川崎隼人の始まり



 優作… ラブホテルに入ろうとするバカップルに話しかけた。


「…昨夜ゆうべは楽しめたかよ?」

「だ、誰だ!!」

「誰でもいいだろう。来いよ…!!」

「うぐ…!!」

 男を黒塗りのバンに押し込んだ。ヒモでぐるぐる巻きにして…


「あ、ちょっと!! 警察呼びますよ?」

 片割れの女が背後から声かけてくる。どすを利かせて睨むと、尻もちを着いた彼女。


「呼べよ。そんなんじゃ俺は止められない…」

 そう言って、俺は車に乗り込んだ。助手席にバカを置いた。前回は後部座席で声が聞き取りづらかったし、若いからパワーがあったんで横に置いとけなかったが、今回はオッサンだ…


「な、何が望みだ!! 金か? 何処の組だ…!! オレのケツモチはな…!!」

「うるせぇんだよ!」

「ぐぅ…!!」

 頭を小突いた。自分より年上は気が引けるが、コイツならなんのためらいもない。


「…俺は親父でねぇし、親父も居なかった… だからこれが合ってるのかは分からねぇ… でもな、ガキの尻拭いぐらいどしっと構えてよぉ、進んでいかなきゃなんねぇんだよ!! それなのになんだ、てめぇは…!! 殺されても文句は言えねぇよ!!」

「こ、殺す気か? 待て!! 話し合おう!!」

「話し合う機会は何度もあったんだよ!! この腐れチンコ野郎!!」

「あぐ…!」

 俺は再び小突いた。今度は三発…


「人間を殺していいならお前はすぐさま殺す。でもお前は勇次の獲物だ…」

「勇次? じゃあ俺は…」

「勇次に殺させる。そんでお前ごともみ消す」

「む、無茶苦茶だ!! この国は人権が…」

「黙れ!! 無茶苦茶なのはどっちだ!!」

「はぐっ…」

 再三にわたる小突き、足りねぇ… おもいっきりぶん殴って、頭蓋骨を粉砕させてぇ。でもダメだ… 


「大人しく殺されろ、大人としてな…」

「ぐぐ…」

 午前0時50分… 俺達は指定した橋までやってきた。車を寄せて泊める。降りると先客がいたのが分かった…


「よぉ」

「…」

 バイクで駆けつけた勇次の姿があった。


「手首足首縛ったコイツをよ、今から川に落とそうと思ってな」

「…親父!!」

「お、おう勇次! 助けてくれ!!」

 勝手に喋りだしたので『誰が喋って良いって言ったんだよ!』と顔面を殴った。殴られた箇所が切れたようで、血が垂れてきた。


「あぎゃっ!! 血が、血がああああ!!」

「黙ってろや!!」

「ごがっ!!」

 息子の勇次にも殴られる始末。ぐったりとする勇作…


「このクズはホント胸糞悪いから、苦しめて殺したいと思ったんだ」

「…殺すって、マジかよ?」

「マジだ… ヤクザ事務所襲撃したオレだぜ? こんなゴミに同情しねぇ」

「で、でもよお!!」

「なんだ勇次… こんな良いところで怖じ気づいたのか? クライマックスまでもう少しだぜ?」

「う、うるせぇ!!」

 震えやがって… カッコつけてもブルブルじゃカッコ付かない。


「よっこらしょ…」

 俺は肩でバカ親父を担いで、橋のそばまでやってきた。


「お、おい!!」

「あばよ… クソヤロウ」

 そして落とした… ボチャン!!と勇作が川に落ちた音を確認して、俺は車に乗り込んだ。そして振り替えることなく車を走らせた。走らせながら、もう一つボチャン!!と何かが落っこちた音を聞いた…


 ◇◇◇


 それから一週間後、便箋にて依頼主の寺田さんから近況を聞いた。何でも勇次が被害女性のもとに直接謝罪に言ったらしい。話によると勇次は被害者の父親に顔が腫れるほど殴られて、『もう二度と娘を泣かせるな』と言われたらしい。ちょっとしたいざこざでカッとなっただけで、お互いまだ好きあってるんだとか。頭の悪い話だ…


 勇次は学校を辞めて家業(不動産)の見習いをやってるらしい。土建屋でアルバイトしてた知識やコネも存分に活かせると意気込んでる様だ。


 勇作はと言うと、息子の勇次にケツ叩かれながら、ゴミみたいな給料で仕事の手伝いをさせられてるらしい。ちっ、生きてやがったか… もちろん許されざる数々、証拠もない。でも振り替えるより、バカ親父を更正させたいと思ったんだってさ。オレだったらどうしてたろうな…


