Act 4.迷える子猫と股に木刀

異端児は攻める



 ~~~とある女の節~~~


 優しかった季節は過ぎ騒々しい毎日を送っている。楽しければ何のその…だが。



「隼人…」

 景観のいい崖の上。自然が豊かで鳥のさえずりが… 一人たたずむ女性。彼女の名は東山とうやま玲奈れいなという。

 隼人や愛らと衣食を共にし、多良木を生き抜いたのだ。


「…そろそろ、出るぞ?」

「…ああ」

 玲奈に一人の白い制服を着た男が話しかける。彼女は病気に悩まされているという。病気療養の為、身内を頼って… 

 隼人は身内の実態も療養中であることも知らない。言えなかったのだ… 心配されると思ったから。


「もうすぐ… 会える」

 彼だけを思って彼の為に療養に専念するのだ。死にたくなるくらいに辛い病気と対峙できるのも川崎隼人という人間の存在がでかいのだ、彼女にとって…



 ~~~~~~


「ええ、昨夜未明何者かによって…」

 テレビは毎度のことながら暗いニュース。何でも今度は30人の死傷者を出す通り魔らしい。


「うわ、クライアントの待ち合わせ場所に近いな…」

「大丈夫、隼人くんは逆に刺し返すでしょ?」

 いとしが俺をいじってきた。 全然、いとおしくない。


「隼人さん… 無理していくことないです」

 飛鳥が心配そうに言う。あの日から、飛鳥の優しさを感じ取れるようになった気がする。


「クライアントとの約束も守れないようじゃ廃業だよ。信頼あって成り立つんだ。仕事ってのは何でもな」

「…そうですか」

 俺は理想の仕事論で飛鳥を黙らせてしまった。優しいからな…



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 生きるのは難しい。何故、どうして… よく論議になる『人とは』 

 …言うならば型をはまるという行為の本質は、はみ出し者を受け入れる皿はないという暗示なのだ。

 はみ出し者は淘汰されている事実、このことを声を大にして言うものは少ない。色々な団体やらが黙っちゃいないからだ。

 利口と言えば利口。ただ、面白みのない世だ。はみ出し者を淘汰することも声を大にして言う者がいないことも… 個性、つまり色味がない


――「ゲイやレズと一緒くたにするなーッ!!」

――「そうだそうだッ!!」


 年次の大行進。今年の主催者発表は二万五千人… 大規模なデモ隊が闊歩する新船にいぶな区・川田町… 

 テーマはというと性同一性への理解について。ジェンダーに関しての一緒くたへの抗議だ。そのまんまだが… 

 普通の人々からは正直な話、近寄りがたい存在なのだろう。だからこそこっちから歩み寄って行く。ただ現実は残酷で…


「お前ら正味、気持ちわりぃんだよッ!!」

 心無い言葉… あるだけマシさ。現代では『引く』と言った空気的躱かわし方もある。異物が歩み寄れば歩み寄るほどに無視・シカト… 一体どうしたらいいのか分からなくなる。そんなときだった…


「…じゃあどうもしなければいいんじゃない? 理解されようと思うから辛いんだから…」

 ある男は悩める男に言った。それは理解されないままシカトされて、和泉国ではいないもの・死んだものとされて生きながらえた重みある言葉だった。


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「じゃあ当日は、スーツのほうが良いですかね…?」

「ええ… そういう手はずでお願いします。堅気のカッコいい旦那様…」

 美人さん、べっぴんさん… 金髪ブロンド…か細いものの胸はある。紫のシックなドレス… 俺こと川崎隼人は今日も依頼人と打ち合わせ。

 依頼の内容としては『俺に恋人のふりしてもらい、父母に一時的に紹介させてくれ』というもの。なんだか心が痛いね。

 【何でも屋】ってべんりだよな、依頼者側にとってはだが…


「…しっかし、夜の嬢ですか…」

 沢田由紀… 28歳。職業・夜の蝶兼店長。この競合多い新船区・新羅町で新規で参入し喝采を浴びている店…だったのだが嬢を奪われてんてこ舞らしい… 

 もう少ししたら閉めると言っていた。二か月の華であったようだ。 


「ええ、すみません。こんなもてなししかできなくて…」

 実は俺の家で打ち合わせしてるわけではなく、彼女のお店。…キャバクラの休憩室で話し合ってるのだ。

 最近飛鳥とも話すようになったので、家に女性を連れてくると嫉妬するのではと配慮してのこと。考え過ぎかな?

