Appendix: ほーかごの★こーりゅー!

こーりゅー★1

ここからは、本編とは直接関係ない番外編(誰も死なないゆるふわ日常系?)です。

本編のあとに読んでください。


【登場キャラクター紹介】

白石しらいし琴乃ことの

『怠け者』男子の百倍女子にモテるスポーツ万能王子様。でも、実は可愛いもの大好き。

不破ふわ静海しずみ

『独裁者』実は大家族の長女で、家では優しいお姉ちゃん。シスコン。

鶴井つるい千衣ちい

『卑怯者』現代社会が抱える闇(その1)。早く更生してほしい。

奥村おくむらディミトリア

『嘘つき』実はアニヲタ。ダウトって言うときのキメ顔が若干うざい。

大神おおがみひびき

『臆病者』現代社会が抱える闇(その2)。早く逮捕されてほしい。

土岐とき励子れいこ

『偽善者』性欲の権化。

城ケ崎じょうがさき心花このか

『愚か者』ポンコツ生徒会長。生徒会選挙の演説で「ノブレス・オブリージュ」という言葉を連呼したせいで、陰でノブ子って呼ばれてる。

飯倉いいくら絵里利えりり



――――――――――――――――――――




「『シャッフル』! 『1番』が、『シズが良いって言うまで語尾にニャをつけて喋る』ーっ!」


 静かな図書室中に、静海のそんなバカっぽい声が響いた。


「え……?」


 それがあまりにも唐突で、予想外の行動だったせいで、その場のみんなは驚きを隠せない。キョロキョロと周囲を見回しながら、何が起こったのかを把握しようとしている。

 いや……、


「お前ら、まーだシズちゃんのこと分かってないの? こんなのに、まんまと引っ掛かっちゃってさ」

 鶴井千衣だけは、この現状をちゃんと理解してるみたいだ。彼女は私たちに見えるように、自分の左手の甲を向けた。そこには、『7』という数字が書かれていた。


 あ、あれって、もしかして『独裁者』の番号……? じゃあ、さっきのって……。


 でも、その千衣の数字はみるみるうちに薄くなって、すぐに消えてなくなってしまった。まるで、自らの役目を終えたかのように。遅れて私が自分の手の甲を確認してみても、すでに左右どちらの手にも数字は見えなくなっていた。


「やれやれ……」

 そこで、私と同じように自分の手を確認していた誰かが、話し始めた。

「完全に、してやられちゃったね? つまり、さっきの静海の『命令』で『1番』の番号を振られた子は、語尾が今『ニャ』になっているってことだよ。まったく……下らない『命令』だよね」

 言ったのは、『怠け者』の白石さんだった。

 みんなが不思議そうな視線を向けているのに答えるように、彼女は続けた。

「あ、ちなみに僕は『1番』じゃないよ? ……いや、自分が何番だったかは、確認する前に番号が消えちゃったから分からないんだけどさ。

 だけど……実はさっき、驚いて思わず『え』って声を出しちゃったのは、僕だったんだよ。でも、そのときに僕の語尾は『ニャ』じゃなかった。だから、『命令』されたのは僕じゃなかったって分かったのさ」



「……!」

 その瞬間……残された人たちの間に形容し難い緊張感が走った。



 さっきの静海の言葉は、やっぱり『独裁者』の『命令』だったんだ。つまり、私たちの中で『1番』を振られた人間は今、語尾が『ニャ』になっていて……しかもそれは、静海が『いい』って言うまで続く……。

 あの頭のイカれた静海のことだ。下手したら、一生『いい』なんて言わないかもしれない。そうなったら、その『1番』の人は一生語尾が『ニャ』の痛キャラになっちゃうってことになる。

 も、もしも、私が『1番』だったりなんかしたら……。



 「私は、飯倉絵里利だニャ! よろしくニャ!」

 「ダウトニャ! ディミ子ちゃんこそが、本当の『嘘つき』だったんだニャ!」

 「私は……最低最悪な、『裏切者』だった……ニャ」


 ……って、バカか⁉ そんなの嫌すぎるわっ!


