#4「ビビッタ」

 弱肉強食というのは世の常なのかもしれない。

 ――オークの巨大な棍棒が頭上に落ちてきた、その瞬間……

 オークよりもさらに巨大な“二足の飛竜”こと、ワイバーンが空から急降下し、オークの頭を鷲掴み(ワイバーン掴み?)にして、空高く飛んでいった。

 3メートルは越えるであろうオークの巨体を軽々と持ち上げるということは、あのワイバーン、どれだけの力があるのか想像ができない。

 しかもワイバーンは僕らに気付くことすら無かった。空の王者ワイバーンにとっては、僕らの存在なんて、虫と同じぐらい小さなものでしか無いのだろう。

 あまりの出来事に、僕らは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 ともあれ、僕とミハルはピンチを乗り切った。……何もしてないけど。

 僕らは道端にあった大きな岩に座って、ひとまず緊張を解いた。


 僕は目を閉じて、今起きた出来事を思い返してみた。

 そして考えをまとめたところで、横でぼーっと口を開けているミハルに聞いた。

「ねぇミハル」

「……何?」

 ミハルはよだれを拭きながら答えた。

「ここ、どこだと思う?」

「まぁテレビ局の16階じゃないだろうね……」

「僕はもしかしたら、すごく高度なVRアトラクションかな……とか思ったりもしたんだけど」

 ミハルはため息をついて答えた。

「こんなにすごいVRがあったら、私たちがとっくに取材してるでしょ」

「確かにそうだよね。テレビが放っておくわけないよね」


 ――ということは、やはりこの世界は現実なのだろう。

 でもそれを素直に受け入れられないのは、今の一連の出来事が、まるで映画やゲームの世界のような出来事に見えたからだ。

 僕は考えた末に導き出した仮説を口にした。

「やっぱりさ……ここって、異世界なんじゃないかな?」

「……まぁそうだろうね」

 ミハルは表情を変えず、呆然としたままそう言った。


 ――まぁどう考えても答えはそれしかなかった。

 僕らがテレビ局の16階でヘリの事故に巻き込まれた時に何かが起きて、この異世界にやってきてしまったんだろう。

 そういえばあの時、紫の球体に包まれたような気がしたけど……。


 そんなことを考えていると、突然ミハルが立ち上がった。

「ってことは、冒険しろってことだよね!」

「……えっ?」

「私たちが主人公になって、怪物を殺しまくって、話が進んでいくんじゃないの?」

「そうなの?」

「そうじゃなきゃ、こんな世界に呼ばれないでしょ」

 確かに、ミハルの考えが一番納得できる筋書きだ。

 でも、仮にそうだとしても、なんでこんな20代中盤のテレビ業界の男女が主人公なんだ?


 怪物と戦うなら、僕らのような日々運動不足の連中より、もっと向いてる仕事をしている人たちがいるだろうに。

 それどころか、日頃からゲームとかやってる学生なんかが主人公になった方が、話も広がるし、展開もいろいろ考えやすいだろう。

 誰だこの話を考えたポンコツシナリオライターは。同業者から厳しいことを言わせてもらうけど、ヒットなんて絶対に見込めないぞ!


 まぁシナリオ云々は置いといて、いったいどういうことなんだろうか。

 僕らがこの世界に来たのには、何か理由があるのだろうか?


 僕が思考を巡らせているのをよそに、ミハルはいきなりスイッチが入ったかのように、あたりをウロウロと動き回っていた。

「とにかくさ、武器見つけようよ!武器!さっきみたいなデカイの相手だったら、武器がいるよ絶対!」

「たとえ武器があったとしても、ぜんぜん勝てる気がしないんだけど……」

「そこは気合いでさ、なんとかなるでしょ!」

 まったくもってディレクター気質というか、実は体育会系が多いテレビ業界人ならではの、テンションの爆上げっぷりだった。

「気合いでも、なんとかならないと思うけどなぁ……」

「バカだな。なんとかしていくのが楽しいんだよ!」

 ミハルはまるで冒険活劇の主人公のような「ワクワクすっぞ」的なセリフを残して、一人ヒールを脱ぎ捨て、森の中へ突っ走っていった。

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