レールの上での地団駄
「ぐ…ッ」
間に合え、俺の身体… ダイナマイトを巻き付けた江田からバックステップで離れるも爆撃の範囲から逃れることはできないだろう。
―――》》》》バガガガッ《《《《―――
間一髪、どこも損傷無く仁王立ち… 俺は爆撃を持ちこたえたのだった。
突然現れて壊して… 消えた。
「岩田さん… ッ!」
この争いはいったい何を意味するのか、何が目的なのかは定かではない。
ただ謎の武装集団に襲撃され岩橋さんは爆撃にやられ、求めていた江田の消息を掴みかけては消し飛んだ事実だけが残る。
…要はすべてを失った。俺を苦しめるなら正解だろうが、そんなことに命を張る意味はあるのだろうか…
ただ言えるのは悲しみに明け暮れる暇も無いということ。
そして敵は強大であったということ。
俺は冷静さを取り戻した、地元多良木での過去はこういうメンタル部分を強くした。
一時的に作られたものなのではなく、江田の決意はまぎれもなく本物だった。
下であがいてきた俺たちを見てるかのように… そしてその決意から答えを導き出した。
…真の黒幕は別にいると。
引っかかるのは江田を黒幕に仕立て上げなかったことだろう。
俺は少なくともそう読んでいただけに疑念が残る。
社長室のデスクを漁り円の携帯を見た。
「岩橋静江は預かった。この番号に連絡を入れる。このことは他言するな…」
…預かった張本人は御陀仏だってのに。
「上…ねぇ」
――――バババババババババッ!!————
上空にヘリコプターが舞っている。しばらくすると音が止む。
通り過ぎたのかこのビルに着地したのかは分からないが上を目指す動機が一個増えた。
爆破の影響でエレベーターは動かない。
上の方では迎撃戦があったのだがもうその音も気配はない。屋上か…?
六階、七階と階を上がる。サラリーマンの憩いの場としてレストランを構えているようだ。
洋・中・和食… 様々な需要にこたえている。
券売機を見るとナポリタン480円、チンジャオロース定食620円… 福利厚生がここにも行き届いている。
しかしながら凄惨な現場だ…生存者はいない。
食事中の人もいたようだが、頭を貫かれている… 厨房はグレネードで爆破したようだ。
外にはパトカーの音… こちらに近づいている。どうしたものかと考えながらさらに上を目指す。
八階…展望フロア。ここより大きなビルはいくらでもあるため、帝和が一望…とはいかないが見渡すことはできる。
やはりここも生存者は見受けられない。元気印物産への私怨からなのだろうか。
部外者の俺を除けば皆殺しには成功している。
見たところ隊員は外界… 海外からの
経営や金銭面でトラブルなども抱えていたのだろうか…?
八階までで階段は途切れ、屋上には別の場所から階段で登る。
屋上への階段を駆け上がり、ドアに手をかける。
広がるのは青々とした空にヘリポートに止まるヘリコプター。
「…遅かったね。待っていたよ」
ヘリポートに一台のヘリコプターと着物を着こなした見知った顔だ。そして探さなければならないと思っていた人…
「お
ピーポーピーポー ヴヴヴヴ―――― サイレンが鳴り響く。
「…乗って? 詳しい話は空でしましょう」
「…」
ヘリを指して彼女は言う。俺は色々と悟った… いや、困惑をポーカーフェイスで隠しているだけ。
訳が分からないがとりあえずここは従うしかないと思った。
あの爆撃から二十分は経っただろうか… 俺たちは搭乗した。
どうやら操縦者は別にいるらしい。当然と言えば当然か…
拐われただとかで岩橋さんに託されたばかりだと言うのに… いったい全体意味がわからない
「…それで、何をなさっていたのですか?」
「もう核心に迫るの? もうちょっと家族水入らずで…」
ほっぺをプリっとぶりっ子気取り。不満そうに言った。
「いい加減にしてください。下の階の惨劇を知らないとは言わせませんよ」
「…そっか。そうだね」
今度はしょんぼりとして言った彼女。
「…で、何をしたんです?」
「みなまで言わせるの? 答えを導き出してるようなものじゃない…」
そして挑発するようなまなざしで…
「まさか… 会社を襲ったのは
「襲ったのは彼らじゃない…」
「じゃあ…」
「円の死も今回の惨劇も私が企画したの。全てはあなたのために…」
「…あんた、どういう… え?」
いかれた女を前に言葉を一つ一つ飲み込みながら。
…パイロットがそれを邪魔した。ヘリに乗って二人で話していることだけは真実。
「…マザー。着きます」
「あなたの器を測らせてもらうわ。それで私は今後の身の振り方を考えるの…」
「器…?」
身の振り方…? こいつには色々聞くことがある。未だに何も飲み込めてない…
だから腹立たしいが必死に堪えた
。俺の目の前に現れて何を訳の分からないことを… そもそも母親が娘を… 嘘でドッキリで… もう頭がパンクしそうだ。
ヘリは河川敷に無事着地した。河川敷を上がり目の前には鉄柵と木々に囲まれた青々しい大きな建物。廃墟なのか植物館なのだろうか…
「…ここは?」
もう訳が分からない。目の前のこの女は、俺はどうしたいのだろう。看板にはしゅりの里と書かれている建物… 電柱には
オクトレイビルのある
「私の作った組織・
「忌むべき…?」
施設の中に入る。広いロビー。マザーとやらの帰還を保育園児のように出迎える少年から成年までの十数人。
――「まざぁ」「マザー」「マーザー」「マッザー」「マザザー」――
「あらあら、みんな元気がないわね。どうしたの?」
「みんな、悪夢を見たんだ。暗闇が僕たちを食べちゃう悪い夢を…」
大きな男の子が言った。俺くらいの背丈… ひょっとしたら俺より年上じゃないか?
