#3「わくわく怪物ランド」

 僕とミハルが、森の中の道を歩いていると、何やら得体の知れない物体と遭遇した。

 物体というよりは、生き物…さら言えば人のように見える。

 その物体までの距離は100メートルほどはありそうなので、ぼんやりとしたシルエットしか見えない。

「ちょっと、くまちゃん、あれ、人じゃない?」

 ミハルが不安そうに言った。

「うーん、背格好からすると子供みたいだね」

 僕は恐怖よりも好奇心が勝り、じーっと目を凝らしてそれを見てみた。

 ――すると、その怪しい影は、僕らの方に向かって、猛ダッシュしてきた!

「ヤバっ!ミハル!逃げよう!」

「えっ!ちょっと、私、無理!」

「なんで!?まさか腰が抜けたとか?」

「じゃなくて……ヒールだから!」

「はぁ?!いつもスニーカー履いてんじゃん!」

「だって、今日の夜、久しぶりの合コンだったんだもん……」


 ――すっかり忘れていたが、ミハルは彼氏いない歴=年齢という噂の、20代半ばの妙齢の女性だった。

 見た目は悪くないものの、酒癖の悪さと、男勝りの行動力に、男性たちからはいつも「この娘は一人でやっていける」と思われてしまうのだそう。

 少しかわいそうだが、子供の頃から貫いてきた生き方はなかなか変えられないらしい。

「ぷぷっ『だもん』だって」

 僕はミハルがめったに口にしない女子っぽい語尾の真似をした。するとミハルは頬を赤らめ、ポカポカと殴りかかってきた。

「もう!ばっかじゃないの!」

「うーん、こういうのもまぁ…たまにはアリかな」


 ……実際のところ1年に1度ぐらいは同期に萌えるのもアリかもしれない。

 男の性(さが)というのは厄介なもので、1年に1度ぐらい珍味を食べたくなることがあるものだ。

 ――そして食べた後に後悔するのだった。


「バカくま!この状況で何ブツブツ言ってんの!」

「あっ、しまった!もうそこまで来てるぞ!」

 自らの食癖の探求をしている間に、謎の影はすぐ近くまで迫っていた。ミハルはヒールのせいで逃げられる状態ではない。

 この大ピンチの状況で、間近に迫った生き物の正体がハッキリとわかった!

 その正体は……

「おいおい!オークじゃねーか!!」

 それは背の高さ3メートルほど。二足歩行をするイノシシのような怪物「オーク」だった。

 凶暴そうなオークは手に持った巨大な棍棒を振り回している。

 かなり遠くにいたため、子供のように見えていたが、間近でその姿を見ると、そびえ立つ壁そのものだった。

「ヤバイ!死ぬ!マジ死ぬ!」

 ――僕は猛ダッシュで逃げようとした。


 ところが、その場で転んでしまった。

 ――先に腰を抜かしていたミハルが僕の足首を掴んでいたのだった。

「コラ!かよわい女子を置いて逃げるな!それでも男か!」

「た、助けを呼びに行こうと思ったんだよ!」

「呼びに行ってる間に私が殺されるだろ!」

「そうか!確かにそうだ!」

 そんな馬鹿な会話を交わしている間に、オークの棍棒が頭上に迫っていた!

 死を覚悟したその瞬間――

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