#5「イラッてコラえて!」
――この物語ではきっと、このまま冒険者として怪物たちを倒しつつ旅をするのだろう。
そう覚悟を決めた僕は、ミハルと共に森に分け入り、武器になりそうなものを探した。
ミハルは太い木を見つけ「あのブタ人間が持ってた棍棒みたいじゃない?」と楽しそうに振り回していたが、木が腐っていたのか根本からボロッと折れた。
僕はいろいろ探したものの、武器になりそうなものが何も見つからなかったので、投げたら痛そうな石をいくつか拾った。
――実際こんな装備で怪物に遭遇したら瞬殺されるだろう。
僕は頭の中で逃げるシミュレーションだけして、逃走能力を極めることにした。
まぁ、もし魔王を倒せとか言われたら、逃走能力だけじゃ絶対に勝てないけどね!
などと考えながら、しばらく森の中を歩いていると、急にミハルの様子がおかしくなった。
なんとなくイライラして、まわりのものに当たり散らかしているように見えた。これはアレに違いない……。
「ねぇ、もしかしてミハル……」
ミハルは僕の問いかけに、イラつき気味に答えた。
「そうだよ!お腹が空いたんだよ!」
「やっぱり!」
こちらのお嬢さまは、かなりおキレになられているようだ。
……まぁコイツは昔からそうだった。お腹が空くと急にイライラしだすのは、出会った当時から変わっていない――
(注:回想編は始まりません)
ミハルからの攻撃=八つ当たりのフレンドリーファイアを避けるために、急いで食べられそうなものを見つけることにした。
さっき武器を探していた時、近くに川が流れているのを見つけていたので、飲み水の確保は問題なさそうだ。
問題は食べ物の方だった。おそらくここは異世界なので、元いた世界と同じ食べ物があるのかわからない。
ただ、空気もあるし、木も生えてるし、虫みたいな生き物もいるので、食べ物もそんなに変わらないだろう。
肉や魚があるのかは、さっきみたいな怪物がいる以上、若干不安だけど……。
――いや、そもそもここで餓死するようなお話は、物語として発表してはいけないヤバさだ。
タイトルが「オレが異世界に行ったら食べ物が確保できなくて餓死した件」とかいう作品にスポンサーがつくとは思えない。
サバイバルの知識もない。食べ物もない。敵と遭遇したら即死。
もしこれが無人島脱出系のバラエティ番組なら過酷すぎる設定だ。演出はポンコツだ。
……などと心の中で文句を言いつつ、食べ物を探していると、森の奥の方で煙が上がっているのが見えた。
相棒のミハルはお腹がペコペコすぎて、イライラがピークだから正常な判断はできない。
そう思った僕は、様子を伺うために、ひとりでその煙の近くまで向かうことにした。
なるべく音を立てないようにしながら、遠くで昇っている煙の方に近づいていくと、茂みの中に人が一人通れるほどの小道を見つけた。
その小道には人間が通ったような足跡が残されていた。
「ようやく“第一異世界人”と遭遇か?!」
自分でナレーションを言いながら、ドキドキと胸が高鳴るのがわかった。
「これちょっと楽しいな~!」
この先にいるのが人間である可能性が高まったことから、不安や恐怖よりも、好奇心の方が勝りはじめていた。
予想通りその小道の終点には、人が住んでいそうな小屋が建っていた。
煙突からは、さっき僕が見つけた煙が立ち上っていた。
いい匂いもしている。きっと食べ物があるに違いない。
僕はドアに近づき、コンコンと2回ノックした。
――そもそもこの世界でもドアをノックするマナーはあるのだろうか?
そんなことを考えた瞬間、ガチャリと鍵が外れる音がして、ドアが開いた。
中からはゴージャスなドレスを着た、小柄な女の子が現れた。
「……なんで子供が?!」
こういう場面では、森の中で一人で暮らしている、世捨て人っぽいおじいさんかおばあさんが出てくるのがセオリーじゃないのか?
――などと余計なことを考えていると、急にその小娘に腕を掴まれ、強引に小屋の中へと引きずり込まれた。
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