14 家宅捜索②

「おう、嶋村、ご苦労」

 係長はメモを取りながら嶋村先輩から報告を受けていた。セクハラ発言をしている時の顔とは大違いのすごく真剣な表情をしながらメモを取っていた。


「ご苦労だったな。次は、害者の携帯電話の通話記録を調べてくれ。よろしく頼む」

 係長はため息をついてから、ホワイトボードに書き始めた。

「江島健、市内で豆腐屋を営んでいた。数年前に店を畳んでからは妻と年金生活を送っていたらしいが、その妻は3年前に他界している。江島は猟友会に約40年所属するベテランのハンターだ。江島宅を捜索した結果、自筆と思われる遺書が発見された。遺書の内容を要約すると、こうだ。オレオレ詐欺の被害にあって900万円を奪われた。老後の生活のために貯めていた大切な900万円だ。妻に先立たれており、今後どのようにして生きて行けばいいのかわからない。いっその事、死んでしまいたい。猟師として長年使用してきた愛用の猟銃で死のうと思う。……ということだ」

 係長は憤っていた。

「係長、江島さん、オレオレ詐欺の被害者なんですか」

「遺書によるとな。で、鑑識の調べによると、熊田が江島の猟銃で撃たれたことはまず間違いないらしい」

「江島さんが撃ったんですか?」

「京子、それはまだわからないわ」

 係長の電話が鳴った。

「はい、村田だ。おう、嶋村か。……うん……うん……えっ、本当か。ああ、わかった。ご苦労」

「係長、どうしたんですか?」

「おう、熊田の自宅にあったオレオレ詐欺の被害者の住所録の中に、江島健の名前が見つかった。名前はマーカーで消されてあるということだ」

「じゃあ、江島さんは、熊田と吉村の二人からオレオレ詐欺の被害に遭ったということですか」

「そうだろうな」

「となると、やはり、江島さんが害者二人を殺したという線が最も可能性がありますね」

「オレオレ詐欺の被害に遭った江島が、オレオレ詐欺犯の熊田と吉村を殺害した、か。単純な怨恨による殺人だとしたらそうなるだろうが、じゃあ、江島はどこへ行ったんだ。山の中に隠れたか、あるいは、すでに自殺したのか……」

「江島さんが犯人だったとしても、熊田と吉村の二人が悪いんでしょ。これで江島さんが罪に問われるなんて――」

「京子、個人的な感情は捜査に必要ないわ」

「理由はどうあれ、俺たちは犯人ホシをあげるだけだ」

「でも……」

「磯田、まだ江島が熊田を撃ったとは断定できない」

「そうよ、京子。もしかしたら、そんな単純な事件じゃないかもよ」

 捜査に私情を挟む人間はきっと怖がりなのだと、私は思っていた。なぜなら、京子も高木先輩も捜査に私情を挟む人間だからだ。京子は悲しそうにしていた。しかし、じっとしてもいられなかった。

 私たちは、怪しいと睨んでいた料理長の木村さだおにもう一度話を聞くことにした。


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