はぐれ者一人
~~~川崎隼人の節~~~
「はい川崎です」
詩音と絆を実感したあの日の夜のこと… 登録されていない番号から電話があった。
「…ええっとこちら、川崎さんの携帯でよろしいでしょうか?」
「はい、どちらさんでしょうか?」
「…先日お仕事振って頂いた東出です」
「東出… …ああ、記者の!!」
円を追っていた時に出くわした、駅前で血だるまになって寝てた人だ。…そういやちゃんと病院行ったんかな?
ってかなんで俺の電話番号知ってるんだ? 彼の名刺は貰ったが…
例のごとく名刺は持ってないので渡しようもない。
「チームのメンバーの所在が分かりました、頭張ってる奴のね…」
「…!! 次はいつごろ時間を割いてもらえますかね?」
そんな疑問なんてどうでもいいくらいのネタ。
電話口、明日の午前中に会う予約を取り付けた。詩音に協力してもらう前に片が付くんじゃないだろうか…
―そして俺たちはメンバーが勤めるというバイク屋に向かった。
「知らねぇよッ!! 俺たち何にも…」
バイク屋の店員を路地裏に連れてきた。
襟首掴んで『お前は何をやった?』と質問するも頑として口を割ろうとはしない。
これもまた俺の家族愛に通づるものがあるのだろう。
…それとも本当に知らないのか?
「嘘付け!! 被害届けこそ面倒くさくて出さなかったが俺は清永駅でお前らにボコボコにされたぞ。そのうちの一人にお前を見た」
俺の横の記者・東出さんが主張する。記者って言うより探偵みたいな格好だ。
「それはお前があの子と話す俺らにちょっかい出したからだ」
「…あの子ってのは?」
「え…っと…」
重要なワードを見逃さなかった。あの子…っての
「
少々手荒な真似をしたら吐いてくれた。依頼をボスが引っ張って来たこと。
近寄ってくる
「じゃあなんで隠すんだ!!」
「…ぐッ、信用できねぇからだよ!! ハァハァ… マスコミ各社に警察。垂れ込もうにも相手が…あの男じゃ… クソ!!」
「…誰だ?」
「俺らの話を信用してくれるのか?」
「
俺がそう言うと、
…きっと誰も助けてくれなくて苦しんでいたんだろう。
◇◇◇
「おいおい… それはマジな話か? 泥沼じゃねぇか。政界の暴れん坊もこんなところでせこい真似して…」
記者・東出は血相を変えて言う。江田晴夫に江田清美…。西門区の区長にその娘…
「ああ。なんでもお嬢の親父さんらしい。あんなヤバい奴が噛んでたなんてよぉ…」
「…円の同級生、かよ」
円から生前、伺ってはいた同級生の存在。
なんでも援助交際の仲立人をやってるとは聞いてたが…こんなところで噛んで来るのか。
とめどない怒りをどこに向けていいのやら…
「夜十時に清永西口前で俺らグループと待ち合わせ。そこにあんたが絡んできたんよ」
と東出さんを指さして言う
「そのあとは?」
「え?」
「待ち合わせた後、だ」
「車に乗っけた。スモーク入ってるヤーさんっぽい車に。よく分かんねぇけどあの子は抵抗も無しに乗ったよ、車。そこで俺らの
「メモ…?」
「喋ったから俺らは見逃してくれ。ただハメられただけなんだ。立場の弱い人間を道具のように使う奴らに。なぁ頼むよッ!! 俺らも共犯なのかもしれんけど、奴らは俺たちを切って生き残ろうとしてんだ。…俺たち馬鹿で金とか女とかに目がないけど真っ直ぐなだけなんだよ。リーダーを辞めさせられてもまだ… あいつらを裏切れねぇ」
「…お前自体が裏切られてるじゃねぇか。なのにどうして…」
「俺、チーム引っ張ってきた身だからな。なんつーかやめた今でもあいつらが心配でよぉ… 馬鹿だからやさぐれて変な真似しないかって…」
みんなから必要とされなくなってもみんなを必要としてる目の前の男に俺は自分の影を見た気がした。
家族だとか身内だとか何も証明するものはないし曖昧だけど、捨てられても捨てたくない。
その気持ちに嘘偽りなし。何の下心もないんだ。
◇◇◇
「…東出さん。コレ、あんたンとこで書くのか?」
話を終え、充をバイク屋に帰した。
慰謝料として金一封で黙ってもらった。『お前らを信用してるから』と言い残して戻った。
「モチのロンよ。あんだけおいしいこと聞いたら記者魂が
俺の愛読書・猛毒スナイプズの記者の東出さんにネタ提供するのだった。
それありきの情報提供だったから。
