーが数人集まっていた。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

 京子は15号室の中を指さしていた。

「へ、へ、変態!」

 私は空いているドアから15号室の中を見た。係長が半裸で歯磨きをしていた。

「え? 係長?」

「おう、何だよ! いきなりドアを開けて、変態って叫ばれて、一体何だよ!」

「えーー、もーう。係長、何やってるんですかーー」

「着替えたり、歯磨きするのにちょっと借りてるだけだろ!」

 私はホラー映画研究会の方々に謝りながら、15号室の戸を閉めた。

 今村知子が京子を見て笑っていた。

「んふふっ。あっごめんなさい。刑事さんって硬派なイメージがありましたけど、面白い方もいるんですね」

「京子はギャルのノリが抜けきれてないんですよ」

「えー、そんなことないって。誰でも驚くじゃん、部屋の戸を開けたらおっさんがいるのよ」

「おっさんで悪かったな!」

 係長が部屋から出てきた。

「係長ー、パトカーで寝るって言ってたじゃないですかー」

「パトカーの中で着替えるスペースなんかない。大体、歯を磨かないと寝られないだろ」

「他の部屋を借りれないんですかー」

「無料じゃないんだ。予算の都合上、ひと部屋しか借りられない、我慢しろ」

「何でよりによって13号室なの……」

「磯田、そんなに怖いんだったら、俺も一緒に13号室で寝てやろうか?」

「係長ーーー、県警のセクハラ相談窓口に通報ですねーーー」

「……悪い、俺が悪かった」

 係長はしょんぼりしながら玄関を出てパトカーへと歩いて行った。

「んふふふふ……」

 今村知子は必死に笑いをこらえていた。

 前日とは違って、まったく雪は降っていなかった。

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