二人がいた
船を岩場に止めて… 大地を踏みしめる。潮の香りが懐かしい。
ひとまず陸地についたので焚火… 寝袋の準備。もう今日は遅い、陸地で休みを取ることにした。
釣り上げた魚を焼いて豪快に喰らう。これぞ海の
「明日はいよいよ捜索です。いろいろ思うところは色々おありでしょうが、何も考えず今日はゆっくり寝ましょう」
「ええ…」
火を消して… 俺たちは各々の寝袋で眠る。
明日は久しぶりの… 故郷探索。思うところあるのは俺だ…
=====隼人の知らない世界======
「ん~ふふんふ~ふふふ~」
多良木の夜… 木の上で歌う少女。歌詞などないハミング… 歌詞はおろか曲名を知らない。メロディしか知らない…
――バサッ… 水辺から立つ鳥たちの羽ばたきに歌うのをやめる
「母さん… 誰か来るのね」
「…」
その問いに誰も答えることはない。木に話しかけているようだ…
「そう… 警戒態勢に入ります」
「…」
彼女は一人、灰色の町を歩きだすのだった。
===========
「よし… 出発しましょう」
「はい!!」
寝袋を畳んで、人がいた痕跡を消してから俺たちは歩き出す。
何がある変わらないから慎重な足取りを心掛けるように前もって彼女に伝えた。俺の側を離れるなと。
しかしそれは過剰に伝わったようで…
「離れないでくださいね」
「ええ、離れません」
俺の後ろを歩いてた彼女が俺の右腕をとって… あつくるしいな、動きづらいし…
「…ええっと」
…彼女は俺の腕をとって自分の手と絡ませる。胸が当たってるなぁ…コレ。
大丈夫かな?俺…
「あの… ここまでは要求してないです」
「あ、私としたことが…」
手を離してもじもじする彼女。最初に会った時の知的な印象からずいぶんかけ離れた… 天然なんだなきっと…
チョット美味しい思いしたけど、鼓動が高ぶるのを感じ取られるのは嫌なので拒否した。
爆撃を受けた大地は穴ぼこで建物など現存しないので、この荒廃した大地を見渡せることが出来る。
都会じゃ数十メートル先の建物やらビルやらで見えなくなるけど… そうだよな、五年前までここで米やら野菜やらを作って生計立ててたよな。
苦しみとかをみんなで噛みしめ合って支え合って生きてきたな。
みんな生きるのに必死で… 今日生き延びることに必死で明日の事なんて考えてなかった。
でも五年後の今を生きている。今を生きたい気持ちがあれば生きていけるんだな…と思った。
「…えっと。こっちです、方角」
目的地が分からないので指示してもらい俺が前を行く。たしかこっちの方には…
「あ。…そっか。もう…」
お菓子はもちろんマンガもコインゲームもあるのに酒にたばこ、野菜も文房具も取り揃えていたので何かと来ていたな…
瓦礫の山になってるけど跡地だ。今じゃなかなか見ない、駄菓子料理とか格安コロッケとか、商売と言うより子供たちの笑顔見たさでお店開いてくれてた気がする。
彼女を見ると目が潤んでた。きっと感慨深いものがあったのだろう。
「よかったら、これ…」
ハンカチを手渡す。紳士の嗜み。ハンカチはカシミヤと決まっており、
「ああ、…すいません」
「…ここに何か…?」
「…昔ここに駄菓子屋がありましてね? …子供たちは揃って放課後ここに立ち寄るのです。カバンも家に置かずに…」
目元にハンカチを当てながら言う彼女。あ… この人もここら辺で過ごされてた方だったんだ。
もしかしたら幼少期に会っていたのかも…
「土曜の朝には毎週のお楽しみ、じゃんけん大会がありましてね? 男の子たちに混ざっていつも参加するのですが負けてしまい…」
「…ま。まぁ、子供の頃って周りが見えてなかったりしますからね… しかしお綺麗なあなた差し置いて勝つなんて…子供って容赦ないなぁ…」
自分に当てはまりそうなこと言われたから彼女をフォローしながら男の子もフォローした。
…じゃんけん大会、あったなぁ。そう言えばよく参加してた。
ビー玉とかおはじきとかメンコとか大したものじゃないけどじゃんけんに勝つともらえたんだっけ…
懐かしい。もしかしたら彼女とじゃんけんで対戦したことあるのかも…
「いえね? じゃんけんの景品を
「へ、へぇ…」
男の子もそうだけど、とんだおてんば娘だ瑠奈さんは。
…そう言えば男の子に混じって気の強い女の子がドッジボールとかに混じってたな。
家出て行った
「…でも私の方が一個上だから、毎回… 勝って奪っちゃったり」
「はぁ…」
アレ? …なんか俺も似通った記憶がある。しかも俺は被害者目線で覚えてる… なんかよく叩かれてたな… よく思い出せないが。
結局、そこに求めたものはなかったと言う彼女。別に掘り返したり、辺りを見まわしたりしたわけじゃないが『無い』と一言。
「こっちの方には少し重めな大きい物があってですね…」