提供前までは復習の相手へと続く架け橋のように思えたから提供でもなんでもしてやろうと思ったが、ぶっちゃけた話今の時点では気が進まない。
「じゃあさ、俺の…」
一つお願い事をした。ゲボってくれたアイツの為に。
~~~奥田充の節~~~
「…お前らを絶対に許さない。首を洗って待っていろ…ってめちゃ書いてるやんッ!!」
殺戮インパルスの元リーダー・充こと俺はトイレの中で思わず叫んじまった。
アウトローのバイブル的存在【猛毒スナイプズ】の六月号… 特集・現代社会に潜む、長内容は四ページにわたる内部告発。
写真こそ使われていないが俺がボロったこと全部… 配慮か知らんが俺たちの存在はうやむやにされてるけど。
「…大体、何考えてんだ。Xって… 仮面は被ってるけどこれ絶対…」
あのデカい男だ… なに自分の電話番号載せてんだ。
今日は集会日。あいつらに江田の本性を教えてやろうと思ってる。
…んで奴らとつるむのを止めようぜって。あの大男からは『無駄』だと言われた。『私利私欲に目がくらんだ人間はとても傲慢で今日明日で浄化できるものじゃない』と。
『そういう弱い部分を狙ってくるのが教祖様の考え』だと。
ハッキリは言われなかったけど奴らを見捨てて自分ひとり頑張れってことが言いたかったんだと汲み取った。
でも馬鹿だから死ななきゃ治らない。『危険を顧みないで救うのが仲間だと思ってる』って話を大男にしたら『勝手にしろ。知ったこっちゃない』って。
でも本には書いてある。デカデカと…
――《ゲボってくれた友達思いの為にも戦おうじゃないか。変態区長は俺が倒すから安心しろ》――
「うるせぇよ…」
俺は気恥ずかしさからそうツッコむ。
◇◇◇
…午後八時半。決起集会、俺は仕事を片付けることのに必死で集合時間より30分遅れてしまった。
「おばちゃんやぁ… いないのか?」
受付で座ってるはずのおばあちゃんがいない。灯りはある。
…おかしいな、まだいるはずなんだけど…
「ん? 靴は…あるな」
靴箱にだらしなく入れられた靴。間違いない、あいつらのだ。でも声が…
「おーい。お前ら…」
引き戸を開けた先… 本能的に一歩引いてしまう。
「な…んだよ、コレ…」
酷く臭い。血生臭い公民館。
…血まみれの畳、転がってる人間。
「おいッ!! 誰だよ、誰にこんな…!!」
「
「はッ…!!」
「とんだ茶番劇だった。四ページにわたるコラム、全部びっしり話してくれたね。飼い犬に噛まれるとはこのことか…お前もこいつらと同じで馬鹿だと思ってたよ。うちら、もう詰みだよ?」
背後から現れたお嬢こと江田和美… 俺は冷静さを捨て怒り狂った。
「てめぇが… やったのか?」
「…あ~ぁ。またパパの白髪増えちゃうじゃない。私のパパなんだからもっといい男でいて欲しいのに」
この狂気の場所には似つかわしくない純白のウエディングドレス。
…狂気の沙汰だ、狂ってやがる… 正直拍子抜けした。
「何のつもりだ!! テメェがやったんか!?」
「大きい声出さないでくれる? 憧れだったドレスを着て、最期くらいゆったりした時間を過ごしたいのに」
「てめぇがやったんかって聞いてんだよッ!!」
「…何かに怯えたパパが殺し屋に頼んで処理しちゃったのよ。全部私の物なのにパパはいつもそう… 」
彼女は思い更けたようにノスタルジックを演出するような表情で言った。
「江田ァァアアアアッ!!」
俺は背中に隠し持った小刀を抜いて清美に向ける。彼女のかわいらしい表情お構いなしに。
「めんどくさい犬ね。…何から何まで説明しなきゃダメなの? 黒い繋がりとやらの報復ってことで私たちは死ぬ
彼女は俺に拳銃を向けてきた… 緊張の一瞬。
「あたしたち肉塊二つ、トップ同士の内部抗争ってことで終わり」
カチャッ トリガーを引いた。
「死ねぇぇええええッ」
発砲音を待たずして飛び込んだ。 バンッ…!! 飛びかかった俺は胸を打たれた。
…が勢いそのまま清美の腹に小太刀を刺して彼女ごと体制を崩した。
「…てめぇのじゃ…ねぇだろ」
胸が痛む中、そう呟いた。俺たちは自由だ、何物にも縛られることのない一人一人が心を持った…
「ったた… …酷いじゃない。練炭で、楽に死のうと思って…たのに…」
腹を押さえてスクっと立ちあがった清美。浅かったか…
城のウエディングドレスは赤く染まっている。
「あーあ。せっかく、…できたチームなのに。
倒れてる俺を見下し、拳銃を向け… バン!!
