第21話 16歳の妹の決意

沙織「お兄ちゃんっ!!」


山本「(沙織を残して、お風呂場から出ようとすると、先ほどまでとは全く違うテンションで呼び止められた。そのピシャリとした声に足が止まる)……ん? どうした? ぞうさんなら今、忙しいんだ。またにしてくれ!」


沙織「そうじゃなくて! お兄ちゃんは『異世界で幼馴染と魔王討伐します』だと誰が好き?」


山本「……え?」


沙織「いいから答えて!


山本「それは、西沢ミアちゃんに決まってるだろ」


沙織「あ、あの! そのことだけど!」


山本「お前も好きなのか? でも今はぞうさんが暴れそうなんだ! 男性のとある事情でやばいんだよ!」


沙織「そ、そうかぁ。ごめん呼び止めて。どうしてもそれが聞きたかっただけ。それだけだから」


山本「じゃ!」


沙織「(お兄ちゃんがお風呂から慌てて出ていく。……バカッ――――――。お兄ちゃんは、私が『異世界で幼馴染と魔王討伐します』で西沢ミア役を演じるIROAイロアだって気付いてない。なんで! 気づけっ! さおり(SAORI)を逆から読んだらIROAS。Sを抜いたらつまり、私のこと。すっごく分かりやすいと思ってるんだけどなぁ。……私は小・中とずっと声が高くて、それが原因でいじめられっ子だった。毎日泣いてばかりで……。そんな私に、突然お兄ちゃんが、勝手にだよ! 嫌だと叫ぶ私を、無理やり声優事務所の体験コースに連れて行ってくれた。何の取り柄もなくて、うじうじ生きてる私を見かねたのだろう。『お前の声には特別な才能がある!』とか、なんとか言って、無理やりに引っ張って行ってくれた。あの日のお兄ちゃん、なんか妙に男らしくてさ、格好よかった。体験を終えた帰りに、私だけがマネージャーに呼び出されて、1000人に1人の才能があるかもしれないと言われた。今すぐに事務所に入った方がいいと誘われた。プロになるまで、競争率が激しいこと、訓練が厳しいことも教えられた。とてもびっくりしたけど、コンプレクスだった声を褒めて貰えてすっごく嬉しかった。だから迷いはなかった。プロになって、お兄ちゃんに喜んでもらえたら嬉しい。そう思った。中学を卒業すると高校には進まず声優になるために、がむしゃらにがんばった。お兄ちゃんに喜んでもらえる声優になれたら、その時は、きちんと話そうと心に決めた。レッスンを始めるようになると、声優を目指していることも、お兄ちゃんと合うことも止めようと誓った。事務所での練習が厳しかったから、きっと弱い私はお兄ちゃんの顔を見たら、泣き言ばかり言ってしまう。お兄ちゃんを苦しめると思った。会えない日々は辛かった。でもぐっと堪えてがんばった。そして、私は声優、IROAとして、ようやく、オーディションに受かるようになった。やっとお兄ちゃんに認めてもらえるような声優に、私はなれたのかな?)」









【雑談】

今回、ノクターンっぽさなかった。




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