 まぁ依頼主の人柄とかもでるし実態調査もこみこみでやってる。


「お構いなく、まぁ詮索はしませんのでその辺はご安心ください…」

「え… そ、そうですか…」

 なんだその反応… 詮索してほしいかのように感じた。


「どうぞ…」

「え… ああ、頂きます」

 突然差し出されたお酒。俺も悪い話なんだが、酒を出されると何も疑わずして飲んでしまう傾向にある。こんな明るいお店だ、さぞいい酒だろう。


「くぅうううっ!! これ結構強いですね…」

 しゃれたグラスに注がれたピンクっぽい液体… ごくりと一気。俺も結構得意な方だが、色の見た目とは裏腹のえげつないパンチの利いたアルコールの強さ。


「ええ、うちのお店ではここぞ・・・って時に投入されるの」

ここぞ・・・…?」

「ええ、ここぞ・・・…。要はお持ち帰り」

「へ…っ?」

 …ガクっ あれ… 力なくテーブルにひたいをぶつけた。意識が飛んだのだ。

 そういや俺… そんなに強くない…



 ◇◇◇◇



「あ…痛てて… あったま痛ぇ」

 明るい… 和風スタイルには向かないシャンデリアだ… ここは…?


「あら、お目覚めになって?」

 シックなドレスから和服美人に変わった依頼人。


「…どういうことだ? 何があった」

「まだ…何も」

「まだってのは…? つか、なんでくっ付いてんだ…」

 俺の体を後ろから抱きしめてくる… 酔ってて抵抗が出来ない。こういう無理やりはまったくもって美味しくない。


「ねぇ… しましょうよ…」

「ぐっ 放せッ!! おあいにく様、抱きたい女は選んできたんだ」

 …いや、選んだって言っても身体が勝手に、ね?


「たくましい… 後ろから抱きしめると男を感じられるの…」

「触んじゃねぇッ!! ぐ…くそッ」

 もそもそと股間を攻めてくる。ベタベタといやらしく…


 ねぇ ねぇ ねぇ ねぇ… 耳元、やまびこの様に繰り返し繰り返しと息のような声に目の回るような思いだ…


「もぅ… こっちもたくましいんだから…」

 はがっ 耳を甘噛みされる… チュパチュパと音を立てて… その下、今度は首筋を舐め舐め… 汗なのか唾液なのかべとつく身体…


「て… めえッ!! 離せ!!」

「いいじゃない… 楽しいときを過ごせば…」

 腹から胸元まで指でなじって… 


「ぐ… うをおおおお!!」

「あ、あら! 凄い…!!」

 例の如く、そこで記憶が飛んだ。詩音との時は普通でいられるのに何で… 



 ◇◇◇


「…ぐ」

 俺は眠っていた。その横にもう一人… 布団に潜ってた手が温かいものに触れている… 何だこれと一揉み…


「ん…いやーん。…あら、おはよ」

 有紀が俺を見てほほ笑んだ… あれ、金髪のブロンドは…?彼女の頭は黒のヘアーネットが覆っていて頭の形に髪の毛が収まってる。その横には金髪のズラ…え? いや、ズラってより坊主なの…? てか、この温かいの…明らかに… 俺も持ってるアレだった。


「え、え? …ええぇぇぇえええッッ!! …おぉうぇえエッ」

 ベッドから這い出て勝手に洗面台を使う。…嗚咽が漏れた。涙もたまらず漏れた。沢村由紀の顔を持った男だった… でも胸はあった。アレもあった…


「おうぇえええっ!!」

 再びえずいたわけじゃない、えずかせるような出来事が再び起きたのだ。奴が隣でメイク落とし…


「なによぉ… そんな大げさなぁ♡」

 メイクを落としたそいつは可愛い系の男だった…


「俺は何を信じればぁああああ…」

 ベッドに顔をうずくめる。嘘だろ…? 何でもかんでもアリかよ?


「昨日の隼人くん、ホントすごくて、未だにお尻ヒリヒリ」

「オヴぅェエッッ…!!」

 俺よくわかんないけど男同士相まみえたときには攻め手なの? 積極的に攻めてたの? ええええええ!!


「あんなに気持ちよさで溺れたの初めて… あんなに前立腺を…」

「頼むっっ! もう俺を苦しめ…」

「隼人くんだってしゃぶってあげたらすんごぃ声だしてたのに…♡」

「スぅ…トォゥッッップ!! プリーズッシャラップッ!! ファッキューッ!!」

「分かったわよ…もう、F**Kされたけど♡」

「死ねぇええええええッ!!」


 なんだこれ、最悪さいあくだ…  災厄さいやくだ。


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