未来は見ないで
~~~沢田幸生の節~~~
「幸せに生きられるように… そう考えて付けたんだ。俺も母さんも名前のことで喧嘩したものだよ…」
「あのさぁ… 父さん、俺…」
「何だい? 幸生…」
私は、父親が病気にかかって… 施設に入れられた。昔からの変わり者で、夜に家を飛び出しがちな男の子。俗に言う、病気の子。
「…そうか。時代はそういうのも受け入れてくれるような体制になりつつあるしなぁ。チーターさんやこすチー兄弟やたかこ・ジャイアントとか芸能人も出てきて今熱いしなぁ…」
なんでも話を聞いてくれて、私の味方でいてくれた… お母さんとは違って厳しいこと言わないし、護身術習わせようなんてしない。そんなお父さんが死んだなんて…
「…よぉ、だから言ってやったんだよ。お前は腰抜けだって」
「係長… 嘘はいけませんよぉ」
「ぎゃははッ ポンコツのわりにアイツ、部長って肩書モンだからなァ…
飲み屋… くだらない話で盛り上がってる奴らだ。
「…ま、いつか… 奪ってみせるゼ、部長の座♪」
「よ、係長。日本一ッ!!」
…ムカつく。未来に希望を抱いて、今日は安い酒にありつくのかよ… 今日を捨てるのかよッ!!
「ぎゃあああああ」
「なんでやりたいことやって生きないの? 愚痴ばっかで…ねぇ…?」
飲んだくれた親父を飲み屋の外に出して指をへし折ってやった。…カッとすると止められないけど、悲鳴を聞くと少し冷静になる。どうやらやりすぎたようだ…
「止めろ。幸生… これ以上暴れるな」
後ろから、大好きな彼がやってくる。川崎隼人… 私の憧れの人。
「…聞いたんだ。聞いたうえで… 残酷ね、それとも超弩級のSなのかしら…」
幸生って名前をもじってまで由紀と名乗るのは、お父さんがくれた名前だから。でも本名は誰にも知られたくない。そして、血を求める性についても。それを知ったのが憧れの人。もう希望もない…
「そうよ、昨日のは私。カップルだとかに嫉妬しちゃって、そしたら殺せ殺せって。仕方なしに一組殺したら次よ次よと…」
「…どうもこうも。これ以上暴れるなら俺も殺さにゃならん。自首しろ」
「分からない? 私を求めて外界からやってくるの。謝ることも出来ないし」
「そんじゃやっぱり死んでもらうわ。俺の身内に手出されてもこまるしな」
「あは… あなただけじゃなしに、お母さんにも捨てられちゃった感じか…」
…希望とも思ってないけど。唯一の肉親だから何かあると思ったけど何もなかった…
「じゃあさ、一つだけお願い…」
「聞ける範囲なら…聞こうか」
「私と殺し合いして? それで私を終わらせて?」
「な何を…!!」
ふふ… 憧れの彼… どんな表情も飽きない。たまらなく好き。だけど私のものじゃない。
「…何もない私は何のために生きればいいの? 型から外れた私の生き方を誰が一緒に模索してくれるの? そんな私は死ぬことが最高の幸せ。もっと言うなら好きな人の側で死ねること、好きな人に引導を渡せてもらえること… それが一番」
「そんなこと言うな。いつかきっと楽しいことが」
「簡単に言わないで? 模索したし、考えたりもした。でも体と心がリンクしないだけに留まらず、殺人狂の一族でその一族に追い回される私にどんな幸せがあると言うの?」
思わず愛しの彼相手に怒ってしまった。でもそれだけ悔しいのだ。分かったようなこと言われるのが…
「じゃあ、すべてを捨てて隼人くんが私を愛してくれる… 無理よね。死ぬ時くらい楽しませてよ…」
「…何で死ぬ必要がある?」
「めんどくさいわね。現に今だってノリでおじさんを殺そうとした。…じゃあ私、生きのびたらあなたの家族の命奪ってあげる…」
「…分かった。死なせてやるよ一突きで…」
思ってもないこと言ってでも、この時は勝ち得たい。
~~~
ナイフ一本それぞれ持って…
「ほれぇっ …あ、切れちゃった」
ためらう俺にむかっていきなりナイフを振り回してきた沢田。服が切れた。リアルな痛みが俺を俺だと分からせてくれる。
「うらぁッ!!」
「えいっ あはは」
せめぎ合い、しのぎを削って…俺も俺で命がけ。奴を突き刺そうとするも当たらない… いや、本気だったら刺さってる。デートみたいにビーチで水をかけあうかのように… 狂ってる。俺はどうしたらいいのか分からなくなってる…
「喰らえッ!!」
ナイフを使って命がけの果し合いだ。…狙ってやったわけじゃない。たまたま、俺のナイフが彼女のドレスを割く。右足から血が…
「あははははっ 気持ちいい… 痛気持ちいいっ!!」
「あ、ごめっ…」
何謝ってんだ… 何やってんだ俺。気が狂いそうだ。この夜もいいあんばいに不気味さを醸し出している。
「何謝ってんの? 人間さまは殺し合いなのに謝っちゃうの?」
「そりゃそうだろ。やりたくもない殺し合いだ。なんでお前を殺さなきゃいけない。お前のこと、好きじゃないけど嫌いでもねぇってのに…」
「そういうのやめて…? 嫌ってよ。愛してくれないなら…」
「…はぁ? 別に俺の好みは俺が決めるだろうよ」
「あんたも生物的に私を拒絶したのよ? つまりは生理的拒絶… もうやんなっちゃった」
「え… 何のことだ?」
「あんな夜の話、ベッドでした朝の話… 全部嘘。ホントは襲ってきたと思ったらそのまま眠っちゃったのよ…」
…こいつには悪いがよかった… 俺のセンサーはまだまだ現役か… ただ、それが死にたい願望を加速させちまったなら申し訳なさしかない。これ俺が悪いのか? もうわけ分からん。
「ほらほら、早く殺さないと悪党が家族を攫っちゃうよ。殺してくれない間に暇だから殺っちゃおうかなァ…」
「…もう罪を重ねるなッ!!」
「幸せそうな人見ると、殺したくなっちゃう… あなたの家族も幸せそう…」
「あ… 待てッ!!」
沢田は夜の街を走り出した。速い… 追いかけるが大変だ…
「今だから話すけど私、あなたのストーカー紛いな事してたの。アイドルの追っかけみたいに」
「それ、止まって詳しく話せーッ!!」
逃げ回る彼女が屋根の上で止まる。ただ俺が着くや否や…
「今度は隼人くんが追っかける番だよ~っ!!」
そう残して彼女は再び駈け出した… 夜の鬼ごっこが始まる…
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