#11「料理だバンザイ!」

 僕と姫は二人して床に正座をさせられていた。

「……な・か・ま。わかる?仲間」

 ミハルは腕を組んで僕らに睨みを効かせている。

「なまか?」

「姫!ここはボケるところじゃないです!」

 確かにさっきはボケを挟むのも大事ってことになったけど、空気を読むのはもっと大事ですよ、姫!


「なぁおふたりさんよぉ。仲間がお腹をすかせているってぇのに、全部食べちまったってのは感心しねぇなぁ」

 ミハルはなぜか岡っ引きみたいな口調になっていた。

 明らかにイライラしている様子で、つま先と手の指を同時にトントンとやっている。

「でもでも……わたくしの作った料理があまりにも美味しくて美味しくて……止まらなくなってしまって……」

 この姫は本当にバカ正直だな!今そんなコメントは必要ないだろ!

 ……あーあ、ほらみろ、ミハルがブチ切れたじゃないか。

「なんだと!このクソプリ!吐け!今すぐ吐け!食ったもん全部吐け!」

 たまらず僕は姫とミハルの間に割って入った。

「ちょっとミハルさんや。暴言にもほどがありますぞ!!」

「なに!くまちゃん、こいつの味方なの?こんな得体のしれない“自称姫”の!」

 やばい!僕に矛先が向いてきた!

「ぼ、僕は、ちゃんと残した方がいいって言ったんだけどなぁ」

「ひどい!裏切り者ですわ!裏切り者!生きて帰れると思うな!」

 姫が僕に掴みかかって怒鳴った。

 ……もうめちゃくちゃだ。


 この状況を打破するには、これしかない。

「姫、魔法で料理を出してください!そうすれば丸く収まります!」

「そんな魔法はありません!」

「じゃあ、どこかレストランにでも飛ばしてください!」

「なるほど、その手がありましたね!でも成功率が低いので、失敗したら亜空間に置き去りか、石の壁の中に埋もれることになりますが……」

「もう、今はそんなこと言ってる場合じゃない!ミハルに殴り殺されるよりましだ!」

「わ、わかりました。3人でレストランに向かいましょう!」

 姫は目を閉じ、ブツブツと呪文を唱え始めた。

「ごちゃごちゃうるさい!いいからさっさとやりなさい!!」

 ミハルの怒りもお腹も、もはや限界のようだ。


 やがて姫は詠唱を終えたところで魔法を使った。

「アドモデコド~!」

 なんだか聞いたことあるダミ声だけど気にしないでおこう。

「レストランへ!」

 姫がそう叫ぶと、3人の体がふわりと浮いた。

 その直後、小屋の中にドアのような空間が開き、僕らはそこへ吸い込まれた。

「あ~!!」

 ここが亜空間なのか?僕らは虹色のチューブのような空間をすごいスピードで飛んでいった。


 やがて小屋に浮かんでいた空間が閉じ、ドアが消えた。

 ――誰もいなくなった小屋に静寂が訪れた。


 そのまま僕らは見えない力によって、出口らしきところまで連れて行かれた。

 出口付近で眩しい光に包まれたかと思うと、そのまま地面に叩きつけられた。

「いてっ!」

「いたーい」

「ふぅ、なんとかなりましたね」

 僕とミハルは尻もちをついたのに、姫だけはエレガントに降り立ったようだ。さすが姫。

「おや?ここは…」

 姫が首をかしげている。

「レストランではありませんね」

「はぁ?」

 僕とミハルの声が揃った。

「まぁ私の移動魔法は、成功率1割ですので」

「ちょっと!そんなレートの低い魔法使わないでくださいよ!」

「実験で試したモンスターたちは、よく柱の中に埋まってましたよ」

「そんな魔法、人間に使わないでくださいよ!」

「だってあなたが使えと言ったから……使ってもいいってことは死んでも怒らないかな……って」

 やっっっぱりこの姫は頭がイカれている!


 ところがミハルは殺されかけたことすら気にしていないのか、僕と姫の間に割って入ってきた。

「まぁ成功したからいいじゃない。で、どこなの?食べ物はあるの?」

 ミハルはすでに黒目の中が「肉」の字になっている。

「そ、それがですね……実はここは……」

「ここは…?」

「私の部屋です」

「姫の部屋~!?」

 ミハルはがっかりした様子で、両膝から崩れ落ちた。

 でもミハルには悪いけど、これはナイスな展開だ!!

 ――ようやく話が進みそうじゃないか!!

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