 恐ろしい想像に、寒気を感じた私。今の現状が相当ヤバいということは理解した。

 とりあえず、周囲を観察する。


 今、図書室には、この灰色の世界にいるすべての人間が揃っている。つまり……白石さん、静海、千衣、ディミ子ちゃん、大神先輩、土岐先生、城ケ崎さん、そして私。静海をのぞくと、七人だ。

 そして、さっき千衣が見せた番号も『7』だった。

 静海の『独裁者』は、『シャッフル』の声を聞いた人間に、ランダムに1から始まる番号を振る。さっきの静海はあまりにも唐突に『独裁者』の能力を使ったものだから、みんな耳を塞いだりして防御することが出来なかった。多分、静海以外のこの場にいる全員が『シャッフル』と『命令』の対象になってしまったってことだろう。そして、そのうちの『1』を振られた人間の語尾が今、『ニャ』になっている……。

 もう、誰が何番なのかは、番号が消えてしまっているから分からない。実際に声を出してみれば、自分の語尾が『ニャ』になっているかどうかは分かるけど……それは同時に、他の人にもそれがバレるってことだ。そんなことになったら……、

「それでそれでぇー? 『1番』だぁーれだぁー?」

 本物の王様ゲームみたいに、無邪気にそんなことを言う静海が憎たらしい。

 こいつのことだから、『1番』が誰なのか判明したら、次はその人のことをメチャクチャにイジり倒して、はずかしめるに決まってる。そんな屈辱、耐えられない!


「あーあ、シズちゃんの『命令』なんか食らっちゃって……ほんと、バカな奴ら」

 『7番』だったことが分かっている千衣が、私たちをあざ笑っている。

「私みたいに、常にシズちゃんの声に耳をすませて、シズちゃんの一挙手一投足を観察していれば、『独裁者』の『命令』なんて簡単に回避出来るのに」

「常に観察って……。千衣、それは普通にキモイんだけど……」

「ちょ、ちょっとシズちゃん? そ、そんなにドン引きしないでよっ⁉ そ、そんなの……興奮しちゃうじゃん」

「げぇ……」

「あはは。もういっそ、『1番』の子には猫耳でもつけてもらおうか? 演劇部の部室にないかなー?」

 自分が安全だと分かったからって、白石さんも勝手なことを言っている。


「……」

「……」

「……」

 それ以外の、いまだ『容疑者』の私たちは、無言でお互いを見つめ合っている。

「……」

 誰かが声をだして、その人の語尾が『ニャ』になっていて『1番』だったことが判明すれば、それが一番いい。そうなれば自分は安全だから、自由に喋ることが出来るようになる。

 逆に言えば、それまで私たちは声は出せない。自分が『1番』だったときのリスクが大きすぎて、下手な行動が出来ない。

 みんなそれが分かっているから、他の人の様子をうかがっているしかなかった。


 と、思っていたのだけど……。

「ね、ねえ……?」

 空気を読まないポンコツ生徒会長が、挙動不審な様子で私に耳打ちをしてきた。

「みんな、さっきから何の話をしているの? 『語尾がニャ』とかって、何のこと?」

 ったく、この『愚か者』は……。

 でもとりあえず、この人も『1番』じゃなかったみたいだ。耳打ちする言葉に『ニャ』はついていない。っていうか、そもそも現状を全く理解できてないみたいだし……。私はまだ声を出すわけにはいかないので、そんな城ケ崎さんを無視した。


 なんにせよ、これで『容疑者』が一人減ってしまって、私が『1番』の可能性も上がってしまったことになる。

 あと、残っているのは……。


「もおー、やぁだー⁉ 先生が『1番』だったニャンてー! こんな語尾、恥ずかしいニャーンっ!」

「…………」

「シズちゃーん、許してニャン? あたし、こんな語尾のままじゃ、もう先生続けられないニャーン。……うふっ」


 気色悪いアラサーがなんか言い出したけど、誰も相手にしない。

 っていうか、『ニャン』じゃなくて『ニャ』だし。わざとそんな語尾つけて喋って、招き猫みたいなポーズまで決めて……もしかして、今の自分のこと可愛いとか思ってる? 実際のところ、相当キツいからな? いい加減、自分の歳考えて行動しろ!

