3 現場検証
全裸の害者が倒れている旅館の裏側は深く雪が積もっており、ゴム長に履き替えないと歩けそうになかったので、私も京子も係長について行かなかった。数分後、ゴム長を履いた係長が歩きにくそうに、旅館の裏側の高木刑事がいる現場に着いた。
「係長、こちらです」
「おう、どれどれ、猟銃か」
「ええ、凶器で決まりですね」
鑑識班が雪に埋もれている猟銃を丁寧に掘り出していた。
私と京子は、柵が壊れた所から下を見ていた。ライトの明かりが雪に反射して、目がチカチカして私は気分が悪くなってきた。反対に、京子は目を輝かせてワクワクしていた。
「うーん、外の害者が着ぐるみの害者を撃って、逃げようとして柵を壊して下へ落下した、か……。そしてその後凍死した……小春どう思う?」
「今のところそれが一番可能性があるんでしょうけど、なぜ、全裸なの?」
「それは、露天風呂に入ってたからじゃないの?」
「だとしても、服を着てから逃げればいいんじゃない?」
「いや、小春、それがさ、脱衣所には一人分の衣類しかないのよ」
「一人分だけ? で、どっちの男の衣類なの?」
「まだわかってない。けど、仮に外の害者のものだったら、服を着てから逃げるでしょ。雪が降ってたんだし、この寒さよ。だから、衣類は、着ぐるみの害者のものね、おそらく」
「そうね、京子の言うように、普通は服を着てから逃げるわよね」
私はもう一人の害者が気になって後ろを振り返った。京子も同じく振り返った。二人で着ぐるみの害者に近づいて観察した。私は全く何がどうなってこういう奇妙なことが起きたのか不思議で仕方がなかった。京子は推理を続けた。
「着ぐるみの害者は、着ぐるみの頭の部分だけ着用して、体の部分は脱いでいる」
「そうね、これも変よね」
「なぜ、脱いでいるのかしら。始めから脱いでいたのか、撃たれてから自分で脱いだのか、あるいは、外の害者が脱がしたのか――」
「入浴に来てるんだから、始めから脱いでいてもおかしくはないけど、だったらそもそもなぜ着ぐるみを着ていたのかしらね。撃たれてから脱いだのなら、自然な流れだけど、やっぱりそもそも、なぜ露天風呂に来て着ぐるみを着たのかしら。もし、外の害者が脱がしたのなら、脱がさなければならない理由があったっていうことね」
「いや、小春、ただ単に外の害者が変態だったのかもよ」
「外の害者が変態だから、全裸でこの着ぐるみの男を撃ち、そして着ぐるみを脱がした、ってこと?」
「ええ、男の裸を見たかったのかもよ」
「だとしたら、変態ね」
「ええ、変態ね」
京子はそう言って、着ぐるみの害者をじっくりと見た。
「何にしろ、小春、全裸で着ぐるみを着ていたこの害者も変態じゃない?」
「着ぐるみを着るときって、どうなの? 普通、裸になって着るものなのかな? 夏場なら服を脱いでから着るかもしれないけど、雪が降る真冬にそんなことする?」
「いや、小春、きっと裸になって着ぐるみを着るほうが気持ちいいのかもよ」
「だとしたら、変態ね」
「ええ、変態ね」
私と京子はいつの間にか変態談義に花を咲かせていた。
柵の向こう側の下から、係長が呼んでいるのが聞こえた。ずっと呼んでいたようだったが、私たちは変態談義に集中しすぎて気づかなかった。私は慌てて壊れた柵の間から、下にいる係長に向かって叫んだ。
「はい! すみません、係長!」
「今日はもう引き上げるぞ。事情聴取は明日だ。後は鑑識に任せておこう。それから香崎、お前と磯田は一緒に今日はこの旅館に泊まってくれ。俺と高木は一旦署まで帰る。明日の朝にまた来るから」
「え!」
「……マジで……」
京子はすごくうれしくなさそうだった。
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