「…そう。でも大丈夫よ。きっと解放される」
「まざぁ… その人だあれ?」
鼻垂れてる女の子が言った。あきらかに中学生以上の女の子が俺を指さして言う。
中学生以上だとは思うが正直見分けがつかない。
二十歳そこそこと言われてもそうかと思ってしまう。
「救世主よ… 私たちを解放してくれるの」
「ええっ!」「ヒーローだ」「僕たちを早く導いて?」
口々に彼ら彼女らは言う。目はキラキラ、遊園地の戦隊ものショーを見てるかのようだ。
「なんだこいつら… ヒーロー? この施設を経営でもしろと?」
「いいえ、もっと単純…」
「…?」
彼女は間を開けてとんでもないことを言う。
「皆殺し、してあげて♡」
俺の耳元でささやくマザー。辺鄙な事件に巻き込まれて、辺鄙なところに連れてきて、俺に罪を犯させようとするこいつは一体…
「…どういう意味だ」
と尋ねると彼女は彼ら彼女らに向けて大きな声で質問する。
「みんな~!!
「刺したぁ」「蹴ったぁ」「犯したぁ」「吐かせたぁ」「飲ませたぁ」「殴ったぁ」
…口々にニコニコと彼ら彼女らは語る。こいつらマジか?
気持ち悪い… 吐き気を催す気持ち悪さだ。
「ね? この子たちは悪い子なの。キミが思うかままに解放してあげて? 大丈夫、怒りをそのままに…」
「殺せってことか? 俺に
一体全体何事だ。何がホントで何が嘘か全くわからない。
「何もなしに君にこの子たちが殺せるの? 潤滑油でも何でもいいの。この子たちねぇ… 私が自由になる為には
パチンッ 指パッチン一つして『行きなさい!! あなたたち』と促すマザー。
――「わああああ!!」「いやああああ!!」「ぐっぅううう!!」――
頭を抱えだして座り込む彼ら彼女。何が起きたのか分からない。
「この子たちにはこう命じたの。『川崎隼人の関係者をすべて抹殺せよ』と」
「何だと!!」
「そうすれば皆殺しもあなたにとって
頭痛が晴れたのかのように、むくッと立ち上がって鋭い目つきで俺のほうに歩み寄る連中。
マザーは俺の側まで駆け寄って髪に突き刺したかんざしを引っこ抜く。
髪はバサッとほどける。そのかんざしを俺に渡してきたのだ。
耳元でまたしてもと息を吐くかのようにつぶやいた。
「今度は私を解放しにいらしてね? この匂いを辿って…あなたの彼女なら私の居場所突き止められるのでしょう?」
「…てめ!!」
ひっ捕らえようと手を出すも煙のように散って消えたマザー。
なんで話してもないことを知っているのかは分からない。なぜ
「お兄ちゃん、羨ましいッ!!」「憎いよッ」「円ちゃんみたいに殺すっ!!」
ナイフやら釘バットやらを持って歩み寄ってくる彼ら彼女ら。
あれこれ考える余裕も与えてはくれない。…俺は怒り爆発で吠えた。怒り任せで…
「うるせぇッ!! 死ねぇえええッ!!」
彼ら彼女らの叫びを聞くまでも無い。俺は俺の怒りのままに施設内を縦横無尽に暴れ狂うのだった。
俺の性事情同様、流されてやる。悪魔に身をやつすんだ…
◇◇◇
「クソ…」
施設を出て… 血がべっとり身体につく。側の川で服の汚れを取っていると…
「ガイジ相手にマウント取って… 何が楽しいんだ?」
「…!!」
木陰で休む男に声かけられた。…コイツ、さっきヘリを操縦してた奴だ。
あの女と行動を共にしなかったのだろうか…
「見てたのか?」
「ああ、じっくり見させてもらったぜ。
首をポキポキさせて体をリラックスしてる目の前の男。コイツ、どこかで会ったような…
「いい加減にしろ… いつまで夢見心地なんだ。身体の赴くままか? 哀れだな!!」
「おいお前… 俺を誰かと勘違いしてないか?」
どういうわけか俺は初対面の知らない奴に罵倒されてる。…どこかで会ったのか?
