#2「夢の森MORI」
どうやら僕とミハルは森の中にいるようだった。
木が鬱蒼と茂っているけど、林なのか森なのか、はたまたジャングルなのか判別することはできない。
とりあえずたくさん木が生えているから森ということにしておこう。
――ところでみなさんは、いきなり森の中に迷い込んだ時、どうしますか?
おそらくスマホで現在位置を確認するかと思います。
ということで、僕らも真っ先にスマホでマップアプリを起動してみた。
――圏外で繋がらない。まぁ、どう見ても周りに基地局とか無さそうだもんね。
で、次にどうしたかというと、分け入れそうな茂みの中を少し歩いてみた。
すると人が通れる道のようなものを見つけたので、そこを歩くことにしたんだけど、どっちに行くのが正しいのか見当もつかなかった。
「なぁ、ミハルどう思う?」
「そんなのわかんないよ。それに、わかってたらもう行ってるよ」
「そりゃそうだな」
このような状況で何かを決断しなければいけない時に“コレ”という決め手に欠けている場合、決断する術は「勘」になると思う。
それが一人の時は全部自分の責任になるから問題は無い。
ところが二人で行動している場合、勘で決めるには、パワーバランスがどちらか一方に傾いていないと、決断には至らない。
例えば上司と部下の場合、どっちの勘が優先されるかといえば、上司の勘になるのが常だろう。
ところが僕たちの場合、パワーバランスは拮抗しているので、勘で決めることはできない。
さすがに見知らぬ土地で別行動というわけにはいかないので、二人で“あること”をして行き先を決めることになった。
――その“あること”というのが……「相撲」
腕相撲じゃなくて、ガチの相撲。
ミハルとの話し合いの結果、押し出しは無しで、負けた方が倒れた時に頭が向いている方向へ進むことになった。
……これって、棒を倒して進むのと変わらなくないか?
そんな疑問を置き去りにするかのように、ミハルはすでにやる気満々だった。
「おっしゃ!くまちゃん!いつでもこい!」
「こんにゃろ!手加減はしないぞ!!」
「はっけよーい!のこった!」
森の中で大の大人、それも男女二人がガチ相撲。
体格はもちろん僕の方が大きい。だけど気合いと根性はミハルの方が遥かに上だ。
僕はジーンズ、ミハルはサルエルパンツを履いていたので、お互いにまわし代わりにベルトを掴んでの取り組みになった。
勝負は白熱した接戦になり、どちらも譲らず、一分を越える大相撲になった。
どこからか行事の声も聞こえ始めたが、もちろん幻聴だ。
差しつ差されつの大相撲が続き「ランナーズハイ」ならぬ「スモウズハイ」になりかけた時、ふと我に返った。
(僕らなんで相撲とってんだろ?)
そう思った瞬間、ミハルにぶっ倒されてしまった。
そりゃもう、見事なまでの華麗な上手投げをくらった。完敗だった。
で、倒れた僕の頭はどっちを向いていたかというと……前後に伸びる道ではなく、脇にある茂みの奥を向いていた。
「あちゃー!くまちゃんどうする?もう一番、取り直す?」
「いや……体力的にムリ……」
頭脳労働のもやしっ子の放送作家にガチ相撲の仕切り直しはムリだった。
予想していなかった事態に、僕もミハルも戸惑い、ほぼ同時に頭を抱えた。
――僕らの業界によくありがちな「正解パターンしか見えてない」ってやつだった。
台本を作る時に陥りがちな、理想的な展開や結果だけしか見えていなくて、想定外の事態に対応できないパターンだ。
まぁそのハプニング感が面白くなることもあるんだけど……。
結局、勝ったミハルが、どっちに進むか決めることになった。
後から思えば、最初からシンプルにそうしておけば良かったのかもしれない。
ただそれは後から言えることであって、必死に相撲をとっていた僕たちには気付く余裕もなかった。
「それじゃあっちでいいや」
もちろん根拠もへったくれもない。
こうして僕らは、森の中を北か南か東か西かよくわからないけど、ある方向に向かって歩き始めた。
すると、しばらく歩いたところで、ここが日本ではないとハッキリわかる、謎の物体と遭遇してしまったのだった。
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