と指示され先行く俺。…こっちの方は確か、俺も愛も玲奈も通ってた学校があったような気が…
そういや玲奈は女の子とよくいがみ合ってたな、学年が確か一つ上の子と…
「…やっぱそうか」
案の定学校跡地だったため、声に出してしまった。
「え? やっぱそうかって言うのは…」
まずい、彼女は俺のつぶやきを見逃さなかった。『やべっ』っと反射的に声を出す俺…
「あ、いや、いえ。大きな敷地だったんでもしかしたらあれ学校かなって思って」
無理やりごまかした。よく分からん意味わからん返しに『…さいですか』とガッカリしたように返す瑠奈さん。
「この学校には色々と思い出が詰まっています。友達が出来た日、友達と初めて喧嘩した日、友達と仲直りのキスした日…」
「へぇ~…キスッ?」
友達と…? 百合ってジャンルのやつだろうか… 分かりやすく言うならレズビアン。
思い出深そうに話す彼女。良い思い出ってのは夢中になって
「…け、結構ハードでいらしたんですね…」
「ハードでした。一生懸命に私の唇をせがんできて… 強引に私の初めてを奪って行きました」
「あ、あぁ…」
聞いちゃまずい話だ…と思ったが遅い。続きを話してくる。
「やった方は忘れますけどね… やられた方はずっと残るんです…」
…暗いトーンだ。スイッチ入ったな、完全に。彼女もいろいろあったのか…
パンドラの箱ってのは開けたがらないものだ普通… 幼少期のトラウマってのはなかなか消えない。可哀想に…
「だから、いつまでも… 待ち続けようと決めたんです… 彼を。」
「…ん?彼?」
「…ええ。当時八歳で、一個下の男の子です」
え?…なんて言えばいいッ!!? どこからツッコめばいいんだよっ!
『無理やり…』みたいな話かと思ったらマセガキに唇奪われたって。アレ…?
仲直りのキスでどうたらって、なんか俺もそんな甘いガキ時代あったような… ぐったり疲れたので『さいですかー」』俺も流した。
どうやらここにも目当てのものはないらしい。何をグルグルと… 懐かしいのは分かるけど、何があるか分かんない荒野だ。ちゃっちゃと済ませたい。
学校を出て、デコボコになった野原を歩く。
ここは多良木自然公園の一部。学校の通学路、必ず公園を通るのだ。
舗装された道が野原に乗っかた形。サイクリングロードにもカップルの憩いの場にもなってた。
俺は確か小学校の時、学校終わりは大体は公園にいてドッジボールにドロケー。ゲームなんて普及してなかったものだから野原を駆け回ったものだ…
「…あ、あそこっ!!」
丘陵を歩いていると彼女が駈けだした。
「あ、瑠奈さんっ…」
俺は彼女を追っかけた。ある一本の木を前に立ち止まったのだ。
…確かパワースポット何て呼ばれてたっけ。ここで眠ると疲れが取れるだとかナンとか適当な都市伝説流れてて、それ実行したら笑われたって記憶がある。
でも今なら分かる。…地力を感じる、ほかのどんな場所よりも力強く、優しく身体を包み込んでくれてる。
地力に美容や健康に対する効能だとかは治験データが上がってるわけじゃないから確信を持って言えないが個人的には疲れを癒してくれる気がする。
だから変な都市伝説も流れるわけだ。我々人間はすでに
「…まだ、生きててくれたんだぁ…」
涙声で木を抱きしめる彼女。…こっちも何年かぶりの再開のような、温かい気持ちになった。
…木は青々とこの灰色の荒野に色を残している。
「…ここにも、思い出が…?」
「…バカ」
「え…?」
「バカバカバカっ!! この子は生きてくれてたっていうのに… あそこ掘って…」
急に何だよもう… 木の側の地面を指さして彼女は言う。この期を見つけた時の涙とは違うものを感じた。
彼女が手渡してくれたスコップで…って用意が良いな。ここに忘れ物が…?
「うん…?」
彼女が言うがまま、しばらく掘り進めると何かに当たる音がした。カツンっと。
「…これって」
周りも掘ってそのあるものを取り出した。見覚えのあるクッキーのカンカン。
俺が大好きなステムおじさんのクッキー缶。そしてその間に油性ペンで描かれた文字。
【隼人と瑠奈の思い出】 …俺の脳裏によみがえる、甘酸っぱい超絶マセガキの小ニ《しょうに》の記憶。
「もう…これ見ても覚えてないなんて …言わせないんだから」
「…瑠奈ちゃん。そうだ瑠奈ちゃん… 君が?」
思い出せなかったパズルのピースが唐突にハマると抑えられないほどの胸のざわめきが襲ってくる。
こんな大事な記憶を埋もれさせてしまったのか…
「…私達、ここでキスしたの。いがみ合ってた二人はここで結ばれたの…素直な気持ちで」
背中越しの彼女は、置き去りにした思い出の中の人だった。
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