7 事情聴取②

 私たちは次に、幽玄荘の主人、神田正雄から話を聞いた。

「まさか、うちの旅館で殺人だなんて」

 神田正雄、50歳。この事件の数年前に亡くなった父親から旅館を引き継いだ二代目だ。見るからに胡散臭い感じの男だった。私が質問役を任された。

「神田さん、昨夜9時頃は何をされていました?」

「ああ、9時頃なら、スタッフルームで女房らと仕事してましたよ」

「ずっと奥さんたちと一緒にいましたか?」

「いや、ずっとじゃないですよ。宴会場へ料理を運んだり、トイレに行ったり」

「その時、銃声を聞きませんでしたか?」

「銃声? いやそんなの聞いてませんね。風の音がビュービューいってたから、風の音くらいしか聞いてないですね」

「亡くなった熊田さんと吉村さんについて、何か不審な点はなかったでしょうか?」

「うーん、初めて宿泊されたお客さんでしたから、面識もありませんでしたし、変わったこととかは別にありませんね」

「そうですか。亡くなった二人ですが、吹雪の中、一人は露天風呂で着ぐるみを頭にだけかぶって全裸で、もう一人は旅館の裏側で全裸で倒れていました。どう思われますか?」

「変態ですね」

 神田正雄はきっぱりと言い切った。


 次に、旅館の女将、神田久子から事情を聴取した。45歳、しっかり者の女性だ。

「本当に、驚きです。まさかこの旅館で殺人事件が起きるなんて。早く犯人を見つけて下さい、お願いします」

 係長が質問した。

「奥さん、昨夜9時頃、何をされていましたか?」

「はい、9時頃ですか。昨日は映画研究会様の宴会がありましたから、そうですね、お料理、お酒をスタッフルームから二階の宴会場まで運んだり、宴会のお供をしておりました」

「宴会場は露天風呂のすぐ側ですよね、何か銃声のような音を聞きませんでした? 宴会場とスタッフルームを行き来している間でも、何か聞こえませんでしたか?」

「いえ、宴会ではずっとカラオケをされていましたし、外は大雪、吹雪きでしたので、何か音が聞こえたかと言われても、聞こえなかったとしかお答えできないです」

「んー、そうですか。亡くなった熊田さんと吉村さんについて、何か変わったこととかありませんでしたか?」

「宴会が始まってから、すぐだったかしら、二階へ上がった時に、どなたかが二階の24号室か25号室に入られたのを見ました。ひょっとしたら、そのお二人のどちらかだったのかもしれません。というのも、二階の8部屋は全て、映画研究会の方がご利用されてました。しかし、私が宴会場に行くと、たしか映画研究会の方は16名全員いらっしゃったはずなんです。今思えば、一体どなたが24か25号室に入られたのか……」

「その二階の部屋に入った人物の服装とかは?」

「いえそれが、部屋の戸が閉まるのが見えただけで、人を見たのではありませんので、服装までは……」

「戸が閉まるのを見た、ふむふむ。亡くなった二人について、何かお気づきになったことはありませんか?」

「いえ、特に……」

「二人とも、全裸で亡くなりました。熊田さんは熊の着ぐるみの頭の部分だけをかぶって、吉村さんは旅館の裏側の雪の上で倒れていました。吹雪の中、なぜ、かぶり物をして、二人ともなぜ全裸だったんでしょうか?」

「きっと変態だったんだと思います」

 神田久子もきっぱりと言い切った。

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