思いよ貫け
「きゃあああああ」
女性の悲鳴だ。夜の街を血が染める。少し前の方で… 血を流して倒れ込む女性がいた。彼氏と思われる男が救護してる。
「沢田ァッ!! いい加減にしろッ!!」
「あはは、だっさーい。捕まえられないから大声出してんの? 子供じゃん。きゃはは」
「待てコラァッ」
全然捕まらない。でも近い距離だ。きっと沢田が狡猾で計算高く、夜の蝶の様に俺を惑わせる。
「きゃはははっ 今、最高に生きてるって感じ」
走りながら俺に漏らす彼女。いかれてる奴の楽しみ方もいかれてるのさ…
「ズレてるよ… 型も生き方も…」
でも…最高に楽しんでやがる。俺は一線引いてる… こんな狂った遊びで楽しめない。
「ねぇ… 聞いていい?」
走りながら彼女は言う。この最中、何を話すことがあるだろうか…
「…鬼ごっこの最中じゃないのか?」
「フィーリングが合えば、体が合えば… 私を引き取ってくれた?」
「何をそんな…」
走りながらなのにたられば話をぶち込んできた。が、走っている最中で対応しきれない。
「身体が違うだけ… 先天性なだけなの。心で間違えたことはないわ… 私はあなたを求めてる」
「お前、いきなり何言って…」
「あなたが愛おしいの。殺す気なんてないの…」
「だったらこんな争い、むなしいだけじゃないか…」
今コイツは何がしたいのか… どうしてあげればいいのか… 走りながらだから考えも浮かびにくい。
「じゃあ、あなたの周りの女の子皆殺しにしてもいい? 例えば飛鳥ちゃんとか…?」
「てめぇっ!!」
いきなりジョークなのかマジなのか訳の分からんことを言いだすもんだからキレてしまった。固有名詞を出されると現実味が増す。
「…愛おしい。でも物にならないんだよ? 振り向いてもらうためなら女の子はどんなことだってするよ?だけど… あなたが悲しむからしない。そんな悲しんだあなたを愛せそうにないもの。だから潔く私が身を引く」
「だからって死んでやり直すってのは…」
「あなた分かってない… 今生ではもう変わらないの。身体も心も環境も…だったら幸せな来世を生きたいじゃない…?」
彼女は立ち止まり、そんな彼女を追っかけてる俺は再び切りつけられた… ヒット&アウェイ…再び走り出す。
「ぐぅッ… や…やめろ、こんなむなしい争い…」
俺も再び追いかけだす。
「ぐ… くく… 滑稽(こっけい)っ!! 最高ッ!! 早く私殺さないとあなた死んじゃうわよ? あなたがあなたの手で掴むのよ? 自分の未来は…」
ひたすら追いかける俺。挑発をかまされてる時だった。
バンッ 発砲音が
「ぐぐ… なんだ?」
俺は腹を撃たれた… 暗闇からの狙撃。全く反応しきれなかった… しかし妙なことが起きた…
「血は…でてな…!!」
バタッ… 身体が痺れ、無様に倒れるのだった。動かない身体…
「は… 隼人くん? ねぇ… そんな…」
撃たれた俺に駆け寄ってくる沢田。やっぱりコイツも俺を殺す気なんてさらさらなかったんだ…
「沢田幸生だな… 来てもらう」
「きゃッ 放せッ!! 今いいところだってのに」
三人組の黒服。その一人が沢田の腕を掴む。
「ぐ…て… てめぇら何だッ!! 犯すってのかよ。ぐっ…」
沢田の雄たけび。彼女の顔面を壁に叩きつけた。額からは血が… 倒れた俺の目の前では沢田を襲う三人組… こんなタイミングで強姦魔ってわけはない。一族が沢田を回収しに来たんだ。 殺し屋ってのは動くと速いし迅速。一度逃がすとなかなか捕まらない。その上、足も付かない。厄介なんだ… どうするか。
「は…せ…」
声にならない言葉。「離せ、そいつを離せ」と出そうと思っても出ない。くそ、このままでは… 死ぬことよりもただぼーっと生きるよりもつらい思いをさせてしまう。そんな思いがこみ上げた時だった。麻痺してる身体が動かせる気がした。「頼む…俺に力を」と神頼みみたいに己を鼓舞して立ち上がる。
「ぐ…沢田、よぉ… 悪ぃが、…時間は無限じゃない。…これで終わりだァッ…!!」
無理やり歩かされ、白いワゴン車に乗り込まれそうになった彼女にナイフを向けて言った。
「おっけッ!! 最後に最高のちょうだいっ!!」
振り向いてにこやかに生涯一の笑顔。そんなに目を見開いたら目ん玉落ちちまうぜ… 彼女は俺を信じてる。多分これが最後… 終わったら刺客共になぶり殺しにされるのだろうかね…
「ああ… あばよッ!! 来世で会おうぜ」
ナイフを硬化させて投げた。真っ直ぐストレート、彼女の脳天を貫通する。そして体は立つことを止めた。血が飛び散ってワゴン車の車内やドアを汚した。それを確認し終えるや否や、再び身体を地面に預けてしまう。仰向けに倒れこんだ。
「き… 貴様ッ!!」
「…死ねぇッ!!」
ライフルを俺に向けてる。もうダメかと諦めた時だった。
「…死ぬのはアンタらだよ」
三人の首筋から血しぶきが… そして倒れた。背後を切りつけたと思われる人影。その影が俺の下へ歩み寄って…少なく見積もっても四十代だってのに妖艶なドレスで、しかもそれが似合ってやがる。スリムな体系は親譲りか…
「大丈夫かい? いますぐ楽にさせてやる」
楽に…? いや素直に身体を楽にさせるということ。…ナイトドラゴンだった。
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