 声を出すことが出来ない今の私は、土岐先生にそんな言葉を言って、現実を思い知らせてあげることも出来ない。


 ……ともかく。

 これで『容疑者』は三人にまで減ってしまった。あとは、私と…………え?

 ちょ、ちょっと……。な、何して……⁉

 そこで突然、いつの間にか背後にいた大神先輩が、私をくすぐり始めた⁉ こ、この人、私を喋らせるために強硬手段に出やがった! 大人しいふりして、意外とこういうこと平気でやる人なんだよな!


「……! ……っ!」

 ちょ、や、やめ……やめて、ってば……。

 先輩の腕を押さえて、くすぐり攻撃を何とか阻止しようとする。でも、小柄な先輩からは考えられないほどのすごい力で、彼女もそれに抵抗してくる。

 ああ、もう! 声出さずに我慢するのにも、限界があるんだからね⁉ いい加減ほんとにやめて……く、くれないと……。わ、私、こういうの……本当に、弱くて……。あ、あああああぁぁぁー……。

「や、やめてってばぁーっ!」

「……あうっ!」

 ついにくすぐり攻撃に耐えきれなくなって、私は大神先輩を力いっぱい押しのけてしまった。

 その勢いで吹き飛ばされた先輩は、図書室の本棚にぶつかって、上からドサドサと落ちてきた何冊もの辞書に押しつぶされてしまった。

 こんなの、どう考えても自業自得だけど……。

「わ、わぁーっ! だ、大丈夫ですかっ⁉」

「は、はい、なんとか…………あ」

「あ」

 一応、先輩の身を心配して彼女に駆け寄る。そこで、私たちは気づいた。

 私も先輩も、うっかり声を出してしまっていたけど……語尾は『ニャ』じゃなかった。


 すでに、他の人たちもそれが意味することを理解したようだ。

 図書室にいた全員の視線は、最後に残った「ある一人」のほうへと向けられていた。



「おやぁー? おやおやぁー?」

「うわー。よりにもよってこいつが『1番』とか……ウケる」

「これは、面白くなってきたね」


 それは、静海の『命令』からまだ一言も声を発していない……『嘘つき』のディミ子ちゃんだった。


 ……え?


 え? え?


 じゃ、じゃあ……『命令』で語尾が『ニャ』になっちゃった『1番』は、ディミ子ちゃんだったってこと?


 この、いつも落ち着いていて冷静で、冗談なんかめったに言わないような、マジメそうな子の……。


 今だって、「え? どうかしましたか? 私、全然焦ってませんけど?」みたいな顔して、スカして紅茶なんか飲んでる、このハーフ外国人の……語尾が、『ニャ』に……。

 頬を赤らめて、照れながら、『ニャ』とか言うディミ子ちゃん……。ヤ、ヤバい……。そんなの、見た過ぎるんですけど⁉


 さっきまでは自分が痛キャラになりたくなくて恐々としていたのに、いざ安全圏に入ると、俄然に楽しくなってくる。っていうか単純に、今まで散々してやられてきたディミ子ちゃんの痛くて恥ずかしい姿を見たい、という欲求を押さえることが出来ない。

「あれー? あれあれあれー?」

 私も静海たちに加わって、テーブルを取り囲んでディミ子ちゃんを煽り始めていた。


「ディ、ディミ子ちゃーん? なんだかさっきから、静かじゃなーい? ちょっと、私とお話ししなーい?」

「……」

 無言で微笑む彼女。でも、そんなことじゃ私はごまかされない。

「いやいやいや……。分かってるでしょう? 私たちは、ディミ子ちゃんがあざとくニャーニャー言うところを見たいんだよー! ねえ、だから見せてよー? ディミ子ちゃんのカワイイところをさあーっ!」

「……」

 彼女は、やっぱり何も答えずに紅茶を飲んでいる。


 でも。

 このままずっと黙ったままでいるのが、彼女のプライド的に逃げに感じて許せなかったのか……そこでようやく紅茶のカップをテーブルにおいて、彼女が口を開いた。

「そうですね……」

 お、おおお?

