#13「ヒメトーーク!」

 姫の部屋に置かれた鏡に、日本で放送されている地上波やBSの番組が流れていた。

 さっき姫が使った「モニター魔法」という直球なネーミングの魔法は、日本のテレビ番組を鏡に映し出すという、何の役に立つのかよくわからない、ピンポイント過ぎる魔法だった。

 いま僕らがいる異世界は夜なのだが、日本と時間がリンクしているのか、鏡にはゴールデンタイムの番組が映し出されていた。

「すごいですね!本当にリアルタイムで観ることができるんですね」

「すごいでしょう。ここまで魔法を完成させるのに、どれだけ大変だったことか……。そうあれは今から……」

 あ、ヤバい!話が長くなりそうだ。

 話題を変えよう。

「あの……ちょっといいですか?姫」

「……なんでしょう」

 姫はこれから始まる波乱万丈の物語を中断されて、明らかに不機嫌そうだった。

「あのですね、僕ら話の流れで、なし崩し的に一緒にいますが、まだ姫の名前すら知らないんですよ」

「ああ……そういえばそうでしたね」

「なので今からみんなで自己紹介といきませんか?」

「えぇ~そんなの恥ずかしいですぅ~」

 んん?なんで急に女子っぽくなってるんだ?

「レディのことをあれこれ詮索するなんてセクハラですぅ~」

「……姫、そういうのいいですから」

「なんなんですか!#10でミハルさんに怒られたから、ちょっとボケてみただけなのに!」

「いやいや、ボケにしては中途半端ですよ!もっとしっかりボケてくださいよ!」

「そうだよ姫ちゃん!今はボケるタイミングじゃないよ。空気読んで!」

 ミハルがガチのダメ出しをした。相変わらず笑いには厳しいな。

「わかりました。勉強します……」

「頼むよ~」

 おいミハル!何目線なんだよ、お前は!


 ……ああもう!まーた話が進んでないよ!もっとテンポよく行こうよ!

 こうなったら僕が仕切ろう。

「えーそれじゃ自己紹介ターイム!まずは僕からいきますね!」

「いえ、あなたのことは知ってるので結構です。ずっと監視していましたから」

「ちぇっ……なんだよ」

「ねえねえそしたら姫ちゃん、私のことは?」

「ディレクターのミハルさんですよね?」

「ブブー!はずれ~!今は異世界を救う勇者として降臨した、元ディレクターのミハル・オブ・ナイトメアです!」

「いつのまにジョブチェンジしたんだよ!」

「ナイトメア?悪夢?……どういうことでしょう?」

 そこはあまり考えていないと思うからツッコまない方がいいですよ。

「私ね、くまちゃんたちと合流するまでに、すごい数の敵の大群を蹴散らして、ついでに魔王を倒してきたんだよ!」

「ついでに倒すな!」

「ミハル・ジェノサイド・マキシマム・バスターっていう、この世界最強の剣技でね!」

「平気で嘘をつくな!スラスラ嘘ばっかり吐きやがって!」

「あら、嘘だったんですね!」

 ちょっと姫さん!ミハルの嘘に気付いていなかったのか!?

「おい!ミハルまでボケはじめたら話が進まないだろ!」

「ははーっ!めんごめんご!」

 ……もうなんなんだよ!お前らは話を進められない呪いにでもかかってんのか!?

「まあ、おふたりのことはよくわかっているので、私が自己紹介をしますね」

「いよっ!待ってました!」

「うるさい!ミハル!!」

「私は東方の歴史ある王国ビジョネアの12代目国王ガレットの一人娘にして、王位継承権1位の姫・クッキーです」

「クッキー!?」

「かわいい!!」

「ですよね、あなたがたの世界ではかわいい名前なんですよね」

「あはは!かわいいけど、芸人さんに同じ名前の人いるよ~!」

「こら!ミハル!余計なことを言うな!」

「そうなんですよ。私も同じ名前の芸人さんがいることを知って、興味を持って調べてみたのですが……」

「ですが?」

「そのお姿を見て戦慄しました!!」

 ……ああ、確かにあの芸人さんを見たらショッキングだろう。

 カタカナとひらがなの違いはあるといっても、こんな可愛らしい姫とは真逆の生き物だ。

「あの人は特別ですから。一般的に日本でクッキーと言ったらかわいいお菓子のことですよ」

「……フォローありがとうございます」

 姫がペコリと頭を下げた。

「それでさ、クッキーちゃん!歳はいくつなの?」

 ミハルさん、距離の縮め方が完全に業界人だな!

「今年で16歳になりました」

「若いじゃん!いいなぁ~」

「そんなに若くはありません。この国ではもう大人として扱われる年齢ですから」

「じゃあさ、趣味とか特技は?好きな男のタイプは?」

「ミハル、グイグイいきすぎだよ!」

「大丈夫ですよ。趣味は魔法の研究。特技は新魔法の開発。好きな男性のタイプは偉大な国王・父上のようなお方です」

「あー、つまんない!フツー!もっとぶっちゃけてよ。これから一緒に冒険する仲間なんでしょ」

「冒険はしないだろ……」

「なんだよ、くまちゃん!さっきからツッコミばっかりだね!」

「お前のせいだろ!」

 あー!もうツッコミが止まらんんっ!

「ねえねえクッキーちゃん、早く早く~!ぶっちゃけてよ~!!」

「わかりました。ぶっちゃけると趣味はテレビ。特技は軽快な爆笑トーク。好きな男のタイプはちょっとオラつき気味のワイルドなイケメン。これでいい?」

「ブラボー!それだよクッキーちゃん!」

 ……なんか特技に違和感があった気がしたけど。

 ま、いいか。これにつっこんだらまた長くなるからな。

「まぁ夜も遅いので、今日のところはこれくらいにしましょう。明日から具体的な説明に入りますね」

「はーい!」

「お風呂とベッドを用意してあるので、ゆっくりお休みください」

「はーい!」

 ……なんかミハルのテンションの高さが気になるなぁ。

 そのまま姫は侍従長を呼び出すと、部屋まで二人をエスコートするよう命じた。


 ――うーん、今回はほとんどトークだけで終わってしまった。

 でも次回はちょっとした事件が起こるのでお楽しみに!

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