12 心霊旅館?

 私たちは再びロビーへ戻った。係長はずっと電話をしていた。京子はスマホでこの旅館のことを調べていた。

「ねえ、小春。なんかさ、検索したらヤバいのが出てくるんだけど」

「ヤバいのが?」

「そう、この旅館、心霊スポットらしいのよ」

「本当に?」

「ホントよ! 部屋によっては古い御札が貼られてあって、その御札は落ち武者の霊を鎮めるためのものだから、はがすと鎧兜がひとりでに動き出すんだって。私らが泊まった13号室のことじゃないの!?」

「京子、違うって。御札じゃなくて、電気はこまめに消しましょう、って書いてあったでしょ」

「昔この近くが古戦場だったらしくて、幽玄荘の横を流れる川で多くの武士が命を落としたって」

「いや、そんな何百年も昔のことを」

「いやあああああ!」

「おい、磯田、やかましい、静かにしてくれ」

 電話中の係長が京子に注意した。ちょうどそこへ、京子の悲鳴を聞いた今村知子がやって来た。

「どうかしましたか?」

「いえ、今村さん、何でもありません。彼女、すごく怖がりで、それで――」

「この旅館、呪われてるー」

「もしかして、この旅館が心霊スポットだっていうネット記事でも見たんですか?」

「ええ、彼女が自分で調べてて」

「小春、ヤバいよー」

「あの、今村さん、ホラー映画研究会の皆さんがこの幽玄荘に宿泊している理由って……」

「ああはい、この旅館が有名な心霊スポットなのも私らが来た理由のひとつです。この幽玄荘って映画に出てきそうな感じの昔ながらの日本旅館ですよね。周りは山とか川に囲まれてて、住宅地から遠く離れてるし、幽霊が出てもおかしくないような雰囲気なので、それで私たちホラー映画研究会は毎年この旅館で合宿してるんです」

「そうだったんですか」

「はい。合宿中にホラー映画を見たり、実際にネットに上がってる心霊現象を調べてみたり」

「あなたたち、頭おかしい、頭おかしい、頭おかしい」

「こら、京子、失礼でしょ。ごめんなさい、今村さん、彼女パニクってて」

「いえ、全然かまいません。誰にでも苦手なことってありますから」

 京子は震えていた。だけども今村は話を続けた。

「この旅館、去年の、日本の心霊スポット百選に選ばれたんですよ」

「へー、そうなんですか」

「夜になると旅館に停められている車が勝手に動く、っていうのでリストに入ったんです」

「いやああああ! そんなの聞いたら車に乗れない!」

「あ、ごめんなさい。怖がらせてしまって」

「磯田、静かにしてくれよ!」

 係長が怒った。私は少し緊張した。なんとか京子を落ち着かせようとした。

「京子、だったら車に乗らなかったらいいのよ」

 そうすると京子は、正気づいたように震えが止まった。

「あっ、そうか。それはそうよね」

 友人でありながら京子のことを、何て単純な人間なんだろうと思ってしまった。

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