#9「YOUは何しにこの小屋へ?」

 姫が手作りしてくれたシチューのような謎の食べ物。

 それを完食した僕は、両手を合わせて頭を下げた。

「すごく美味しかったです。ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした。お口にあったかしら?」

「はい!これだけの美味しい料理が作れるなら、すぐにでもお嫁にいけますよ!」

 僕がそう言ったとたん、急に姫がキレ出した。

「はぁ?失礼ですね!『お嫁に~』なんて、女性だけが料理を作ると思ったら大間違いですよ!」

 ……なんか知らんけど急に絡まれた。何か地雷を踏んだらしい。まったくこっちが「はぁ?」だよ。


 それはともかく、どうやらこの国でも男女平等は進んでいるらしい。

 喜ばしいことだ。

 プンスカしている姫がクールダウンするまでの間、僕はせめてものお礼にと食器を洗い始めた。

 姫はブツブツ言いながら、残ったシチューにパンのようなものをつけて食べている。

 ……なかなか庶民的な食べ方をするじゃないか。

 ちょっとだけ姫の好感度が上がった。


 やがて食器を洗い終えた僕は、姫がいるテーブルへ戻ってきた。

 姫はまだ、ちびちびとパンをちぎって食べていた。もう機嫌は直っているようだった。

 姫は手にしていたパンをお皿に置き、話しかけてきた。

「そういえばもうひと方、こちらの世界にお呼びしているはずなのですが……」

「……あ、いっけねー!すっかり忘れてた!」

 4話前の#5で、僕が一人で食料を探しに出て以来、ミハルの存在をすっかり忘れていた。一瞬だけ思い出したけど……。

 まずいな。今頃イライラしすぎて凶暴化しているに違いない。

 もしかしたらモンスター相手に暴れまくっているんじゃないだろうか?

 何か食べ物にありついているといいんだけど……。

「あの~、姫の魔法でここに呼ぶことはできないんですか?」

「はあ?」

 急に姫が不機嫌になった。

 またなんか地雷踏んだかな?もはや地雷原だな。

「あなた、魔法なら何でもできると思っていませんか?」

「……できないんですか?」

「それがだね……できるんだな、これが」

 だったら最初からやれよ!とつっこみたくなったけど、ぐっとこらえた。また殺人魔法を使われたらたまったもんじゃない。

「まさか姫、魔法の存在を忘れてたんじゃないでしょうね?」

 姫が急にブルブルと震えだした。

「そそそそ、そんなわけないじゃないですか!あなたの食リポが楽しすぎたから忘れてたなんて、この最強にして最高の魔法使いがそんな失態をおかすわけないですしょう!」

 そっか…楽しくて忘れてたのか。

 この人、普段からいろいろストレスとか溜め込んでそうだもんな。かわいそうに……。

「それじゃ最凶の魔法使い様、早くミハルを呼んでもらえませんか?きっとお腹が空いているはずなので」

「えっと……それがですね……非常に言いづらいのですが……」

「どうしたんですか?」

「自分で作ったシチューが美味しくて美味しくて、全部食べちゃって、お鍋が空っぽになってしまったんです」

 うぅ~だめだ!つっこみ心が抑えきれない!

 ダメだ!行くな!……ダメだ!

「……食いしん坊か!!」

 僕がそうつっこんだ瞬間、姫の顔が真っ赤になった。そして両手が禍々しく光りはじめた。


 ――そうだ。この光は#6でチラ見せしてきた「殺人魔法」だ。

「き、貴様~!よくも~!」

「こ、殺される……」

 なんとかしないと殺される!えっと……えっと……。

「く、食いしん坊の女の子は可愛いと思いまーす!!」

 ……あぁ、心にも無いことを言ってしまった。

「あなた……心にも無いことを言ってるでしょう!」

 ますます姫の両手の光が大きくなった。

 ガチで殺される……そう思った瞬間。

「ねぇ、何か光ってるんだけど!!誰かいるんでしょ!開けてよ!!」

 ドンドンドンドン!とドアが激しく叩かれた。


 ――その声はイライラがピークに達していたミハルの声だった。

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