それぞれの報復


 ===川崎隼人の節===


 夏、秋と流れ冬… あの火災から時は経ち、町中にはクリスマスソングが流れ始めた。決意通りで俺が鹿舞町に訪れることは無かった。忙しくしてたせいもあって、あんまり考えなく済んだ。仕事をしなければいけないし、彼女に構ってやらないといけないし… そんなこんな考えてると、その彼女から電話がかかってきた。


「あ、隼人?」

「おう… どうした?」

 俺の彼女、詩音である。一個下で、花屋に勤めてる。


「どうしたじゃないわよ。来週クリスマスじゃない」

「そうだな」

「そうだなって…!! 計画立てるわよ」

「どこ行きたいんだよ?」

「…鹿舞町、とか?」

 彼女の偶然であろう言葉にドキッとした。頭の片隅で拒絶してた言葉だったから…


「わっ…若者が行くようなとこじゃねぇだろ… あんな繁華街」

「そんなことないわよ? 飲み屋さんだって、意外にジュエリーのお店もブランドショップも」

「やめやめ! 他にしようぜ」

「例えば?」

「例えば… えっと… う~ん」


 ない頭を捻って、『鹿舞町』を選択肢から外した。クリスマスデートの計画を無事終えて電話を切り、リビングへとやって来た。


「はぁ…」

 風俗店や脱法ハーブが蔓延するディープタウンだ。個人的に行くことはないが、再び行かざるを得ない機会がやって来るだろう。あの街にはアングラな情報が数多く眠っているのだ。それくらいこの国の中心地であることは確か。家族に火の粉が降りかかるくらいなら行かないだけで、あの街には他で代用できないモノで溢れている。


 ―――「今日未明、鹿舞町の路上で…」


 言ってるそばからホラ… テレビから流れる血気盛んなニュース。俺たちはみ出し・・・・・にとって、あの街での情報は欠かせない。


「隼人さん… 今話してかけても大丈夫ですか?」

「大丈夫も何も、ソファに座ってくつろいでるだけじゃねぇか…」

 リビングにて、飛鳥が話しかけてきた。最近こんな感じで変によそよそしい高校二年生… 思春期ってやつなのか、最近話しかけてこないもんだから、俺もなんか変な緊張感を持ってしまった。


「来週はクリスマスですけど… 隼人さんは居るんですか?」

「え? 何で?」

「何でって… 色々準備するから聞いてるんですよ! 料理とか当日いないなら無駄になるじゃないですか!!」

 …言い出しづらい。彼女とクリスマスデートに行くなんて。

 

「よ… 用事があるんだ」

「何のですか?」

「だ、誰でも良いじゃねぇか!! 大人なんだから」

「…そうですか」

 ――ガシャン!! 引き戸を閉めて、二階の自室へと彼女は戻っていった。


「隼人~ ホント鈍感だね」

「うっせ。…それより紗耶香さやかは?」

 テーブルで夕飯カレー食ってるいとしが茶化してくる。俺はこの時間にいるはずのもう一人の住人かぞくについて尋ねた。


「オーナーさんとご飯に行くんだって~」

「そうか… 俺も食うかな」

 人の心って難しいな… あの・・紗耶香もどんどん社交的になっていくし… 



 ===隼人の知らない世界===


「川崎…」

 隼人が微笑ましい家族の談話をしてる頃、彼の家の前までやってきた男。金森… 影を潜め、奴を狩るタイミングを虎視眈々こしたんたんと待っていたのである。タイミングとはすなわち、ジャンヌと言う小さい男の目を見計らって… 


 居場所はすぐに判明した。名前さえわかれば、ケビン・ジェーンのGPSの履歴から割り出せる。彼の位置情報が途絶えたので、場所を分かっていても手が出せないのは、反逆になると考えたから。ただ今日はジャンヌが遠く外国まで出ている。バレなきゃ問題ないと金森は考えたのだ。


 黒い瘴気を右腕に纏って、玄関を破壊しようとしたその時…


「何やってるの…? 色欲ルディ

「じゃ… ジャンヌ様!!」

 滝のような冷や汗をかきながら、背後に黒い羽根で浮遊して現れたジャンヌをおどおどおどしながら見ている。


「デランド(国名)に出張してるから、『今がチャンスだ』とか思っちゃったわけ?」

「いや… その…」

 何故バレた…? 金森は自分に何度も問うが、その答えはジャンヌの様には現れない。


あらかじめ言ったよね? 彼は特別だって…」

「で、ですが…!! コイツに計画を色々狂わされたんです!! 資金源の一部を燃やされたんですよ? あのビル火災だって…!!」

「だからなんだ? …わきまえろ」

「…!!」

 彼がギュッと金森を睨みつけると、怯んで声が出なくなる。金縛りにでもあったかのように声が出ない。しかし、負けじとナイフで右太腿みぎふとももを刺し、沈黙を破る。


「ぐうっ…!! ジャンヌさん!! 俺らの資金源シノギを荒らされて、何もなしとはどういうことですか!! 説明してください…!!」

「…ふふ、君に覚悟は分かった。もう好き勝手されたくないから白状するよ…」

 ジャンヌは一呼吸置き、再び口を開きだす。


「…彼はいずれ王になる男だ。魔族ズァーカを束ねる魔王に…」

「王…? なんですかソレ!! 奴は人間じゃ…?」

「じきに分かる… 寛大な心で見守ろうじゃないか」

 王についての疑問符は無理やり引っ込めた。しかし納得できない部分が…


「で、でも…!! 俺の部下が納得しない!! 手打ちもなしじゃ、矛は収められないっすよ!!」

「まだ言うの…?」

「何もなしじゃ、納得は出来ないです!!」

 ジャンヌは鬱陶しそうに金森の言葉を聞き終えると、胸元から黒い玉を取り出して話しかけた。 


「うるさいな… 姉様。半魔レ・ズァーカの分際がこう言ってますが…?」

「あ、姉様…!?」

 黒い玉が投影機の様に空中に人物を映し出した。一人の女性…


 ――――「色欲ルディよ… 分かってほしい。私はお前にも目をかけているんだ」

「は、はい。ありがたきお言葉を…!!」

 ―――「じきに来る衝撃に備え、小さなことには目をつむってくれるか?」

「…はい。分かりました…」

 ――「お前にかかっている嫌疑や汚名は晴れた。前の様に杉下として暮らせるよう手配した。カネの面も保証が降りるだろう…」

「大した火災保険を付けた覚えは…!!」


 ――「私を誰だと思っているのだ…?」

 その一言に、彼の心臓の鼓動は最高潮に達した。


「も、申し訳ございません…」

 ――「これからも我々の為に精進してくれ、杉下」

「はい…!!」

 そう言って、杉下は去っていった。去っていくのを見計らって、ジャンヌは姉様と呼ばれる女と話をする。


「あの男の様に、そろそろ勝手に動き出す奴らも現れます。対策は必要かと…」

 ―――「…そうだな。そろそろ頃合いか… 私が直々に勧誘しに行くとしよう」

 女は不敵にほほ笑んだ。この女性から始まるストーリーは、川崎隼人を狂わせるものとなるのだった…

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