5 捜査開始

 京子と一緒に、“出そう”な部屋に泊まり、朝になった。

 私たちは旅館の従業員と見張りの警官に挨拶し、旅館の内外を歩いて回った。雪は降ってなかったが、外にはまだ積もっていた。


 この旅館、幽玄荘は横長の建物になっている。二階建てで、玄関部分だけが少し出っ張っている。玄関を入ると、すぐ左側にスタッフルームがあり、真正面に中央階段、左前辺りが遊技場、左奥が大浴場になっている。右に曲がると廊下があり、突き当りに階段がある。廊下の左側に客室が10室並んでいる。二階もほぼ同じ配置になっているが、違う所は、遊技場と大浴場の真上が宴会場になっており、そのさらに奥側に露天風呂に通じる通路があることだ。そして二階は客室が8部屋になっている。旅館自体、左側が山に面しており、露天風呂はその山の中につくられ、旅館との間に木の板で仕切られた通路で結ばれている。そして露天風呂は、向かって右が男湯、左が女湯になっており、それぞれ2メートルくらいの木の板の柵で周りを囲まれている。


 旅館がどのように位置しているのかを外へ出て確認した。旅館の前は観光バスがUターンできるだけの十分な広さがある。旅館の向かって左側が山で、右手側がちょっとした崖になっている。崖の下は川だ。建物の右側に車がすれ違えるくらいの幅があり、旅館の裏側まで続く通路になっている。裏側に回って見ると、通路は行き止まりになっている。通路の右側も崖になっており、その下も川だ。行き止まりは山の急な斜面になっていて、その上に露天風呂がある。柵の一部が壊れている個所があるので、行き止まりの上はちょうど男湯になる。女湯は男湯の向こう側にあることになる。


 私たちが旅館の玄関まで戻ると、ちょうど県警の車が到着して、村田係長が降りてきた。

「おう、香崎、磯田、ご苦労」

 係長に続いて、私たちは旅館の中へ入った。


 鑑識の調査の結果わかった情報について、係長から説明を受けた。

 被害者は、熊田しか雄、35歳。それと、吉村けん、35歳。熊田は男湯の露天風呂の横で、全裸で熊の着ぐるみの頭の部分だけをかぶり死亡していた。死因は銃によるものだった。吉村はちょうど男湯の下にあたる旅館の裏側で全裸で死亡していた。死因は凍死ということだった。両名とも、死亡推定時刻は、午後9時頃だった。

 第一発見者は、旅館の従業員森田一子、56歳。彼女は事件当日の夜11時ごろ、吹雪だったこともあり、利用者に利用を控える旨を伝えるために露天風呂へ行った。男湯に向かって叫んだのだが、いくら呼んでも返事がなく、男湯の扉を開けると、熊田しか雄が熊の着ぐるみの頭の部分だけをかぶって倒れているのを発見した。彼女は熊田に駆け寄ったのだが、すでに息がないことに気づき、スタッフルームへ行き、110番通報した。

 県警から村田係長と高木先輩、鑑識班が急行し、旅館の裏側で死亡している吉村けんを発見した。それから、京子と私に連絡があり、私たちも駆けつけることになった。

 事件当日の宿泊者は、ホラー映画研究会のメンバー16名、東京の会社経営者1名、そして熊田しか雄と吉村けん、計19名だった。ホラー映画研究会のメンバーは事件の二日前から宿泊していた。彼らは、会社員、学生など様々なバックグラウンドを持つ男女で構成されていた。彼らメンバーは、二人でひとつの部屋に滞在して二階の客室8部屋を全て利用していた。東京の会社経営者はブティック経営者の32歳女性だった。彼女は一階の12号室を利用し、被害者二人は14号室を利用していた。


 一階の客室も二階の客室も、旅館の裏手側の方に窓があるのだが、直径30センチほどの円形状で、開閉できない窓が設置されていた。なので、吉村が客室の窓から外へ出るのは不可能だった。

 この時、私が最も印象に残ったのは、熊の着ぐるみを着ていたのが熊田だったということだ。自分の名字に「熊」という字があるから熊の着ぐるみを着たのだろうかと私はすごく単純に考えてしまった。捜査情報を頭に叩き込み、私たちは本格的に捜査を開始した。

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