第一章 川崎隼人と悪魔たち
Act 1.金持ち爺さんとバカたれな孫
噂の悪党
※※※この作品は町の
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――『…続いてのニュースです。先月、
ズズー… 店内のテレビから流れるニュースを横目に、俺はカウンター席でラーメンをすする。ただひたすらに…
「凄惨な事件だよな、女の子の顔を腫れ上がるまで殴ったりするかね…」
「ホントだよ…!! それにしても地裁の判断はどうなってるんだ!! 証拠は出揃ってるのに不起訴処分って」
テーブル席に座るサラリーマンたちの会話。聞かないようにしてても入ってくるノイズ… 戦争はなくなったのに、みんなどこか飢えている。
暗くて陰湿でジメっとした不快な事件が増えたな… なんて、
…耳が痛い話なんだよ、
◇◇◇
『
所詮は噂。周辺住人に聞いた話だから全部が全部は信じない。ただ、加害者の
高校生ながら一人暮らし。幼少期は裕福な家庭で暮らしていたが、12才の頃に両親の離婚。生活の質は天から地へと落ちた。勇次の親権は母の手に渡ったのだが、どうやら養育費等の一切受けとることができなかったらしい。母子手当とパートでなんとか生計を立ててきたが、勇次14才の頃に母親がアパートの一室で首を吊っている状態で発見される。遺書には『前の暮らしに慣れて、醜い今に嫌気がさした』…とのこと。残された
◇◇◇
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
「…どうも」
出迎えてくれたご老人… 池があるような豪邸。そこが勇次の祖父・
「川崎さん… あなた方の噂はかねがね聞かせて頂きました。東洋コーポレーションの井口社長はあなたの事を
「…すいませんが、本題に入っていただけますか?」
老人の言葉を遮って、俺は事を進めさせた。町の便利屋としての仕事を早く遂行するために…
「…失礼しました。簡潔に言いますと、
「
「はい… 井口社長に絡んできた暴力団関係者を、最終的には対話で退けたあなたを見込んで… 是非!!」
急に立ち上がって俺の手を握ってくる。…はぁ。困るんだよな井口社長。仕事の内容を誰彼構わずしゃべってもらっちゃ…
お灸をすえる… 早い話、大人の怖さを分からる、とか?
「何故。私なのですか?」
「たった一人でヤクザの事務所に乗り込まれたって聞きました。何かこう… 『必殺拳法』みたいなのが貴方には
なんだかはしゃいでるお爺さん。男ってのはいくつになっても、マンガに出てくる様なスーパーヒーローがカッコいいって思うんだな。にしても井口社長さんよぉ…!! 他言厳禁って意味が分かんねぇのかよ。
「…はぁ。お灸って言っても、出る杭を打つ… みたいなことがお望みですか?」
「…何やらあの子は最近、悪い連中とつるんでいるようで…」
「悪い連中… とは限らないんじゃないんですか? 仲のいい悪そうな見た目のお友達だとか…」
「私も多少ヤンチャでしたし、グレる気持ちも分かります。大人とのしがらみであったり、環境の変化が
「危ない橋…?」
「…違法薬物の売人をするギャンググループに加入したと… 探偵を通して知りました。私はね、あの子を悪人にしたくないんです…!!」
爺さんは涙をハンカチで拭う… 悪人にしたくない? もうすでに悪党だよ… 犯罪者さ。
「気持ちは分かります… 確かに、これ以上悪いことをさせるわけにもいかない」
「では、引き受けてくれますか?」
「それは
「何でしょうか…?」
俺はこの依頼を引き受ける為の核心に迫る。
「被害者やその家族に対して、誠実な対応を取りましたか?」
「誠実… と言うと?」
「世間ではよからぬ噂がまことしやかに囁かれています。脅迫だとか、金で退かせただとか…」
「そんなことしていません!! ちゃんと法に則った行いを… 違う。頭を下げました。何度も何度も…」
本心からの言葉を聞いた、間違いない。仕事柄色んな人間を見てきたけど、この人は嘘を付け切れるような人間じゃない。
「そうでしたか… すいません、傷つけるようなことを言ってしまって…」
「いえ… 私が悪いんです。歴史の積み重ねですね… ハッキリ言ってこれまでの私は他人に嫌われるような暮らしをしてきました。そうやって立てたのがこの豪邸。あらぬ噂が立つのも無理もない。ですが、今回ばかりはさすがに目覚めました。可愛がるだけが優しさじゃないって…!!」
「…」
彼の言葉が苦痛を孕んでいる。何があったのか口に出さずとも、苦労が垣間見える… 確かに彼の言った通りで、歴史の積み重ねで人の評価は変わるが、俺の目の前にいるお爺さんは悪党なんかじゃない。何度でもやり直せるんだ。『やり直そう』って心を持てるのなら…
「気持ちが聞けて良かった… ぜひ引き受けさせてください」
「あ、ありがとうございます…!!」
「ただ彼をグループから脱退させても、それだけでは根本の解決になりません。そもそも何故、彼を一人にさせるのですか? お父さん… えっと息子さんは今どちらへ?」
その話をすると顔つきが変わった爺さん。何か深い事情がありそうだ…
「や、奴は死にました。だから私が育てています…」
「死んだ? そんな情報は入ってないんですがね…」
「し、死んだんです!! 死んだ…」
死んだの一点張りで
「お父さんの件に関しては承知しました。…
「…そうですね。色々あり過ぎて、どれがきっかけなのかは当の本人でもないので分からないですが…」
話題を変えたことで、子息の話で閉ざしかけていた口を再び開いてくれた。
「…あの子はね、優しい子だったんです。『お爺ちゃん、お爺ちゃん』って懐いてくれて… あの子の名前は私がつけたんですよ。私の後を継ぐような子に成ってもらうために… それはもう可愛くてね? 初めての孫だったから…」
思い出話をしみじみ語る爺さん。昔を思い出して時折笑う。でもそれはすべてを黒に染めてしまったかのように、眉間にしわを寄せだす。
「きっかけはアイツだ…!! あのバカ息子!! アイツは私から遺産を搾取するだけでなく、あの子から笑顔を奪ったんだ!! 私の一番の宝物を奪った!! アイツのせいなんだ!!」
「…込み入った話を聞くのは大変恐縮ですが、具体的にどういう事があったのか教えてもらえますか?」
感情が高ぶっていて、主観的な言葉で自己完結してしまっている。これじゃ重要な事柄が聞き出せないからと、俺は冷静に話しかけた。
「すいません。お見苦しいところを… 聞いて、もらえますか? あの子が壊れた瞬間を…」
「お願いします」
壊れた孫、壊した息子、壊された関係… 胸糞悪い話が始まる。
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