#12「姫子の部屋」
姫の部屋に移動してからは、様々なことがスムーズに進んでいった。
まず姫は侍従たちを呼び出した。
彼らに現在の状況を説明すると、すぐに侍従たちは食事の支度を整え、僕とミハルを客間へ案内してくれた。
お腹が空いていたミハルは「いただきます」も言わずにガツガツと食べはじめた。
並べられていた料理は、僕らの世界で言うところの洋食風のメニューだった。
あまりにも美味しそうだったので、さっきシチューを食べた僕もご相伴に預かることにした。
客間には食事の給仕係以外、姫すらもいなかったので、無駄に食リポなどをする必要もなく気楽に食事をすることができた。
そのかわり特に何の事件も起こらなかったので、話としては取り立てて書くことがないのが残念だ。
食事を終えると、テーブルの上が片付けられ、侍従長から「姫が戻るまでこの部屋で待っているように」と言われた。
どうやら姫は父上である王様と、何らかの交渉をしているらしい。
客間にはスマホもテレビも無いので、僕とミハルは、新番組の企画会議でもやることにした。
ミハルはテレビでVRをどう使ったら面白くなるのか考えていた。
「いろいろ考えてみると、テレビとVRって相性が悪いよね」
「そもそもVRは個人で楽しむものだからね」
「だとしたらさ、タレントがVRを体験しているのを見ても楽しくないのかな?」
「うーん、何を体験しているかによるんじゃない?……そうだなぁ、例えば、普段は絶対に体験できないような……ライオンに噛まれるとか?そういう目線を体験できるなら面白いかも」
「確かにそれは面白そうだけど、VRじゃなくても、リアルにライオンの口の中にカメラを突っ込めばいい話だよね」
まさにミハルの言う通りだ。やっぱり受動的なテレビと能動的なVRは食い合わせが悪い。
「一度VRを使った企画は忘れようか」
「それが良さそうだね」
僕らはいつまで待てばいいのかわからない中、ひたすら新番組の企画を考え続けた。
いつの間にか客間の窓から見える景色は、夜の闇に包まれていた。
僕らが夕食を終えた頃、ようやく姫が姿を見せた。
「……お待たせして申し訳ありませんでした」
「ずいぶん長かったですね」
「私の独断で進めていた計画だったので、全てをいちから説明するのに時間がかかってしまいました」
そりゃそうだ。テレビの無い世界の人に、テレビの説明をするのは相当骨が折れるだろう。
「なんとか理解していただけたようで、さっそく明日から着手できることになりました」
「明日から!?なかなかのスピード感ですね」
姫はニコリと笑みを浮かべてから、踵を返した。
「ということで、今から私の部屋でテレビを見ましょう!」
何が「ということで」なのかよくわからないが、テレビが見られるならそれに越したことはない。
僕らはワクワクしながら、姫の部屋へ向かった。
長い廊下を歩き、ようやく姫の部屋に着いた。
さっき飛ばされてきた時は気づかなかったけど、姫の部屋にはやたらと鏡が多い。
「お気づきになりましたか?この鏡に私の「モニター魔法」を埋め込んで、いろんな番組を映していたんです」
数えてみると、15個ぐらい鏡がある。
「日本の地上波とBS、CSなどから気になる番組を映していたんですが……」
……と、ここで僕の頭の中に、ひとつの疑問が浮かんできた。
「あの……姫、ちょっといいですか?」
「なんでしょう?」
「なんで日本のテレビだけ映しているんですか?アメリカとか他の国にもいろいろ番組がありますよ」
「えっと……それがですね……」
姫の答えは、聞いてみればもっともなものだった。
「私たちの世界と同じ言葉を使っている国が、日本だけだったんです」
「なるほど!」
僕とミハルは二人同時に手を打った。どうりで異世界なのに言葉が通じるはずだ。
少し経って準備ができたのか、姫は鏡に向かって呪文を唱え始めた。
すると、いくつかの鏡に日本のテレビ番組が映し出された。
――たった半日しかたっていないのに、すごく懐かしくて涙が出てきた。
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