 く、くるか? 『ニャ』が、くるのか……?


「イタリア、ナポリが発祥の平たいパスタ料理の名前はラザー……ニャ」

 ……は?

「スペイン北東部の州、カタルー……ニャ」

 いやいやいや……。

「『知恵』という意味の仏教用語で、鬼のような形相のお面が有名なハン……ニャ」

 いや……確かにディミ子ちゃん今、喋ってるけどさあ……。言葉の最後も、『ニャ』になってるけどさあ……。

「あのね……違うでしょ、ディミ子ちゃん? 私たちが今聞きたいのは、そういうことじゃないでしょ?」

「そぉだよぉー? いまさら日和ったこと言ってないでぇ、『ディミ子だニャ!』、『ご主人様にナデナデしてほしいニャ!』とか、言えって言ってるんだよぉー!」

「励子だニャン? ナデナデしてニャン? ……もおやだー! シズちゃんったら、先生になんてこと言わすのよー⁉」

 痛いアラサーは相変わらず無視して……、


「だから、ね? いいでしょ? 一回だけ、一回だけでいいから……? ディミ子ちゃんの口から『ニャ』を……あざとい猫語を、聞かせてよ? ねえ? ねえ? ねえ?」

 無意識のうちに、目を血走らせている私。


 ふと見ると、大神先輩や鶴井千衣はこんな必死な私に引き始めているのか、ちょっと距離をおいている。なんとしてもディミ子ちゃんに『ニャ』を言わせようと詰め寄っているのは、もう、今では私と静海くらいだ。

 でも、これは仕方ない。だってこれは、ディミ子ちゃんの恥ずかしいところを見れる滅多にないチャンスなんだから! こんなチャンス、逃すわけにはいかないんだから!


 ……なのに!

「ロシア人女性アンナの愛称としてよくあるのはアー……ニャ。柔らかくて腑抜けている様を表すオノマトペは、フニャフ……ニャ」

 ディミ子ちゃんときたら、さっきからこんなことばっかり言って! そんなに、語尾が『ニャ』って言うのが嫌かよ⁉

 いいじゃん! 一回くらい!

 銀髪ハーフ美人のディミ子ちゃんなら、猫キャラでもギリ許されるかもしれないじゃん⁉ それで『ニャ』に目覚めて、新しいキャラ開発出来るかもしれないじゃん⁉

「南米の海域で海水温が上がることを意味する、気象現象の名は……」

 なのに、またそうやって!


 ……ん?


 そこで、なぜかディミ子ちゃんの言葉が止まってしまった。

 さっきまで、知識をひけらかすみたいに最後に『ニャ』がつく言葉を言って語尾を誤魔化していた彼女が、突然口を閉じてしまった。

 ……というか、両手で口を押さえてる?


 突然の彼女のそんな行動を不思議に思っていると、同じように不思議そうな表情をした城ケ崎さんが、隣でつぶやいた。

「海水温が上がるのは、スペイン語でイエス・キリストを意味する『エルニーニョ』ね。でも、それには『ニャ』はつかないわ。

 『ニャ』がつくのは、海水温が下がる『ラニーニャ現象』のほうじゃないかしら……?」

「え……」

「……」

 その言葉を聞いた全員が、またディミ子ちゃんに注目する。


 じゃ、じゃあ、もしかしてもしかして……。

 ディミ子ちゃんはさっき、最後に『ニャ』がつく言葉を言って語尾を誤魔化そうとして……間違えちゃったってこと?

 『エルニーニョ』は『ニャ』で終わらないから、今のディミ子ちゃんがそれを言うと、「エルニーニョだニャ」とかになっちゃうってこと……?