~~~川崎隼人の節~~~
「…悪かったな」
清永西口の茶店。東出さんから聞かされた二人の訃報。
…俺は自分のバカさ加減にイラついた。
「思ってもねぇこと言わねぇでくれ。情報が飯の種なんだろ?そいつがアンタの仕事なわけだ。…俺もまた情報を頂くために、アンタのやろうとしてたことを許した。責任は俺にある」
だから嫌いなんだ… 法の整備が整っていない現代。どこまでが良くてどこまでが悪いか…
多くの人間が共存する。多くの価値観が存在する。
あっちの国では許されて、こっちの国では許されないが普通のこと。
生まれた時代に肌の色、お国柄…。絶対的なものなどないのだ。
みんながみんな戦争を望まなくてもおこる。減らすことが出来ても、無くすことはできないのだ。
正義は自分にとって関係性が有るか無いかで姿・形を変える。状況や立場、環境などにも左右される。
…悪党にも悪党なりの正義があるのだ。
ーー正確には見え方… つまりその人の目が変わるのだ。尺度、目張りが変わるから、今まで見てきたものもズレてくる。
人は子供の頃見て受けた感動を、大人になってから同じように受け取ることは出来ないのと同じ。
人を裁く法は整備の途中だ。罪の種類も人が豊かになる分増える。イタチごっこで終わりが見えない。
かといって正義に決まったルールなどは制定されていない。曖昧の中で探り探り。
結局のところ多数決によって導き出されるのが一般的な正義。
その
…
主体性とは大多数の人々を鑑みた上での自分なりに考えて行動すること。
客観的に見て、人間的に身体的にとんがっていたり、
同町圧力や世間体を気にしながらも外れずに生まれるのが個性。
それを外れれば奇妙… 嫌悪の対象。多くの人々は不変や安定しか望まない。
アウトロー… はみ出し者は死ぬのだ。
悪に加わるか人間らしい生き方を捨てるか… その二択しかない。人間的に死んだも同然だ。
◇◇◇
「…連絡はあったのかい?」
「いや、めっきりだ。そもそもコンビニじゃ売ってないしな、【猛毒スナイプズ】」
「まぁ、相手もビビってんのかもな。うちの出版社への連絡とかは期待しないでくれよ? うちらはグループ制作でやりたい放題のスタンスだしヤクザもんの圧力は受けないようなシステムだし。法的な配慮も一応してあるからな」
「逆だよ。困ったら俺を使ってくれ。体くらい張るさ」
「期待してる。…無茶はするなよ。まぁなんかあったら連絡くれよ」
東出さんと茶店で別れた。
『俺は死なねぇ。俺たちは無敵だ』そう呟いた。
昔読んだ本に『正義とは何ですか』と問う一文があったが、作者は答えを出さずに本を終えた。
『皆さんと考え方一つ一つが正義なのです』と締めたのだ。
どうやら元教師らしく道徳の学校での授業中、生徒たちに質問したらしい。
『弱きを助け、強きを
それを機に発言する者はいなくなったんだとか…
でも現実はどうだ? 我々が求めているのはこんな時に手を差しのべて、助け舟を出してあげる正義のヒーローではないか?
それが
間違っていることを間違っていると言えない世の中は間違っている。
俺は最期の一人になってでもそう言い続けてやる。
あんな事件があってもまだ余裕でいられる。
今までもそうさ、きっとこれからも。
何故なら俺は、確立された絶対的な
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます