#15「いきなり!黄金鎧」

 姫の拘束魔法を食らった侵入者が全く動いていないことを薄目で確認して、僕はゆっくりとベッドから起き上がった。

 恐る恐る侵入者に近づいてみると、その女の子は全身を光の縄のようなもので拘束された上に後ろ手で縛られ、口には猿ぐつわのようなものが噛まされていた。

「これはやりすぎだろ……」

 床の上で声にならない声を上げている女の子を見たら、なんだかかわいそうになってしまった。

 でもきっと悪いことをしに、この部屋に入ってきたのだろうから、事情はしっかりと聞いておく必要がある。


 この女の子は僕やミハルの命を狙ったのではないことは、すぐにわかった。

 それが目的だとしたら、真っ先に腰に下げたナイフで僕らの命を狙ったはずだからだ。

 つまりこの部屋を物色していたのは、物取りのためだと考えられる。

 何か目的の品があるのか、それとも金目の物を狙ったのかまではわらかないけど……。


 そんなことを考えていると姫がガチャガチャと大きな音を立てながら、部屋に駆け込んできた。

 姫は完全な武装モードで、黄金のフルプレートの鎧を身にまとい、背には巨大な両手剣を背負っていた。

 いったいどこの剣聖と一騎打ちをするつもりなんだ?

 ……っていうか、そもそもこの人、魔法使いじゃなかったっけ?

 姫は鎧と剣が重いのか、肩で息をしながら僕に聞いてきた。

「侵入者は、どこですか?」

「ここにいますよ」

 姫は侵入者の女の子を見つけると、背中の両手剣を構えて近づいていった。

 部屋の中ではその大剣は振り回せないと思うけど……ま、自由にやらせてあげよう。

 ……と思った瞬間、姫は両手剣をゴルフのテークバックのようにコンパクトに振りかぶり、女の子の胴体めがけて振り下ろした。

「死ねー!!」

「待てー!!」

「ふぇっ!?」

 僕の大声に驚いたのか、姫の剣は手からすっぽ抜けて壁に当たり、火花を散らした。

「なんで止めるんですか!!」

「いきなり殺そうとしないで、事情ぐらい聞きましょうよ!」

「ダメです。私の城に侵入しただけで万死に値します」

「そうだとしても、僕らがいる部屋に血が飛び散るのはイヤです。トラウマになってこの先仕事ができません」

「なるほど。一理ありますね。では外で処刑しましょう」

「いや、平和に暮らしてきた日本人には処刑とかちょっと無理なんで、まずはこの人の話を聞いてみましょうよ」

「あなたがそこまで言うのでしたら、聞いてあげてもいいですが、つまらない話でしたらあなたもついでに処刑します。それでもいいですか?」

「……つまらないの基準がハッキリしてませんが、それでもいいです」

「わかりました。ちょっとでもどこかで聞いたことがあるベタな話だったら容赦なく処刑しますからね。せいぜい面白い話であることを願ってください」

 姫は両手剣を背中に戻し、何やら呪文を唱えて、女の子の猿ぐつわだけを外した。

 逆エビに反り返ったままの女の子は、僕を見て「ありがとうございます」とひと言お礼を言ってから、侵入した経緯を話そうとした。


 すると姫は、いきなり女の子に近づき髪の毛を掴むと、無理やり覆面を剥がした。

「国の最高権力者の前で覆面をしたまま話をするなんて許しません!」

「でも、手が拘束されているので取るに取れず……」

「それでも根性で……って、おや?あなたは……」

 姫は女の子の顔をまじまじと見つめてから、こう言った。

「……ライナの妹ですか?」

「……そうです」

「なぜこの城に?」

「……実は姉のことで、いてもたってもいられず、この城に入ってきました」

「そうですか。わかりました。ちゃんと話を聞きましょう」

 姫は僕に椅子を用意させると、そこに座ってから、女の子の拘束を解いた。

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