#14「お風呂いただきマンモス」
僕とミハルが通されたゲストルームは、日本の高級ホテルのスイートルームほどの面積で、二人で使うのには十分の広さだった。
ベッドやワードローブ、ソファにテーブル、そして洗面所やトイレ、風呂までも完備されている。
インテリアやアメニティも高級ホテル並みのクオリティだった。
唯一テレビが無いのが残念だったけど……
部屋に入ったばかりだというのに、すでにミハルはどこから見つけ出したのか、ルームウェアに着替えていた。
僕もパーカーとジーンズを脱いで、ルームウェアに着替えた。
「なんだよ。せっかく異世界に来たっていうのに相部屋か……」
「私は全然平気だよ!」
ミハルはベッドの上にダイブした。
「ミハルはこういうの平気だよな~」
僕はといえば、他人と一緒に寝るのって、ちょっと苦手なんだよね。
寝返りとか、いびきとか、小さな物音ですぐ目が覚めちゃうから。
まぁベッドは別々だし、間も離れているから平気だと思うんだけど……
「ミハル、先にお風呂入ったら?」
僕なりにミハルに気を使って、先にお風呂を進めたんだけど……返事がない。
「まさか……」
ミハルはもう寝ていた!!早すぎだろ。
まるで本能のままに生きてる野生動物だな。
……これだからミハルは恋愛対象にならないんだ。
まぁそれはそれで、友達付き合いができるから気楽でいいけど。
ミハルが寝てしまい、特にやることもなくなった僕は、せっかくなので異世界のお風呂に入ることにした。
ルームウェアを脱ぎ、タオルを片手に、少しワクワクしながら、ゲストルームに作られたお風呂の扉を開けた。
すると、そこにあったのは、石造りの洋風のお風呂ではなく、和風の木のお風呂だった。
シャワーこそないものの、大きな湯船には、木の湯口からなみなみとお湯が注ぎ込まれていた。
どうやらこの世界でも上下水道は整備されているらしい。
どういう原理でお湯が出ているのかは謎だけど……。
『……それは魔法です。湯沸かし魔法ですよ』
誰かが脳に直接語りかけてきた。もちろんそんな芸当ができるのは、あの姫だ。
「あの……姫、なんでお風呂が和風なんですか?」
『実は先日、テレビ東京の旅番組を見てたら、どうしても和風のお風呂に入りたくなってしまって、職人さんに無理を言って作ってもらったんです』
……無理言いすぎだろ。職人さんも頑張ったな~
「ということは、このお城のお風呂は、ここ以外も全部和風なんですか?」
『そうですよ。もちろん撮影の時以外はバスタオルを使わせませんが』
言ってる意味がわかんないから無視しよう。
まぁお風呂が和風なのはいいとして、ちょっと姫に言っておかなければいけないことがある。
「あの……姫、言いづらいんですが……」
『大丈夫ですよ。怒らないから言ってください』
「お風呂、覗かないでもらえますか?」
『なんですって!?心配して見てたのに!!覗きですって!?』
やっぱり怒った。
「いや、プライバシーってもんがあるでしょ。姫だって知らない間にお風呂を覗かれてたらどう思いますか?」
『それは処刑ものですけど、もう習慣になっているものでゴニョゴニョ』
おい姫よ。これまでどれだけ僕たちのことを覗き続けてきたんだ!?
「習慣でもなんでも、もうやめてくださいね」
『仕方ないですね……』
「それと、直接脳に語りかけるのも控えめにしてください」
『う~~、細かいですね~。仕方ないです。渋々OKです』
もう頼むよホント。何から何まで覗かれていたらたまったもんじゃない!
一応警戒しながらも、お風呂も頭の中も覗かれていないと信じて湯船に浸かった。
足を伸ばしてのんびり入るお風呂は、今日の波乱万丈の一日の疲れをとるのには十分だった。
お風呂から上がった僕は、テレビもパソコンもなく、仕事もなく、やることが全くないので、ちょっと早い時間だけどベッドの上に横になることにした。
隣のベッドではミハルがすやすやと寝息をたてて寝ていた。
ランプの明かりを消すと、部屋の中は窓から差し込んでくる月明かり以外、真っ暗になった。
それから何時間かたった頃、さすがに寝付きの悪い僕も眠りについていたのだが、何か音がした気がして目が覚めた。
不穏な気配を感じたので、薄く目を開けると、月明かりの中、半裸の女性……いや、女の子が何かを物色していた。
もう少しじっくり観察してみると、その女の子は顔の上半分を覆った覆面をし、ショートパンツを履いた腰に大きなナイフをぶら下げているようだった。
――丸腰の僕らでは太刀打ちできない。
そう悟った僕は、さっき禁止したばかりの脳内通信を復活させた。
(姫!姫!)
『なんですか、いきなり!TBSの深夜アニメを見ていたところだったのに……』
脳内通信はすぐに繋がった……って、常にスタンバイ状態なのか?
(アニメ鑑賞中だったところ申し訳ないんですけど、ちょっとヤバいことになっていて……)
『ヤバいことって、私の一週間の楽しみに割り込むぐらいだからそれなりの……』
(僕らの部屋に怪しい女の子がいるんです!)
『えっ?それはビックリですね!マジでヤバいじゃないですか!ちょっとあなたがたの部屋を覗いてみますね……』
(いま僕は、そんな簡単に覗きができることにビックリしていますよ)
『ああ……確かに何か人っぽいものがいますね……暗くてハッキリとは見えませんが』
(どうしましょうか?)
『こんなこともあろうかと、その部屋には拘束魔法の魔法陣を仕掛けてあります』
……それって別の目的なんじゃないの?例えば僕らが逃げないように……とか思ったけど、言ったら真っ先に僕に使われそうだからやめた。
『こちらから魔法を放つと、タイムラグがあるので逃げられてしまう可能性があります。なので今すぐあなたに魔力をお送りします。そのあとに拘束魔法の呪文を詠唱してください』
おぉ~っ!なんか身体がビリビリしてきた。これが魔力なのか?ちょっと電気風呂みたいで面白いぞ。
『身体がビリビリしてきたら、こう唱えてください「エビザゼンキッコウホグタイ」』
……意味はわかんないけど、なんか変な呪文だな。
『さぁ!指先をターゲットに向けて呪文を唱えて!』
ゴソゴソしてる女の子の人影に指先を向けて……えっとエビ……なんだっけ?
『エビザゼンキッコウホグタイです!!』
「エビザゼンキッコウホグタイ!!」
そう唱えた瞬間、ロープのような光が人影に向かって飛び出し、身動きがとれないよう複雑な形に縛りあげた。
「うぅ~」
拘束魔法はしっかりと命中していたようだった。
(姫、ここからどうしたら?)
『今から行くから待っててください!』
(だったら最初から来てほしかったんだけど……)
『そんな不審な人物と、姫である私が直接戦うわけにはいかないでしょう!殺されたらどうするんですか!』
僕ならいいのか?と思ったけど、この国にとっては姫より僕の命の方が軽いかもしれないと思ったから、考えるのをやめた。
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