「エ……エ……エルニーニョ……ニ……ニ……くっ」

 

 苦しそうに顔を歪めながら、自分の口を両手で押さえつけているディミ子ちゃん。でもその手の指の間をぬって、自動的に開く口の隙間から……『ニャ』がこぼれ落ちようとしている。

 お、おお……。

 つ、ついに出るか? 出るのか? 彼女の口から、あの、痛い語尾が……。


 もう、どうして自分がこんなに『ニャ』を切望しているのか、自分でもよく分からない。でも、ディミ子ちゃんが必死になって『ニャ』を言わないようにしているのを見ると、私も引くに引けなくなってるんだ。

 これは、私たちとディミ子ちゃんの、意地の張り合い。お互いのプライドとプライドをかけた戦いなんだ。


「……ニ……ニィ……」


 そして今、その戦いが決着しようとしている。

 ディミ子ちゃんの口から、『ニャ』の二文字が発せられようとしている。

 あざとすぎるほどあざとい猫みたいな語尾が、あの、ディミ子ちゃんの口から……。


 期待に目を輝かせた私と静海が、ディミ子ちゃんの『ニャ』を待ちわびて、彼女に耳を近づけていく。

 そして、ついに……。


「これ以上フザケたことをしていると、ぶち殺しますよ……ニャ?」

「うげぇっ!」

 突然ディミ子ちゃんが、両手で静海の首を掴んだ⁉

「ちょっ! ディ、ディミ子ちゃん⁉」

「う、うぐぅ……」

「早く『いい』と言わないと、どうなっても知りませんよ……ニャ?」

 ディミ子ちゃんは、あくまでいつも通りの笑顔のままで、静海の首を締め付けている。静海の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

「お、おいっ⁉」

「ディミ子ちゃんってばっ!」

 焦った鶴井千衣と私が駆け寄って、彼女の手を離させようとするけど……まるで万力で締め付けているみたいに、完全に固定されて全然離れない。

 ディミ子ちゃんって、こんなに力強かったの⁉ っていうか、このままだと静海が……!

「う、うぅ……きゅう……」

「ディミ子ちゃん! もうホントにそのくらいにしないと、静海が……し、静海がもう、限界だから! こ、これ、『誰も死なないゆるふわ系』なのに、このままだと……!」

「『いい』と言ったら、すぐにでも離してあげます……ニャ」

「い、言う……。言うから……。い……い……」


 ガクッ……。


 そこで、意識がとんでしまったらしく、静海は口から泡を吹いてグッタリとしてしまった。

 ディミ子ちゃんは、首を締めていた手を離して、静海をボロ雑巾のように床に捨てると、

「さて……あとは……」

 とつぶやきながら、今度は私たちの方に向き直った。


 その表情も、さっきまでと同じような優しい笑顔だ。

 でも……その微笑みの奥に、これまで感じたことのないような強烈な殺意を感じて、私たちは震え上がってしまった。

 完全に、この場を恐怖で支配したディミ子ちゃんは、

「皆さんの中で、さっきの私を録音したり録画していた方がいましたら……正直に申し出ることをオススメします。

 私も、不破さんのようなことをこれ以上したくはありませんので……」

 と言って、ニッコリと笑った。


 その瞬間、私と大神先輩、それから白石さんが、急いで自分のスマホを取り出して……それを思いっきり床に叩きつけて破壊した。その三人は、コッソリディミ子ちゃんの『ニャ』言葉を録音して、あとで彼女をからかおうとしていたんだ。

 他の人たちも、激しく首を左右に振りながら、自分の無実を証明するようにスマホの画面をディミ子ちゃんに見せている。


 全員を見回して、やっと納得してくれたらしいディミ子ちゃんは、

「ありがとうございます。これでもう、問題はなくなりましたニャ……なんてね」

 と言って、また紅茶を飲み始めた。



 気絶して崩れ落ちている静海と、床に粉々に砕け散ったスマホの残骸を見下ろしながら……私たちは共通の一つのことを考えていた。それは……、


 ディミ子ちゃんは、怒らせちゃいけない人だ、という事実だった。

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