思い出せない… でも会ったような気がする。最近じゃないな… いつだ?
…っていうか俺に向けて言ってるのか?
「
「あァッ? 何なんだよ見ず知らずのてめぇが…」
いきなり出てきてそれも知らない奴が俺のことをぐちぐち言ってきて… 頭おかしいんじゃねぇかとも思ったが、やけに刺さるのは俺にもそういう
…っていうーかコイツ一体何者だ?
「そりゃ気持ち良いよな? 周りから求められて、別に何も持たないのにチヤホヤされて、
「さっきっから何なんだよてめぇ!! 俺の何を知って…」
「全部だよッ!! …気持ち悪いごっこ遊び、日常劇、全部、全部だ!! 見させられる者の気にもなってみろ!!」
「…!!」
どこからか取り出した
速い…!! 全く見抜けなかった。
コイツはさっきから一体何を…
「
「う、うるせぇッ!!
掌から放つ目の前の名前も知らない男に向けられたエネルギー弾。
責任能力のない相手に、『やべぇ… やらかした』…そう思ったのだがそんな考えも簡単に崩れる…
「そんな…!!」
…奴は
片手一本で俺の攻撃は防がれたのだ。
「いつまで斜に構えてんだ…? 『やっちまった… やりすぎだな』なんて考えてたのか? いつまで
「…!!」
俺は思った… 奴は頭がおかしくなったのでもなくただ俺にだけ…この熱さ、俺にだけ思いを向けていると。
でも何のことか分からない。何のことか見当もつかない…
「この世界はお前の欲望を満たすためにあるんじゃねぇ!! てめぇの幻想は成立させねぇ… 俺はここだぜ?」
操縦士はそう言うと煙になって彼方に散った。
「何なんだよ、一体!! 誰なんだよ!!」
奴が去った後にやりどころのない怒りをそのままに吠えるしかなかった。
アイツ、俺のこと知ってるような感じで変な風に絡まれたが… 一体誰なんだ?
このモヤモヤのまま、帰路につくのだった。
◇◇◇
「えー昨日午前一時ごろ、
俺はソファーに寝っ転がっていた。昨日から調子が悪いし身体も怠い…
野郎に見られてるんじゃないかと
『最近、暗いニュースばかりね…』と紗耶香がテレビを見てる俺に言う、土曜の昼食後のリビング。
「…ああ」
コイツは本当に読めない。何かを見透かしたかのように… されど口調は透き通った小川のように穏やか。
「隼人くんは大丈夫なの?」
「…何が?」
「何でも…」
俺はその場に居づらくなり自室に戻ろうとソファを立った。
「…何にもないさ。ここは多良木じゃないんだから」
と言い残して。
―――ティリリリリ…
自室のベッドでうつ伏せに寝っ転がってると電話があった。…着信は詩音からだ。
「もしもーし」
「あ、隼人? あれから連絡ないもんだから心配になって」
犯人を追っかけようと協力を要請してたけど、ホシは本当にお星さまになっちゃったんだよな。
「…いや、ちょっと今日明日にでも動きたい。いけるか?」
「…え? う、うん。一時間後くらいになら」
手がかりならある。手渡されたあの
俺は敷かれたレールの上、トロッコに乗ってすべては仕組まれていたかのように…
=====第三者視点。隼人の知らない世界=====
~~~とある廃工場にて
「サジル… あなたどういうつもり? 隼人を刺激したりして…」
フィリオと隼人を散々困惑させたヘリの操縦士の男が密談している。
「…すべては我々の繁栄のために行ったのです。私はこれまで彼と真摯に向き合い続けた」
「ええ… だから
「はい。身に余る光栄だと常に感謝しております」
「…裏切った彼は、虚無の中を
「…はい。もう二度と…」
操縦士は一瞬たりとも動揺することなく…
「
と若い女の子に冷やかされていた。
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