 止まってた歯車が動き出した。俺はその歯車が錆びない様に見守ることとしよう。


「さてと…」

 夜七時、俺は鹿舞町に来ている。帝北会… ヤクザ事務所が今、揺れに揺れているらしい。頭を失った組織、多額の負債、メンツの問題… 入ったら最後、出られないんだとか…


「…あの黒塗り」

 事務所跡地… 一夜のうちに解体、撤収… 闇ってのは奥が深いな。付近には黒塗りの高級外車が止まってる。組長の金村って奴が一人でトンズラこいたらしい… 奴が幸せ掴んだばかりの寺田さんたちに災いしないように追っ払わないとと思い探すが見当たらない。


 繁華街の中央、巨大モニターがある映画館の方へと来た。人で溢れてる。上から下まで色んな人間が集う… 本来なら逃走するなら遠くが基本だが、ここいらで目撃情報があったらしい。ヤクザ連中もそれを嗅ぎ付けて警戒体制に入ってるんだとか。奴らに捕まる分にはいいが、確認できないうちは自分の手で処理しないと…


「み、み、見つけたぞ!! ヘルメット男!!」

「…金村!!」

 人通りの中、オレの前で立ち止まる親父… 金村だ。


「お前のせいで…!! 俺は全部失ったんだ!! 死ねぇ!!」

 右手にナイフを持って襲いかかってきた… と思ったら


「ぐえっ!!? ぎぃいいやああああ!!」

 突如として、その右腕に持ったナイフを自身の腹部に突き刺す、何度も、何度も… 何が何やら分からないが血飛沫ちしぶきが舞う。女の高い悲鳴が辺りを響かせる…


「な、何をやってる!!」

 近くにいた警官が自傷を止めさせるが、時既に遅し… 白目向いたまま絶命した。何だよアレ…!! 俺はその姿を遠目から確認し、その場を後にした。普通の人だったら立ちすくむ光景… それでもすぐに動けたのは、この世が難解だと知っているからだろう。


 この町にも覚醒者かくせいしゃがいたんだ… 駐車場に止めた車に乗り込んだ。ふぅと息を吐いてエンジンをかける。すると後部座席から…


「油断すると死にますよ?」

「だぁっ!! あ、飛鳥… やはりアレ・・はお前の仕業か!!」

 同じ屋根の下に住む家族の姿が… だああっ!! ビビったぁ…!


「殺すつもりは、無かったんですが…」

 彼女は落ち込んでるようだ。殺そうと思えばいつでもタイミングはあったんだろうけど、そうはしなかった。…きっと俺を遠くから見守っていたんだ。それで金村が現れて… 能力・・の誤作動とか?


 もしあれが彼女の技だとピンときたなら、その場で彼女の姿を探すけど… それにしては残虐過ぎだ。人をあんな風に殺せるようになったと思いたくない。


「はぁ… 何でお前がこんな危ない場所に…?」

「危ない場所って、スラム街じゃないんですから…」

「し、質問をはぐらかすな!!」

 このガキャァ!! 思春期真っ只中の高三。運転中に理屈っぽい…!!


「不吉な予感がしたんです。だから息を殺して…」

「バカタレ!! 危ない真似すんな! この町では目立たず暮らすって決めたろ!!」

「私の犯行だと言う証拠がありません。少しは感謝してくれても良いんじゃないですか?」

「そりゃどうも… お陰で寿命が減りました」

「私はお腹が減りました。今日隼人さんがご飯当番ですよね?」

「…作るよ!」

 バカタレ… 途中スーパーに寄って帰宅するのだった。



===川崎隼人が知らない世界===



 午前0時… 巨大な時計のベルが鳴り響く。その巨大な時計の前に二人の影…


「姉様… 遂にが才覚を見せました。ご覧には?」

「いや… ここのところ疲れていてな。それで… どんなふうに殺した?」

「鮮血を散らばせて、踊り狂わせながら…」

「…そうか。証拠は… 残していないな?」

「大丈夫です。それはもう、見事な完全犯罪に仕立て上げましたよ… もうすぐ一つになれる…」


 ここは福原部の誰も寄り付かない廃墟となった館。最期にこの家に住んでいた住人が亡くなってから30年前になる。なんでも真夜中に悪魔が忍び寄ると話題… いわくつきのスポットとして知られており、動画配信を生業にする男たちが生で配信しながら冷やかしにやって来たのだが、その四日後に全員行方不明になったと言う。嘘か本当か、この土地に訪れた者はもれなく呪われて、四日後に行方不明になったと言う都市伝説が巷を賑わした… 


 だが警察は動かない。別にこの地で行方不明になったわけではないからだ。そしてこの地には国を揺るがす重大な秘密が隠されているから…


「彼は希望。彼無くして、我々の計画は無い… 待ち遠しいわ」

 胸を撫でながら、恍惚の笑みを浮かべて豪華なイスに座る女… その前の石造りの大きなテーブルには、四つの遺体。それぞれ左腕には噛まれたかのようにもげていた…










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