13 家宅捜索①

 私たちは、一旦13号室に戻り、旅館から借りたホワイトボードを使って、事件の概要をまとめることにした。

「今の段階では、木村さだおが何かを隠してる気がするな。お前ら、どう思う?」

「そうですよ、係長、あの男、絶対に何か知ってますよ」

「係長、私もそう思います」

 私たちは、害者二人の死亡推定時刻に木村さだおが何かをしていたに違いないとのことで一致した。

「女将が、二階の24か25号室のドアが閉まるのを目撃している。真実であれば、ホラー映画研究会のメンバー以外の何者かが部屋に入ったということか」

「指紋とか毛髪が出てこないと、特定するのは難しいですね」

「おう、そうだな。全員にアリバイがないか……」

 係長の携帯が鳴った。害者二人の家宅捜索をしている高木先輩がかけてきたようだった。係長はメモを取りながら聞いていた。


「おう、わかったご苦労。じゃあ、例のタクシーの件もよろしく頼むぞ」

「係長、何かわかったんでしょうか?」

 私が尋ねると、村田係長はホワイトボードに書き始めた。

「おう、害者のことだ。高木に害者宅を捜索してもらってた。えー、吉村けん、35歳、住所は市内○○町、仕事はフリーランスで映像関係の仕事をしている。自宅にはパソコン、DVDレコーダー、テレビなど映像関係の器具がたくさん置いてある。最近は仕事にあぶれていたと、友人に話していたようだ。熊田しか雄、35歳、住所は市内○○ヶ丘、近所の人の話だと仕事は何をしているのかわからないそうだ。そして、熊田の自宅から、オレオレ詐欺の被害者の住所録が見つかった」

「えっ! それって」

「住所録ですか」

「そうだ、県内の高齢者の氏名、住所、電話番号、家族形態が書かれてある。一部、マーキングされている名前があり、それらの名前を調べたところ、オレオレ詐欺の被害者と一致したということだ」

「亡くなった二人がオレオレ詐欺の加害者って、こと……」

「係長、だんだんと複雑なことになってきましたね」

「いや違うぞ、香崎。だんだんと真相に近づいてるんだ」

 私は係長の言葉に身の引き締まる思いがした。

「それはそうと、係長、こういう捜査会議って、普通、署でやるもんじゃないんですか?」

「おう、普通そうだ。だがな、署からこの旅館まで往復3時間かかるんだぞ。それに、宿泊客はまだ数日ここに滞在する予定だし、わざわざ署へ戻るのも面倒だ」

 確かに合理的な理由だった。しかし、大きな事件に取り掛かるのは私にとって初めてのことだったので、署でどっしりと構えて捜査したいと、この時は思った。

 係長はホワイトボードに新たに書き出した。

「猟銃の持ち主は、江島健、68歳、住所は市内○○町、市の猟友会のメンバーだ」

「猟友会ですか」

「係長、じゃあ、江島さんは熊を駆除するためにここに来てたんじゃないですか」

「岡倉さんが、熊が出るって言ってましたよね」

「んー、考えられることではあるな」

「江島が熊田を撃って、逃走した……」

「えー、小春、それって単純すぎない?」

 京子から単純だと言われたくはないと、この時は思った。

「嶋村が江島宅を捜索してる、連絡を待とう」

 私たちはもうとっくに昼を過ぎているということに気づいた。係長がパトカーからカップラーメンを持ってきた。お湯を沸かして食べた。京子だけ文句を言っていた。

「えー、こんなのじゃすぐにお腹が減ってくるじゃん」

「京子、贅沢言わないで」

 昼食を終えて、しばらくティータイムを取った。といっても、自販機で買ったお茶を飲んだだけだ。それから、捜査状況と捜査方針の確認を行い、13号室で待機していた。

 係長の携帯が鳴った。嶋村先輩からだった。

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